第102話 氷の涙
102話
「19歳のアイフィアにはすでに、妻と数人の妾がいた」
「……驚きませんでしたか?」
初恋の男に、大雑把に言って複数の嫁がいたら、醒めないものだろうか。
「ああ驚いたさ。しかしそれには理由があってだな、20歳で死ぬ呪いがかけられていると聞かされた」
アイフィアには双子の弟がいた。レイフィアは数年、砂漠の国テル・アルマナで暮らしていた。
「弟が教えてくれたところによると、旧王家の女王と子供を、アイフィアたちの先祖が殺した。それ以来、長男は20歳までしか生きられず、その間にたくさん子をなして、呪いから逃れられた子が、王家を繋いできたということだ。同じ顔の兄がもうすぐ死ぬため、次の王として呼び戻されていた」
『俺たちの家は呪われているんだ、兄上は助からない』
同じ顔の弟だったが、砂漠の国で暮らしていたため、肌は褐色に焼けていて、呪いを跳ね返すためだと、宝石をたくさん身につけていた。
『カイン、兄上のことは忘れてくれ。意地悪で言ってるんじゃない。ラウネル王国の王である君を、巻き込むわけにはいかない』
『気持ちは嬉しい。しかし、死にゆく私を愛してくれとは言えない。運が悪かったと思ってくれ』
アイフィアとレイフィアは礼儀正しく、事実を伝えてくれた。二人とも誠実だったとカインは唇を噛む。
「初恋の相手がもうすぐ死ぬと聞かされて、私は取り乱した。運が悪かったんだと、本人から伝えられる気持ちがお前に解るか」
「……運ですか」
「ああ。先祖が罪を犯した家に生まれたのも運、長男に生まれたのも運、アイフィアが死んでも、その子供たちが成長して、子を作れば、また王位を継承できる。誰かが。それすらも運だと」
「……」
「出会ったことすら、運が悪かったのだと」
諦めさせようとする、兄弟の優しさが痛いほど解った。しかし心に氷の刃が突き刺さったかのような痛みに涙が溢れた。
「……しかし、一族の誰かが生きているその間に呪いを解こうと、彼らの一族は努力していた」
その時、塔の窓を叩く音がして、僕たちは飛び起きた。
「アキラ、カイン。こんなところにいたの」
「リリー様」
「どうして、こんなところで寝てるのよ。さっ、帰りましょうか。カイン、あなたはどうする?」
「まだ話の途中なので、一緒に帰りましょう」
何の話をしてたのよ、とリリーが僕たちを箒に載せて尋ねた。
「王様の初恋の話です」
「……へえー、興味深いわ! 私にも聞かせてよ」
別にいいぞ、と答えるカインが僕の背中を掴んだ。
自宅へ戻り、リビングの暖炉に薪を焚べる。
ワインや紅茶を用意し、あまりの鹿肉を焼いた。
リリーに、アイフィアと弟レイフィアの話をざっと説明し、続きを促した。
大晦日から新年のテンションは異世界でも変わらない。三人で毛布やひざ掛けに包まり、
カインの恋バナに付き合うことになった。
「話してくれるのも嬉しいんだけど、こういうのはどうかしら」
リリーはグラスに入れた水に呪文を捉えると、ふわっと水は球体になり浮き上がった。
「話してくれる予定の部分だけでいいわ。水の中に指を入れて。ちょっと思い出してみて」
こうか、とカインが指を水の球体の中に突っ込んで、数秒。
おそらくはカインの記憶の中の映像が、水の中に映し出された。
「……私だ」
見知らぬ天井は、この城ではない。おそらくは、ヴィルガー王国の城なんだろう。
水の中に、銀色の髪の美少年が映っている。
「アイフィア、彼だ」
カインの頬が、薔薇が咲いたように輝く。同時に彼の後悔が両目から溢れ出した。氷の粒のような、ダイアモンドのような、大粒の涙が床を濡らした。
「何か、心残りがあるんですね。……話してください」
だいぶ更新が遅れました、申し訳ございません!
続きはちゃんと書いておりますー!! 感想、ブクマなどよろしくお願いいたします!!




