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俺、煩悶する

 自家発電でも構わないのだが、燃料が見つかりそうにない。


 俺は参考資料がないと事を成せない人間だ。


 仕方あるまい、プロの力を頼るか。


 ルネサンス真っ只中といった雰囲気のこの町にオトナのお店の案内所なんてあるとは思えないから、恥を忍んで通りがかりの人に聞くしかないだろう。当然、野郎に。


「娼館~? そんなものあるわけないだろ、この国は人身売買禁止なんだぜ」


 ほろ酔い気分で歩いている男の台詞は俺を失望させた。


「な、なんだと……まさかの展開だわ」

「どうしてもっていうなら、奴隷市場で女の奴隷をお買い上げするしかないな」


 ほう。そそる響きの単語が出てきたな。


「でもさっき、人身売買禁止って言ったじゃねぇか。奴隷とかまんまそれだろ」

「奴隷として売られているのは獣人だけだ。獣人なら法に触れないんだとさ。あいつらは基本的に野生の中で暮らしているから、奴隷商人に片っ端から捕まえられてる」


 うーむ、中々ひどい話である。俺はここで世の理不尽に激昂して頭に血をのぼらせるべきなのかも知れないが、残念なことに血液は下腹部に集中していた。


 しかし奴隷を買うとなればこの金額では全然足りないだろう。


「興味もあるし、一応行くだけ行ってみるか」

「言っとくけど、奴隷ってのは本来冒険の付き添いや屋敷の使用人として雇うもんだからな? あんまり期待するなよ」

「ヤリモクが相手にされないのは慣れてるよ」


 酔っ払いに教えてもらった奴隷市場は町の外れにあった。


 外れにあるといっても建物自体は半端なくでかい。一見すると有力者が住む大豪邸に思えてしまうような館だ。相当儲かってんな。


 入ってみる。


 内装もちょっと気圧されるくらい華美だ。


「いらっしゃいませ」


 うさんくさいヒゲを生やした男が接客に出てきた。


「奴隷の購入をご検討中でしょうか」

「ま、まあな」


 どうしよう。俺がただの冷やかしだってバレたら叩き出されるだろうか。


 とりあえず金持ちのふりをしておこう。堂々とな、堂々と。


「どういった奴隷をお求めでしょう」

「ん? 違いなんてあるのか?」

「顧客のニーズに合わせて様々な獣人を取り揃えております」

「へえ」

「例を挙げると犬の遺伝子を引くものは非常に従順で、調教すれば最高のメイドになります。馬の遺伝子を引くものは力が強くて持久力もあり、旅のお供にうってつけです。狐の遺伝子を引くものは魔法の適正が高いため、頼れる相棒となること間違いなし」

「指名料は取られるのか?」

「何の話でしょうか」


 おっと。そういう店じゃなかったな。


「俺はそういう機能性云々はどうでもいいんだよ。俺が知りたいのは、たとえば牛の娘ならおっぱいがでかいとかそういうのだ」

「まあ、そういった外見的特徴はなきにしもあらずですが……」


 商人は考え込むそぶりを見せる。


「しかし女の奴隷は特別値が張ります。男であれば十万から二十万ほどでお売りできますが、女となると桁がひとつ変わってまいります」


 高っ。


「いかがなさいますか? ご希望であれば展示室に案内いたしますが」 

「そ、そう急かすんじゃない。こっちにも心の準備がある」


 そんなところまで通されたら後戻りできなくなるじゃないか。俺の手持ちは手軽に得たとはいえ2000Gちょっとしかないんだぞ。


 ……予想はしていたが、高い買い物になるな。


 森にいるウサギを一日五十匹狩ったとして、俺のスキルこみでようやく一万G。


 それを数百日……?


「ちょいとばかり考えることができたから、一度帰らせてくれ」


 俺は館を後にした。現実的に可能な範囲内とはいえ、こんな気の遠くなる値段を提示されたら今のところは諦めるしかない。


 こうなりゃその辺で女を引っ掛けるしかないか。


 人通りの多い区画に行き、気は強そうだが顔は俺好みの女に声をかけてみる。


「嫌よ。だってあなた、その格好を見た感じだと冒険者じゃないんでしょ?」

「それがどうかしたか?」

「どうかするわよ。あなたも見た目は悪くないけど、功績の冴えない男を相手するほど安い女じゃないの。バイバイ」


 女は俺を軽くあしらうように手を振って、どこかに行ってしまった。


「……まあ初っ端から成功するとは思っちゃいないさ。次……」

「やめとけ、やめとけ」


 品定めしていると、逆に俺が声をかけられた。しかも嬉しくないことに中年のおっさんにだ。


「なんだよ。俺は今下手な鉄砲作戦を実行してる最中なんだけど」

「それが無駄だって忠告してやってるんだよ。人生の先輩としてな」


 うわ、しかもよくいるめんどくさいタイプのおっさんじゃん。


「目の色変えさせたかったら男を磨かなきゃ始まらなねぇよ。女の惚れる男になりな」

「んな精神論みたいなこといわれてもなぁ。どうすりゃいいんだよ」

「そりゃ、冒険者になって名声を集めることだ」


 名声?


「そんなのより、男の甲斐性ってのは金払いのよさだろ」

「兄さんがとんでもない大富豪っていうんなら別だけど、その風体だと絶対違うじゃないか」


 せやな。


 とはいえ唯一無二のスキルがある俺ならやろうと思えば……まあ、そんな大金を持っていたら奴隷商人の世話になるだろうから意味のない仮定だが。


「それにデキる冒険者ってのは危険な依頼をバンバンこなしてるから金も持ってんだよ。富も名声も両方持ってる奴にかなうわけないだろう?」


 ぐっ、反論できない。俺は確かに金は人より稼げる体質だが、別に誰かから賞賛を受けているわけではない。


「じゃあ俺はどうやってストレス発散すりゃいいんだよ。一生女日照りか?」

「真面目にお付き合いしな。ハッハッハ!」


 大笑いするおっさん。それができるんなら苦労しないっての。


 結局なにもかも空振りに終わった俺は一人自宅に帰り、寂しい夜を明かした。


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