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俺、邂逅する

 俺は防具屋の開店に合わせて宿を出た。


「お待ちしておりました。それではお渡しします」


 店主から受け取ったプレートメイルをホクトに装着させる。


 可動域以外がすべて黒鉄の板金で覆われた、堅牢な鎧。


 この鎧を堂々とまとったホクトの勇ましさたるや。外見だけならエリート騎士みたいだな。使うかどうかはともかくとして念のためカットラスも装備させてあるし。


「重くないか?」

「支障ないであります! さあ、いざ魔物退治へ参りましょう!」


 初探索に臨むホクトの気力の充実っぷりは凄まじい。が、その前に。


 まずはギルドへ。


 前日出した依頼がどうなってるかが気になる。


「うわっ、めっちゃいるじゃん」


 昨日に比べて人の数が激増していた。しかもどいつもこいつも妙に活気があって、なんていうか内定式に紛れこんだような感じがする。


 会話に聞き耳を立ててみると「山林行ってみてさ~」だの「鉱山の魔物が……」だの、そういった内容だった。


「全員冒険者か……?」

「おっ、シュウトじゃないか」


 受付のおっさんに呼び止められる。


「待ってたぜ。出ていた依頼のうち、十七個はもう達成されてあるぞ」

「そんなにか。はえーな」

「掲示されたらすぐに埋まったよ。やっと駆け出しが探索に行ける依頼が出たんだからなぁ」


 よっぽど仕事に餓えてたんだな。


 想像以上にこの町の冒険者は困窮していたようだ。


「納品されたアイテムがたくさんあるぞ。持ってくるからちょっと待っててくれ」

「それなんだけど、受け取りは帰ってからで……」


 と、俺が頼もうとした時。


「あの」


 誰かに声をかけられた。振り返ると、そこには青い髪を後ろで縛った男……というか少年がいた。かなり若い容姿をしていて十五とかそのくらいに見える。


「い、今さっき、シュウトって聞こえたんですけど、あなたがシュウトさん……ってことでいいんですよね?」

「そうだけど」


 隠す意味もないので答えておく。


 ところが、なんとなくで返答しただけだったのにギルドの待合室にいた連中がざわめきながら立ち上がった。そしてその全員が俺のところまで寄ってくる。


「採取依頼を出してた方ですよね? ありがとうございます!」

「俺、初めて鉱山行けたんスよ! 魔物もやっと倒せたッス!」

「畑仕事以外の依頼やったのなんて初めてでしたよ。めちゃくちゃ興奮しました!」

「私は今まで魔物と戦ってただけなんですけど、あなたのおかげでEランクになれました! 本当にありがとうございます!」


 よく分からんけどすげー感謝されてるんだが。


「ちょっと待て。一人ずつ喋れ」


 俺は手のひらをかざしてお礼攻めをストップする。


「一体俺がなにしたっていうんだよ」

「えと、一言挨拶しておきたかったんです。だって、全部依頼者の名前が『シュウト』になってましたから……」


 少年が代表して答える。


 ああ、そういうことね。要は仕事くれてサンキューって話か。


「でも俺が出した依頼の報酬なんて500Gとか1000Gとかだぞ。大して高くないぜ」

「額の多寡じゃないッス。似たような報酬だったら魔物の出る地域に行ったほうがいいッスよ。鍛えて強くなれるッスからね。それに冒険者やってるって気がするッス」

「それに魔物の撃破報奨を合わせれば、追加で1000Gくらいは行きますからね」

「ふーん」


 そういやこいつら全員地元民だったな。


 飯食ってくだけならそれだけあれば十分か。


「今までは魔物を倒して1000Gを得るか、町で働いて1000Gを得るかの二択で……」

「悲しい話をするなよ。こっちまで落ちこんでくる……ま、そんなに有意義だったってんなら、もうちょい働いてもらうぞ」


 俺はおっさんに頼んで更に依頼を追加し、ギルドを後にした。


 ただこの感じだと、俺が町を去ったらまた路頭に迷いそうだな、あいつら。


 さっさとランクを上げて、ヒメリいわく5000Gは稼げるという山道にまで来られるようになれば問題なくなるんだろうが。


 で、その山道だが。


 この地を再度訪れた俺は、昨日に比べて随分と体の軽さを感じていた。


 説明するまでもなく、荷物をホクトに運んでもらっているからである。金にしろ素材にしろ戦闘を重ねるごとに膨れ上がってくるわけで、金策を続ける上で厄介になってくる。


 そこをホクトがカバーしてくれるのはありがたい。


「それにしても凄い金貨の数でありますなぁ。魔物とはこれほどまでに貴金属を貯めこむものなのでありましょうか」

「いや、これは魔物どうこうじゃなくて俺の影響だ」


 薄々勘づいてはいたが、魔物が落とす硬貨を大幅に増やす俺のスキルは世界にインフレを起こすことに繋がっている。


 魔物が硬貨を持っている理由は誰かが紛失した金を拾っているからだ。


 そいつらを倒して金銭を獲得する冒険者は、すなわち埋没金を循環させてやってるわけで、社会への貢献度は地味に高い。


 一方俺は増やした状態で返していた。


 まあ魔物が生きてる限り余裕で眠ってる金のほうが多いだろうから、気にすることでもないが。


「よっしゃ、これで二十体目……あともうちょいで五十万Gに届くな」


 気にしてたらこんなふうに屈託なく狩りなんてやってない。


 難しいこと考えても仕方ねー。金貨の流通量が減ったままよりマシだろ。


 俺はこのマップになにがあるかをガン無視して、ただひたすら魔物を倒し続けた。


「今日もお疲れさまでした」

「おう」


 目標金額に達したところで俺たちは帰ろうとする……が。


 宿へと続く道の途中で、得体の知れない面々と出くわした。格好からして冒険者だろう。


 俺はそのまま素通りしようとしたのだが。


「やあ、見ない顔だね」


 白い鎧で全身を固めた男が声をかけてくる。


 サラサラの銀髪をなびかせた、いいとこのおぼっちゃんって雰囲気のイケメンだ。


「もしかして、君が例のシュウトって人かな?」

「そのとおりだけど、なんで知ってるんだよ」

「低ランクで山道に向かう冒険者はいないからね。アセルにいる高ランクの冒険者となれば、遠征者に限られる。それと」


 男は人差し指を立てた。気取った所作だが育ちのよさが表情に出てるからか嫌味さがない。


「依頼の一覧に『シュウト』という見慣れない名前があったからね。全部に制限がかかっていたのも妙だったけど、なにより僕がこれまで受注してきた中にそんな依頼者はいなかった。となると、このシュウトなる人物は遠征者だと推測できるよ」

「へえ、そういう理屈か」


 ただちょっと待てよと。


「ということは依頼を独占してるってのは、お前らか」

「独占? ああ、商業ギルドの人たちから請け負ってる依頼のことか」


 顎に手を当てる男。いちいち仕草がキザだなこいつ。


「強引なやり方だとは自覚している。でも僕にはお金が必要なんだ」

「いや別に責めてるわけじゃないけどさ。権利で認められてるんだし」


 俺も名声目当ての時は一度に複数受けてたしな。


「そうか。安心したよ。……僕には夢があるからね。この町を離れる前に、少しの区画でいいから小麦畑の所有権を買っていきたいんだ」

「また金のかかる買い物をするつもりなんだな」

「僕はアセルのパンが気に入ったんだ。小麦の流通ルートを確保しておきたいんだよ。そうすればこの味を実家の両親にまで届けられる」

「親孝行な奴だな……援助してもらえばいいじゃん」

「できるわけないじゃないか。僕は農家の出身だよ」


 そう言って男はくすりと笑い、「よく貴族の血筋と勘違いされるけどね」と添えた。


 ま、まさか、この物腰が育った環境云々ではなかったとは。


 依頼の独占と聞いていたからどんだけあくどい奴なのかと思ったが、普通に好青年だった。


 しかしそれはそれでなんかムカつく。


「皆には迷惑をかけちゃってるけどね。旅を中断してるんだから」

「あー、そういやいるのはお前だけじゃなかったな」


 言われてみれば、この土地での滞在を決めたのはこいつ一人の一存なんだから、仲間だからってそれに異論なく付き従っているのは従順すぎる。


 ……と思ったが、後ろに控えているパーティーのメンツを見渡してみたところ、一人の例外もなく全員女だった。


 これはあれだな。


 こいつら全員惚れてるんだろう。


 まさに王子様だな。


 多分だが、この女たちがギルドで依頼待ちの列をなしてたんだろう。そりゃ意見できないわな。なんか恐いし。


「それにしても、山道の帰りだっていうのに全然怪我や汚れがないね。あそこはこの近辺じゃ一番魔物のレベルが高い場所なのにさ」

「そんな大したもんじゃねぇよ」

「君は強いんだね」

「自分が強くないみたいな言い方だな。そんなわきゃないんだろ?」


 男はその問いには答えず、肯定とも謙遜とも取れる微笑を返してくる。


「シュウトはいつまで留まるつもりなんだい?」

「決めてねぇな。せっかくの過ごしやすい町なんだしゆっくりはしていく予定だけど」

「そうか。じゃあ、またどこかですれ違うこともあるかも知れないな」


 俺は特別興味もないが、男は「これもなにかの縁だよ」と語り、それから名乗った。


「ヤンネだ。いつかまた会いたいね」


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