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俺、実感する

 朝の陽射しが眩しい。


 チーズと燻製肉を挟んだヘビーな朝食を出店で買い、俺は英気を養っていた。


 手持ちの荷物はカバンと新調した硬貨入れ、埋めてる途中の手書きの森の地図、紙に包んだ昼飯にワインの瓶、そして昨晩購入した新兵器。


 それにしても異世界にやってきてからアルコールばかり飲んでる気がする。本当は飲料水を買いたいところなのだがワインのほうが安いから仕方ない。


 よし、行くか。


 目的地はもちろん近場の森。というか、ここしか知らんし。


「おっ」


 草むらから飛び出してきたスライムを見て、頭にあることが浮かぶ。


 昨日は有効打がなくてグダグダになったが、剣を手にした今の俺ならどうだろう。


 鞘からカットラスの真新しい刃を抜いて、斬りかかってみる。


 手応えは一切なかった。効果がなかったからじゃない。自分でも驚くほどするりと切断できてしまったからである。まるで水を切り裂いたかのような……そんな感覚だった。


「つよっ! ……待て待て、スライムが斬撃に弱いだけって可能性もあるか」


 なにせ素人の剣技だ。作法なんてまるでなっていないから自分でも恥ずかしくなるくらい無茶苦茶な振り方だった。


 他の魔物に通用してから武器による影響を信じよう。


 更に奥へ。


 立ち入ったことのない区域で新たな敵を発見した。


 それもとびきりやばそうなのを。


 俺の視界に飛びこんできたのは、平地を這う全長、直径ともに二回りほどでかい蛇。面構えといい色合いといい、いかにも毒を持ってそうな外観で、正直びびる。


 だが俺は丸腰ではない。なんのために大枚はたいてクソ高い剣を買ったと思ってる。


「俺にはお前しか頼れるもんがないんだからな……」


 頼むぜ、と物言わぬ相棒に話しかける。


 俺は武器屋のおっさんの言葉を信じて猛毒ヘビ(仮名)に対決を挑んだ。


 睨み合いの中で先手を取り、急接近。微妙に青みがかった銀色に輝くカットラスの刀身を、棍棒の時と同じような感覚で叩きつける。


 勝負は一瞬だった。


 一刀両断……蛇はあまりにもあっけなく煙に変わってしまったのだから。


「ま、マジか」


 あまりにも切れ味がよかったので返り血を浴びることもなかった。


 カットラスには刃こぼれひとつない。軽くて小さいから半信半疑だったが、こうして結果に表れてしまったら攻撃力には文句のつけようがないな。


 これが四万Gの力か。


 ひいては一夜で四万Gを貯めた俺の力ともいえる。


 ……なんて調子のいいことを考えていると。


「ぎやっ!?」


 死角からもう一体の蛇が襲いかかってきていた。


 大きく開いた口から、毒液のしたたる牙を剥き出しにして。


 反応が遅れた俺は、足に狙いを定める魔物の攻撃に対処しきれなかった。異様に発達した顎が俺の太ももを挟み、喰いつき、閉じられる!

 

 やべ、これ死んだだろ。


 とっさにそう諦めてしまったのだが、どういうわけか無事だった。呼吸もできるし意識もある。毒が回っている感じもない。完璧に噛まれているのにだ。


 なぜかといぶかしみ、噛まれた箇所を覗いてみる。


 俺は驚嘆した。


 蛇は確実に俺の足に喰らいついているものの、その牙は俺の皮膚を貫いてはいなかった。生地の段階で牙と、そこから染み出る毒が止まっている。


 これが服の効果ってやつか。すげーな、蜘蛛の糸。


 ただ布越しに牙が当たっているのでまったく痛くないわけじゃない。ていうか割と、痛い。


「食物連鎖ってのを教えてやる。人間、舐めてんじゃねぇ!」


 噛みついてきた蛇も斬り伏せる。例によって一撃で。


「ハァ、ハァ……焦らせやがって」


 一発で倒せるっていうのに無駄に苦戦してしまった。


 次からはもうちょい慎重にやるか。二体分の金貨を拾った後、ひとまず『猛毒ヘビ出没注意』と地図に書きこんでおく。


 しかしまあ、いい稼ぎになった。


 俺が布袋に放りこんだのは金貨が四枚と銀貨が十枚。単価あたり2500Gなり。 


「利率やべぇな……ウサギ一匹で一食とか言って喜んでたのがアホくさくなってくるぜ」


 蜘蛛より大分殺傷力が高いだけあって得られる金額もそれ相応だ。素材ドロップこそなかったが、蜘蛛の糸の買取価格を鑑みた限りだと大した儲けにならないだろうから、いいや。


 その後も俺は森を巡って魔物を狩り続けた。


 予想はしていたけど、コウモリは素早いだけの雑魚なので全然金を持っていなかった。そのくせたまにしか降りてこない。今後もシカトで問題なし。


 一方で狼は一筋縄ではいかない相手であるらしく、毛皮に加えて3000Gもの資金を落とした。『らしい』と言ったのはあまり苦戦を強いられなかったからで、ぶっちゃけると瞬殺だった。すまん、新参らしからぬ強装備で。


 逆にムカデの姿をした魔物には参らされた。いや別にこいつも強さ自体はしょっぱいのだけれど、真っ二つにした後もしばらくウネウネ動くので俺の精神衛生上よろしくない。金も蜘蛛よりちょっと多いくらいの額しか落とさないのでなるべく避けて通りたいところである。


 他にもいろいろと戦ってみたが、共通して言えるのはどいつも俺の敵じゃないってことだ。


 おっさんが語っていたとおり、森には弱い魔物しか出ないってのはマジのようだな。


 それにしたって俺みたいな戦闘のいろはも知らない人間がこれだけスムーズに魔物退治をやれるんだから、武器がもたらす影響力はとんでもない。


 これ一本あればしばらくは困らないだろう。明日からは本格的な依頼を受けることも考慮してみるかな。


 自信のついた俺は帰宅の準備を始める。


 その時、二十メートルほど先にある草むらがガサガサと揺れた。


 視線をそちらに合わせると、生い茂った草木の中に紛れてふたつの点が光っていた。目を光らせている魔物と見て間違いない。


「ありゃ狼か? ついでだし狩ってくかぁ、あいつ一匹で五日分は飯まかなえるし」


 そう思って近づこうとした途端、俺は無性に違和感を覚えた。


 違和感の正体は狼の容貌だ。草むらから出てきたそいつは、俺がついさっきまで狩っていた灰色ではなく、赤褐色の毛皮に覆われている。


 嫌な予感がする。目線を合わせたまま後ずさろうとするが……。


「……おいおい、イレギュラーな事態は勘弁してくれっての」


 別の茂みからもう二匹姿を見せていた。

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