第99話 王の条件
99話まで来ました、明日中に100話もアップします。
「カイン様。何を……言いたいのですか」
僕の問いに、カインは顔を上げて微笑んだ。深緑の瞳が輝いている。
焚き火の中に、乾いだ枝をパキっと折って差し込む。素手で、熱くないのだろうか。
「万が一、クラウスが戻らないことがあらば、リリーが女王になる。アメジストを持ち、黒百合の女神の加護のもとに国を治めてもらう」
「……それはわかります」
「だがな。リリー以上に、力を持つ者がいれば、その限りではない」
「……」
「アキラ。ガーネットに変身してみてくれないか」
僕はカインの希望に答えて、ガーネットに変身した。
「その髪型、可愛いな。よく似合っている。本当に女ならよかったものを」
「……からかわないで、ください」
「ははっ、すまない」
すっと横に座り直し、両手を握られる。
「自力で、旧王国の宝冠を手に入れ、魔女になった者よ。さらなる力を得たいと思わないか」
「……」
「ヴィルガー王国のルビーを、お前が手にできれば、炎の力を得ることができる」
「あら素敵。さっきからヴィルガー王国のことをお話してくださるのは、私にくれるということでしょうか」
「使えるならお前でもリリーでも構わない」
「……?」
あげることはできないが、貸すことはできると笑う。
「持ち主の王家とは友達でな」
「……ええ……?」
会えばわかると焚き火を枝でかき混ぜる。
空気が入り、炎が大きくなった。
「ガーネット。王の条件とはなんだと思う」
「血筋だと思います。王家の人間が王様になるんでしょう」
「違う。私と兄は、一領主の子に過ぎなかった。他家を踏み潰して王になった」
「じゃあ、必要な条件って……?」
「家族揃って次の年も過ごせるように、考えられることだ」
「……ん、ええと……」
家族とは民のこと。
「王家など、本当は必要ない。民を家族として考えられ、その暮らしを守る。それができる者が王になれば良い」
「なぜ私にそんな話を」
枯れ葉をバサバサと火にくべる。
瞬時に枯れ葉は燃え、折った枝に燃え移る。冷たい冬の空気に熱が広がっていく。
「リリーと初めて会った時、クラウスを取り戻したら、私を自由にしてくれると言った。そんな女は初めてだった。幽霊にまで優しい女だ」
「リリー様は優しい、方です」
「そのとおりだ。……リリーには、魔女の素質はないが、王の素質がある。村娘から女王候補にまで登りつめた。自らの意思で。なかなかできることではない。それゆえ、クラウスを助け出したら結婚していいと許可を出した。大切なのは国を守れるかだ」
「クラウス様を助けたら、私は用無しです」
「まあ聞け。アメジストに代わり、ガーネットでも構わない。女神、妖精なんだっていい、人間よりも強い存在であれば」
「私にはそのような」
そのへんの中学生だった、魔女になったとはいえ、何ができる。
「お前がリリーを好いておるなら、それだけでいい。万が一クラウスが戻らないときは、
その時は、アキラでもガーネット、お前でも良い。リリーを支え、この国を守れ」
「私はスペアということですね」
「そうだ。ただし、お前の代わりは居ない。代わりのきかない唯一の鍵だ」
唯一の存在。
今までそんな風に扱われたことはなかった。
「元の世界に帰りたいか?」
「……」
「我が国は小さい。しかし、元の世界に戻って、学校に行ってなんになる。その世界にはリリーはいないぞ」
彼の言葉は、わかりやすく、私を誘惑する。
クラウスさえいなければ、この国に残るのに。
何故、私を焚きつける? 元王様の、望みは何だ。
「カイン様。……クラウス様を、リリー様はきっと助けるでしょう」
「……まあ聞け。私も兄の代わりに過ぎなかったが、王をやっていた。誰でも良いのだ。玉座に座ることが肝要なのであり、王も村娘も、みな材質は同じだ。そのへんの人間だ」
カラカラに笑う、きっと王様にされる前は、ごくごく普通の少年だったんだろう。
「ロッドを貸せ」
手渡すと、先端についたガーネットを白い指でなぞった。
「ガーネットには、『実りの石』という別名があってな。ガーネットの原石は、実ったザクロの種子に似ていることから“実り”を象徴する宝石とされている」
「……実りね。私とリリー様にも、収穫があればよいのだけど」
「そうだ。その意気だ。目標に向かってコツコツと積み重ねてきた努力を実らせる」という意味で、ガーネットは持ち主に幸福を与える。お前が彼女を得たいというのであれば、別の見方をすることを覚えろ」
見方を変えろ、方法を考えろと焚き火に枯れ木をくべ続ける。
「火は自然に燃え続けることはできない。人の心も同じで、命令では、駄目なんだ。
自分の中から沸き立つものでなければ、自分の能力を発揮することはできない。リリーも、クラウスも、強く、燃え立つような野心がある。二人ともが、並の人間ではないのだ」
「カイン様。私にどうしろと」
強い冷たい風が吹付け、火の粉が舞い上がった。
「王になれ」
2020年もお世話になりました、来年もよろしくお願いいたします。




