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俺、決断する

 無防備な顔全体に、窓から入ってきた陽射しが容赦なく浴びせられる。


「……朝か……」


 眩しさに叩き起こされた俺はテーブル上に置いてある布袋を真っ先に見る。


 まだ食費に余裕はある……今日は一日ゴロゴロしていてもいいか。元々こうやって自堕落な生活を送るために異世界行きを望んだんだし。


 しかし驚くほど退屈だった。


 テレビもなければ雑誌もなく、ネットやゲームなんてもってのほか。


 やることといえば二度寝くらいで、それもせいぜい昼までしか持たない。


 限界はすぐ訪れた。


 暇すぎる。


 確かに悠々自適の生活を望みはしたが、なんの娯楽もないんじゃカビが生えちまう。俺が外に飛び出し向かった先は……他に行く当てもないので仕事の斡旋所だ。


「ようこそギルドへ……ってまたお前か」

「頼む、仕事を回してくれ」

「どうしたんだいきなり。一回落ち着け。茶でも飲むか? 暖かい毛布は?」


 適当になだめられた俺は、一旦冷静になって事情を明かす。


「俺は真理に達してしまった。この世界で地位も商才もなしに充実した生活をしようと思ったら、冒険者になるしかないって」

「な、なんか様子がおかしいみたいだが……まあ、そうだろうな。一発逆転を夢見て冒険者になる奴らは後を絶たない」


 というわけで、俺もこの斡旋所に冒険者として登録してもらうことになった。


「じゃあうちのギルドメンバーに加盟させておくから、ここにサインを書いてくれ」

「なんだそのギルドメンバーってのは。派遣みたいなもんか」


 イマイチ仕組みがよく分かってないが、とにかくこれで俺も自由に依頼が受けられるようになったわけだ。


「でだ、シュウト。どんな依頼を受注するつもりだ」

「やるからには一気に稼げて一気に名前を上げられるのがいい」


 おっさんが依頼一覧の載った紙をペラペラとめくる。


「そうだなぁ、盗賊団の壊滅を達成すればお前の評判はドカンと上がるだろうな。あとは鉱山の奥地からレアメタルを採掘してくるとか、こういった採取系の依頼も地味に実入りがいい。取ってくる代物の入手難度にもよるがね」

「さすがにきついわ。奥地って響きだけでめっちゃ危険そうだし」


 ていうかそんな依頼を受ける意味は俺にない。魔物が落とす額は上がっているが、だからって人からもらえる報酬は変動しないだろう。


「戦ってるだけでおいしく稼げるようなのはないのか?」

「王都が発布してる要注意モンスターのリストがある。こいつらを倒して証拠の素材を持ち帰れば多額の懸賞金が手に入るぞ」

「それだ」


 魔物が隠し持っている分と依頼者が支払う分。両取りが期待できるな。


 だが根本的な疑問が浮かんでくる。


「俺でも勝てんの?」

「駆け出しには無理」

「だよな」


 力も技もない俺がそう易々と倒せるような奴なら、国から害獣認定くらわないだろ。


「そもそも、大半はパーティーを組んで挑むような相手だぜ」

「パーティーか……そういうのはちょっと。できれば一人でやっていきたいんだよ」


 分け前が減るのもそうだが、俺の持っているスキルがバレるのも本意ではない。俺がスキルを悪用する分にはいいが、スキル目当てで俺が悪用されるのはぞっとしない。


「じゃあ地道に鍛えるしかないな」

「努力とかそういうの嫌いなんだよな……」


 となれば、やっぱ奴隷が必要だな。


 聞いた話だと奴隷は戦闘の役にも立つらしいじゃないか。当面の目標は公私のパートナーとしての奴隷の獲得。これだ。


 ……ん? なんか目的と手段が入れ替わってるぞ。


「そうじゃない。それじゃダメだ」

「どうかしたのか?」

「いや、こっちの話だから無視してくれ」


 やっぱりまずは俺自身が一人前になる必要があるらしい。人生に近道なし。まさかこんな見ず知らずの土地で痛感させられるとは思わなかった。


 くそっ、楽に生きるのも楽じゃないな。


「手っ取り早く強くなるためにはどうすりゃいいんだ?」

「手っ取り早く? おいおい、シュウト。まじめに冒険者やってる連中にブン殴られるぞ」


 知ったこっちゃない。スナック感覚で強くなれるならそれが一番だろ。


「魔法には才能がいるし、長い時間をかけて勉強する必要もある。剣や槍の達人になるのだって日々の修練と肉体のトレーニングが欠かせない」

「そういう積み重ねとか今更やっても遅いんだよなー。なんか裏ルートみたいなのが欲しいんだよ」

「一切鍛えずにか? うーん、腕を補えるくらい強力な装備を揃えるとか?」


 おお、中々有力な意見だ。


「聞くまでもないだろうけど、この町でも買えるよな?」

「武器屋と鍛冶屋が何軒かある。品揃えはバラバラだから、覗くだけ覗いてみな」


 よし。回ってみるか。


 とりあえず一店目の武器屋へ。


 鋼鉄の剣やら斧やらがごちゃごちゃと壁に並べられている。


「おっさん、この店で一番の武器はどれだ?」


 うつらうつらと船を漕いでいた店主に尋ねてみる。それにしてもこの町には接客してくれるのが中年男性しかいねぇのか。


「そりゃあもちろん、このグレートソードだ。幅広で質量のある刃は破壊力抜群だよ」

「重いのは無理。俺でも扱えそうな中で一番強いのを教えてくれ」

「だったら弓かなぁ。ただこれは技術がいるから向いてなさそうだね」


 と言っておっさんが持ってきてくれたのは、なるほど俺でも振り回せそうな小ぶりの剣だった。


「この前やってきた交易船経由で手に入れた、海賊印のカットラスだ。こいつはいいぞ。揺れる船の上で戦う男のために作られた一品で、軽くて最高に扱いやすい。特殊な製法で製鉄された金属を用いているから軽さの割りに強度もバッチリだ」


 握らせてもらうと、なるほど他の剣よりは大分軽い。非力な俺でも問題なく使えそうだ。


「これ、予約で」


 だが輸入物のいい武器なだけあって、値段のほうも結構する。その額、四万G。一日で稼ぎ出すには少々厳しい。


「取り置きの期限は一週間までだよ」

「分かった。なるべく早く工面はつけておく」


 それまでは棍棒に頼るしかないか。ひとまず安価な剣を買ってお茶を濁すのもありだが、別にこれで殺人ウサギを狩れているうちは不都合はないだろう。


「だけど冒険者が場末の町にある店売りの武器で満足しちゃいけないよ。本当にいいものは王都じゃないと手に入らないんだ。もしくは素材を集めて鍛冶工に作ってもらうかだね」

「へえ、一応頭の片隅にでも引っかけておくわ」


 次に向かったのは防具屋。しかしここで俺は大きな問題と直面することになる。


「こんなの着込めるかよ!」


 頑丈な鎧ってのはどいつもこいつも馬鹿みたいに重いのだ。


「俺が身につけたら強敵に辿り着く前に鎧に潰されちまうよ。軽装から選ばせてくれ」

「ベストやローブは見劣りするけど、いいのか? 竜の琴線だとか不死鳥の羽だとか、そういった希少な素材を編みこんだ服なら薄くても鎧並の防御性能があるがね」

「ここに置いてある?」

「まさか」


 だろうな。当然のようにおっさんの店主も「うちがそんな凄い店に見えるか?」みたいな自虐交じりの表情をしている。


「素材を取ってきてくれれば、馴染みの裁縫職人に頼んで作ってもらえるけど」


 それができたらこんなところで頭を悩ましてないっての。


「保留で」


 元々俺は某ゲームだと全裸でブーメランを持って洞窟にこもるプレイスタイルだ。防具は狩りの効率性に貢献しないから後回しにしておこう。


 まずは上質な武器を手に入れることだ。


 善は急げ。早速森へウサギを討伐しに……。


 ……いや、思ったより疲れたから明日からにしよう。


 俺は食料品市場でパンとワインと魚の燻製を目一杯買い込み、自宅に戻った。


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