第108話 疑惑のルビー
108話更新しました
ラウネル城に戻り、世話になった船乗りたちには、充分な礼金を支払うよう指示をする。
「しばらく戻らない」
「陛下、お待ち下さい」
政務のことなどまだ勉強中で、実務など何もできない私を引き止める諸侯に、うんざりする。
玉座など欲しいやつにくれてやる、何度言いそうになったことか。貧乏貴族から突然、王になった私の気持ちなど、誰もわからないくせに。
「……お前達」
「はっ」
「私には黒百合の女神の加護がついている。暗殺しようとしたも無駄だぞ」
「……そのようなことは……」
「ならば良い。私が戻るまでまかせたぞ。黒百合、行こう、ヴィルガー王国へ」
黒百合の女神が、「行くわよ」と私の手を引っ張った。
「待ちなさいよ!!」
走って黒百合の女神に体当たりをしたのは、レナだ。
幼馴染で、親が決めた婚約者、ではあるのだが、兄が戦を初めてからほとんど会っていなかった。
今は同じ城で暮らしているが、顔を合わせることはほとんどない。
「……レナ、何をする」
「婚約者を放っといてどこに行くのよ! あなたはこの国の王なのよ」
「何が婚約者だ、今まで私と会おうともしなかったくせに。どういう風の吹き回しだ」
その時、ぐいっと黒百合の女神が腕を引っ張った。
「めんどくさいから、話は今度にしてねお嬢ちゃん」
城内から突然、雪の中に放り出される。
「ええ……?」
ハイラが尻もちをついて、立てるか、とメキラが手を引っ張った。
魔法で一瞬でヴィルガー王国へ戻ったらしい。
「なにこれ便利」
「一度行ったことのある場所なら、連れてってあげるわよ」
「先に教えてくれればいいだろう」
「聞かなかったじゃない」
「……それなら、今のは?」
「行こうって言ったでしょう?」
「……ありがとう、すごく助かった」
彼女が一緒なら、なんとかなるような気がしてきたぞ。
「カイン、甘ったれないでね。ありがとうって言っときゃなんとかなるって思ってない? 私は、何をしてほしいか言ってもらわなきゃ解らないんだから」
「まだ何も言ってないけど」
「さて、あと3ヶ月で殺される予定の王様。お茶ぐらい出してくれるかしら」
「もちろんです、まずはこちらへ」
アイフィアが黒百合の手を取り、歩き出した。
さっ行こう、とハイラが肩を叩いた。
「いいかカイン、黒百合の女神にたいしては、こちらから『何か方法はないか』と聞かないといけないみたいだ。機嫌が悪いわけじゃないよ、あれはわざと冷たくしてるだけだ」
「えっ、なんで」
「ウチの方の仏、あー、他の神々もそうなんだが……。神々には人間の悩みや苦しみがわからないからだ。生まれてこのかた、困ったことがないのだからな。察してもらうことが土台無理なんだ」
「そういうものか」
「うん。黒百合の女神は、彼女から話してくれることはないと思った方がいい。こちらから頼んで、情報を引き出すんだ。気分を上げれば、協力してくれそうな感じだ。君のお兄さんや……、ローズさんは、彼女との距離感がわからなかったのかもしれないな」
「カイン、俺たちが彼女につくから安心していい」
ハイラとメキラに励まされ、気を取り直す。
ヴィルガー城へ戻り、ガラス張りの花園に通し、アイフィアは食事の用意をさせた。
「兄上、カイン、ずいぶん早いお戻りで……。無事で安心しました。そちらは」
「……黒百合の女神、様だ。失礼のないように」
レイフィアが驚きながらも宴席の用意を整えた。
女神の口に合えばよいのですがと、贅を尽くした料理と色とりどりの菓子にフルーツ、紅茶に酒が並べられた。礼を尽くしたもてなしに、黒百合の女神は満足したようだ。
「さて、と。呪いを解こうとしてるなら、まずはその情報を全部教えなさいな」
事件のあらましたはこうだ。
女王フレイアには息子がいたが、突然、行方不明になった。将が、山賊に攫われたのだと報告し、女王は兵を率いて、カイラース山山中へ向かうが、王子もろとも殺されてしまう。女王は呪いの言葉を吐き、絶命した。
「それ以降、王権を奪った、家の者たちは呪い殺され……。子が生まれるか、彼女の殺しの犠牲になるかのいたちごっこだ」
二十歳まで生きられれば、呪いから逃れることができるが、女王が現れ、直接指定された場合はどうにもならない。カウントダウンの中で生きる羽目になる。
「アイフィア殿。その王子の墓はどちらに」
「ない。カイラース山は険しいところで、暗殺した王子の亡骸など誰も回収しなかったのだろう。遠い昔の話だ、詳細はわからない」
「解りました。オレ達の出番だ」
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テーブルの上の、菓子が乗った皿にハイラは手を伸ばした。パキっとクッキーを割る。
「子を殺されたから、敵の子を殺す。女王の思いはもっともだ。しかし、それでは恨みは止むことはない」
「彼は我を罵った、彼は我を殴った、彼は我を打ち負かした、彼は我から強奪した」
「このように執着する者には、ついにその怨みがやむことはない。我らの神々の教えだ」
そこでだ、とハイラはテーブルを指で軽く叩いた。
「女王から子も国も奪ったんだ、そりゃあ、恨まれるだろう……。まず、旧王家の王子を弔おう。その上でだ、まずアイフィアだけでも延命してもらうように頼もう」
「頼むって……。殺されるのではなくて?」
「そこで、あなた様の出番です、黒百合の女神」
「その王子を弔うために何ができるか考えましょう。その間に妨害されるようであれば、守っていただきたい。聞けば、大勢の子供を殺しているようですし。よほどの強い魔力を持っているのでしょう。あなた様にしか頼めません」
「それなら構わないわよ」
「恐れ入ります。……アイフィア殿、何か、王家の証になるような物はありませんか。王冠とか指輪とか王笏とか」
「ある。ネックレス、でいいか」
レイフィアに命じて、家宝のネックレスを運ばせた。
宝石箱の中に収められた、見事なルビー。
周囲を囲むダイアモンドの輝きに目がくらむ。
「レコードキーパー、代々、ヴィルガー王国に受け継がれてきたものだ」
「本物かしらねえ」
新キャラ・レナはカインの婚約者です。しばらくしたらまた出ます。
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