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【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第9章 雪と氷と呪いの女王~ヴィルガー王国編
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第103話 真心

アイフィアの命の期限を聞かされたカインの決断は。


 球体になった水の中に映し出されているのは、在りし日のカインとアイフィアだ。


 カインは手を引かれ、城の中の教会に連れて行かれた。古い記憶で、何か話しているが聞き取れない。


 アイフィアの指が、カインの顎を持ち上げた。これは、見られるの恥ずかしいな。


 その時、突然、ガシャーンと鮮明な音が映像から響いた。





 思い出してきた。

 恋人にはなれないと解っていながら、案内された城内の、教会。

『綺麗だろう』と、ステンドグラスを見せてくれたんだ。





 教会を飾る壮麗なステンドグラスが粉々に砕け散った。

「うわぁぁぁぁぁ!」

「カイン!!」

 強烈な冷気が吹き付けて、ガラスを粉々にしたのだ。



「探したのよ、私の王子」



 凍える空気が、女の形を作って、浮かび上がった。

 吊り上がった赤い目、風をまとい波を打つ金髪、そして血に染まった白いドレス。

 氷の刃が腹に刺さっている。


「せっかくいい雰囲気だったのに、誰だ女」

「私はフレイア。この国で私のことを知らぬ者がいるとは」

 フレイアと名乗った女……なのか、怪物なのか、判然としない。


 ただ解るのは、敵だということだ。


「次はお前だアイフィア。息子の代わりに連れて行くわ」

「ふっざけるな!!」

「カイン、やめろ」

 私の肩を押さえたアイフィアの手が震えている。

 この女が……この国を覆う呪い、そのものか。


「全て奪ってやるぞ。もともと私の国だった」


 ステンドグラスが割れたところから、再度吹雪が入り込んだ。

「彼は渡さない」

 呪文を唱えて、フレイアを炎で包む。

「その程度では何も救えぬぞ小僧」

 フレイアの指先から放たれた冷気が、炎をかき消した。

 人の形をした氷の女王は、顔面まで凍りついていて、その表面に絶望した自分の顔が映り込んでいる。 

「もうすぐ誕生日。その夜にまた会おう。お前は私の子となるのだから」


 気づいたときには、彼女は風のように去っていた。

「兄上! カイン!」

「レイフィア」

「ああ、またか。……フレイアが来たんだな。怪我はないか」

 同じ顔の弟は、まるで古くからの知り合いのように、私を抱きしめた。砕け散ったガラスが、ブーツの下で割れて音を立てた。

「驚いただろう。彼女こそ、この国の呪われし女王。旧王国の女王だ」

「……彼を、迎えに来ると……。なんで……」

「二十歳になったら、死ななければならない。彼女の呪いを誰も解けないんだ。だから言っただろう。兄のことは諦めてくれと」

 

 また。

 まただ。

 諦めてと。


「……聞いて。二人とも。私の兄は、国を統一し、人柱として死んだ」

「……」

「私は国を押し付けられ、なりたくもない王になった。兄が自己犠牲の精神で、勝手に死んだせいで。私の世界は変わってしまった」


 いつまで? 何故私が、いつも、諦めなければならないのか。

 大切な人を、初めて会った恋を、黙って死んでいくのを諦めろと?


「……ふざけんなよ……」


 凍りついた割れたガラスが、足元でパキンと音を立てた。

「カイン……」

「兄上もお前も何故簡単に諦める!! 残される者の痛みがわからないなら、わかるまで生きてみろッ! 本当は死にたくなんてないはずだ」

 初恋がこんな終わり方なんて、あんまりだ。

「生きることを諦めるな」

「カイン。あと3ヶ月しかない」

「3ヶ月ある!! 必ず、私が呪いを解いてみせる」

 私の言葉に、兄弟の目が大きく見開かれた。

「お前を助ける。お前がどう思おうとも構わない」

 あなたを諦めさせないで。

 割れたガラスの中の、紫色が爪先に触れた。

 ぐっと握りしめた手を開く。冷え切った指の先端まで血が巡り、力が湧いてくるのが解った。


「私は……。私は、アイフィア、おま……、あなたのことが好き、だ」

「……」

「あなたを助ける。だから覚悟を決めて」

「……カイン」

「あなたのために生きる」


 考えて発した言葉ではなかった。勝手に、心から溢れた。これは本心であり、真心だ。


「あなたを助けるために出会ったんだ。みんなが幸せになれる方法を、見つけてみせる」



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