第105話 大海原へ
外洋に出ます。多少BL要素あります。ほんのちょっとです。
105話
港に着くと、エデルが待っていた。それにもうひとりいる。赤い髪に、細身の身体に簡易な胸当てをつけている。
「オレはハイラ。こないだ酒場で人を集めてたの見ていたよ。オレも同行させて欲しい」
「それはありがたい、ちゃんと到着すれば礼は払う」
「ありがとう。あと、図々しいお願いになるんだが……、無事にラウネルについたらオレに仕事を紹介してくれないか?」
ハイラは背中の弓矢を示し、
「猟師だったが、別の国も見てまわりたい」
と笑った。
「弓兵としても猟師としてても構わないなら」
「ああ。よろしく王様」
しっかり見つめて握手をしてくる。こいつにはぜひ生き残って欲しい。
船に乗り込むと、「兄上!!」と呼び止める声がした。
「レイフィア」
アイフィアが身を乗り出して答えた。
「兄上、必ずお戻りを」
「ああ。戻って、必ず呪いを解いてみせる」
ひょいと、私の腰を両手で掴んで持ち上げた。
「うわっ」
「私はカインを信じる。お前も、我らの無事を祈れ」
「……わかりました。兄上、カイン、どうか無事で」
桟橋からレイフィアは私に向かって頭を下げた。
錨を上げろー! とエデルの声がする。
レイフィアに手を振り、アイフィアは私の手を取った。
貿易で使われている船だが、外洋の、遭難が多い航路となるだけに、食料や水はヴィルガー王国が用意した。船室に入ると、ハイラが「腹いっぱい食っておけ、外洋に出れば吐く」と料理を持ってきてくれた。
「いいか、吐けば体力がなくなる。船は揺れて、寝ている間もふっ飛ばされるし、衰弱して死ぬ場合もある」
「わかった食っておく」
「あと、寝るときは紐でお互いの身体を縛っておくんだ。カイン、あんたは小さいから、転げ落ちて頭を打つ可能性もある」
ベッドには柵が取り付けられ、長いクッションがくくりつけられている。
きらきらと輝く水平線を頼んでいたのは最初だけで、港から外洋に出ると景色は一変した。
どこまでも続く灰色の空に、高い波が船を揺らす。
ハイラに教えられた通り、アイフィアはベルトに縄を通し、ベッドの柵につないだ。そして、私の腰の縄をつないだ。
重さのある布団に二人で潜り込む。上下に揺れる状態がずっと続き、横になっていてもなにか不安定だ。
「カイン、狭いだろうが私に捕まれ」
アイフィアの胸にしがみついて、揺れに耐える。布団の中で彼の暖かさにほっとする。兄が生きていた頃だって、こんな風に守られていると感じられなかった。
「……アイフィア」
「ん」
「抱きしめてて」
離さないで。
彼の手が頬を撫でて、「一緒にいよう」と口づけた。
翌朝、ハイラが起こしに来た。
「おはよう、頭は打ってないか?」
「……」
頭は打っていないが、常時視界が揺れて気持ち悪い。
「朝飯は食え」
「いらない」
「無理にでも食べろ、体力がなくなればどのみち死ぬぞ」
言われた通りに、焼いたベーコンやパンを千切って食べるが、口にいれたそばから吐きそうになる。先に食べ終えたアイフィアが、私の口を手で押さえた。
「飲み込みなさい」
吐き気をこらえて飲み込む。パンをひとつ食べ終わるのに時間がかかり、それだけで疲れ果てた。船酔い対策はとにかく寝ることだと、すぐに寝かしつけられる。
「なにかあったら起こすから」
アイフィアに髪を撫でられて、私は眠くない目を無理矢理閉じた。
どれだけ寝ていたのか、大きな揺れで目を覚ました。
嵐だろうかと甲板に出てみると、水夫たちが水平線を指差して騒いでいた。
「カイン、来てみろ。幽霊船だ」




