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【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第9章 雪と氷と呪いの女王~ヴィルガー王国編
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第108話 疑惑のルビー

108話更新しました


 ラウネル城に戻り、世話になった船乗りたちには、充分な礼金を支払うよう指示をする。

「しばらく戻らない」

「陛下、お待ち下さい」

 政務のことなどまだ勉強中で、実務など何もできない私を引き止める諸侯に、うんざりする。


 玉座など欲しいやつにくれてやる、何度言いそうになったことか。貧乏貴族から突然、王になった私の気持ちなど、誰もわからないくせに。


「……お前達」

「はっ」

「私には黒百合の女神の加護がついている。暗殺しようとしたも無駄だぞ」

「……そのようなことは……」

「ならば良い。私が戻るまでまかせたぞ。黒百合、行こう、ヴィルガー王国へ」


 黒百合の女神が、「行くわよ」と私の手を引っ張った。



「待ちなさいよ!!」




 走って黒百合の女神に体当たりをしたのは、レナだ。

 幼馴染で、親が決めた婚約者、ではあるのだが、兄が戦を初めてからほとんど会っていなかった。

 今は同じ城で暮らしているが、顔を合わせることはほとんどない。

「……レナ、何をする」

「婚約者を放っといてどこに行くのよ! あなたはこの国の王なのよ」

「何が婚約者だ、今まで私と会おうともしなかったくせに。どういう風の吹き回しだ」

 その時、ぐいっと黒百合の女神が腕を引っ張った。

「めんどくさいから、話は今度にしてねお嬢ちゃん」



 城内から突然、雪の中に放り出される。

「ええ……?」

 ハイラが尻もちをついて、立てるか、とメキラが手を引っ張った。

 魔法で一瞬でヴィルガー王国へ戻ったらしい。

「なにこれ便利」

「一度行ったことのある場所なら、連れてってあげるわよ」

「先に教えてくれればいいだろう」

「聞かなかったじゃない」

「……それなら、今のは?」

「行こうって言ったでしょう?」 

「……ありがとう、すごく助かった」

 彼女が一緒なら、なんとかなるような気がしてきたぞ。


「カイン、甘ったれないでね。ありがとうって言っときゃなんとかなるって思ってない? 私は、何をしてほしいか言ってもらわなきゃ解らないんだから」

「まだ何も言ってないけど」

「さて、あと3ヶ月で殺される予定の王様。お茶ぐらい出してくれるかしら」

「もちろんです、まずはこちらへ」

 アイフィアが黒百合の手を取り、歩き出した。


 さっ行こう、とハイラが肩を叩いた。

「いいかカイン、黒百合の女神にたいしては、こちらから『何か方法はないか』と聞かないといけないみたいだ。機嫌が悪いわけじゃないよ、あれはわざと冷たくしてるだけだ」

「えっ、なんで」

「ウチの方の仏、あー、他の神々もそうなんだが……。神々には人間の悩みや苦しみがわからないからだ。生まれてこのかた、困ったことがないのだからな。察してもらうことが土台無理なんだ」

「そういうものか」

「うん。黒百合の女神は、彼女から話してくれることはないと思った方がいい。こちらから頼んで、情報を引き出すんだ。気分を上げれば、協力してくれそうな感じだ。君のお兄さんや……、ローズさんは、彼女との距離感がわからなかったのかもしれないな」

「カイン、俺たちが彼女につくから安心していい」

 ハイラとメキラに励まされ、気を取り直す。


 ヴィルガー城へ戻り、ガラス張りの花園に通し、アイフィアは食事の用意をさせた。

「兄上、カイン、ずいぶん早いお戻りで……。無事で安心しました。そちらは」

「……黒百合の女神、様だ。失礼のないように」

 レイフィアが驚きながらも宴席の用意を整えた。

 女神の口に合えばよいのですがと、贅を尽くした料理と色とりどりの菓子にフルーツ、紅茶に酒が並べられた。礼を尽くしたもてなしに、黒百合の女神は満足したようだ。




「さて、と。呪いを解こうとしてるなら、まずはその情報を全部教えなさいな」



 事件のあらましたはこうだ。

 女王フレイアには息子がいたが、突然、行方不明になった。将が、山賊に攫われたのだと報告し、女王は兵を率いて、カイラース山山中へ向かうが、王子もろとも殺されてしまう。女王は呪いの言葉を吐き、絶命した。

「それ以降、王権を奪った、家の者たちは呪い殺され……。子が生まれるか、彼女の殺しの犠牲になるかのいたちごっこだ」

 二十歳まで生きられれば、呪いから逃れることができるが、女王が現れ、直接指定された場合はどうにもならない。カウントダウンの中で生きる羽目になる。


「アイフィア殿。その王子の墓はどちらに」

「ない。カイラース山は険しいところで、暗殺した王子の亡骸など誰も回収しなかったのだろう。遠い昔の話だ、詳細はわからない」

「解りました。オレ達の出番だ」



---


 テーブルの上の、菓子が乗った皿にハイラは手を伸ばした。パキっとクッキーを割る。

「子を殺されたから、敵の子を殺す。女王の思いはもっともだ。しかし、それでは恨みは止むことはない」

「彼は我を罵った、彼は我を殴った、彼は我を打ち負かした、彼は我から強奪した」

「このように執着する者には、ついにその怨みがやむことはない。我らの神々の教えだ」


 そこでだ、とハイラはテーブルを指で軽く叩いた。

「女王から子も国も奪ったんだ、そりゃあ、恨まれるだろう……。まず、旧王家の王子を弔おう。その上でだ、まずアイフィアだけでも延命してもらうように頼もう」

「頼むって……。殺されるのではなくて?」

「そこで、あなた様の出番です、黒百合の女神」

「その王子を弔うために何ができるか考えましょう。その間に妨害されるようであれば、守っていただきたい。聞けば、大勢の子供を殺しているようですし。よほどの強い魔力を持っているのでしょう。あなた様にしか頼めません」

「それなら構わないわよ」

「恐れ入ります。……アイフィア殿、何か、王家の証になるような物はありませんか。王冠とか指輪とか王笏とか」

「ある。ネックレス、でいいか」

 レイフィアに命じて、家宝のネックレスを運ばせた。

 宝石箱の中に収められた、見事なルビー。

 周囲を囲むダイアモンドの輝きに目がくらむ。

「レコードキーパー、代々、ヴィルガー王国に受け継がれてきたものだ」

「本物かしらねえ」





新キャラ・レナはカインの婚約者です。しばらくしたらまた出ます。

感想、ブクマなどお待ちしておりますー! 


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