第104話 危険な海を渡れる勇者募集
アイフィアの誕生日まで3ヶ月。
ヴィルガー王国からラウネル王国に戻るだけで船で1ヶ月かかる。船はヴィルガー王国が出してくれることになった。
酒場に乗り込んだカインは、「腕のいい船乗りを集めてくれ」と店主に頼み込んだ。
「ラウネルまで2週間で帰りたい。酒手ははずむ」
「1ヶ月以上かかる、来たならわかるだろう」
「だから腕の良い者をと言っている。最短の距離で帰らなければならない。報酬はラウネル王国が出す」
「最短のルートはあるが……。海流が早く化け物が多い」
「そこを渡れる勇者はいないのか。この国の船乗り共は腰抜けばかりか……」
ちょっと待てやと、数人の屈強な男たちが立ち上がった。
「ラウネルへの海域は波が荒い、巨大イカも出る、勇気の問題じゃない」
「化け物が怖いのか?」
「命は惜しいからな。坊主がイカの餌になってくれるってんなら」
「口だけで勇気ない者のお喋りに付き合っている暇はない。料金は10倍出すぞ」
「おいおい坊主、大人をからかうのもいい加減に……」
「からかってなどいない。私の本気がわからないなら引っ込んでいろ」
確かに、13歳の子供だ。
しかしこれから大人になるのだ。
「私はラウネル国王カイン。ラウネルまで2週間で行けたら、10倍の料金と、国から褒美を出そう。……一刻も早く国へ戻らければならない。……勇者はいないか?」
ざわついていた男たちが黙り込んだ。
誰かに助けを求めることは恥じゃない。放っておけば、アイフィアは呪い殺されてしまうのだ。普通に海を渡るのでは到底間に合わない。
「助けたい人がいる。お願いだ、私を助けて欲しい。ここに勇者はいないか?」
「……」
「……」
笑う者はいない。しかし答える者もいない。
「……おい、ラウネルの王様と言ったな。片道だけでいいのか」
一人の青年が手を上げた。バンダナを巻き、片手斧を腰から下げている。
「最低でも片道を2週間でだ。それ以上かかれば、そもそも間に合わない」
「風が強いし波も荒い、化け物も出る。普通でも船の墓場と言われるような危険な航路だ、それでもいいのか」
「助けたい人がいるといっただろう。私も命を賭けよう」
初めての恋に出会ったというのに、死なれてたまるか。
「一緒に明日を迎えたい相手がいる。力を貸して欲しい」
「……よし、わかった、俺が引き受けよう。俺はエデル。3日後に出発だ」
「……ありがとう!!」
水夫を集めたとアイフィアに伝え、船に積荷を用意させた。
「私も行こう」
「……化け物が出る危険な海域らしいけど」
「カイン、私のために命をかけてくれるんだろう。城で黙って待っているのはおかしな話だ。間に合わなければどうせ呪い殺されるのだから」
「船が沈むかもしれない」
「それなら一緒に海の藻屑になるだけだ。死ぬ前に私にも大冒険をさせてくれ」
アイフィアの手は温かく、私の右手を包み込んだ。背が高い彼は、膝をかがめて話してくれる。彼を失いたくない、その一心が勇気をくれた。
「……私の国に、黒百合の女神と呼ばれる存在がいる。彼女なら、フレイアと渡りあえるかもしれない」
「……女神?」
「知り合いなんだ」
人外には人外を。
手段を選んではいられない。
勇気があっても、困難を乗り越える力がなければ、なんにもならない。
「私ひとりでは説得できないかもしれない。一緒にいてくれると、嬉しい」
「もちろんだ。自分のことを頼むんだからね」
もう妻も妾もいる相手。全部気にしないから。
私のことも全部抱きしめてほしい。
「カイン」
「……」
膝をかがめたアイフィアの両手が、私を包み込んだ。
「私も信じてみよう。君といる明日を」
仲間は金で集めるよ! それがカインのやり方だよ!




