俺、理解する
「んなアホな。どいつもこいつもちゃんとした銀貨を落としたぞ。俺でも倒せるくらいだから弱い魔物なのは間違いないし」
俺はありのままを話したが、おっさんは疑いの目を向けている。
「盗んできたってか? おいおい、俺がそんなことできるタマに見えるかよ」
自慢じゃないが、俺は度胸の据わった男のナリはしていない。
顔が精悍じゃないのは言うに及ばず、身長も低めだし、ガリガリだし。
「確かにそうだな。疑って悪かったよ」
「おう、理解が早くて助かる」
なんか悲しくなってきた。
「……だとしたら変だ。どうしてお前だけ雑魚相手でも多額の報奨を手に入れられたんだ? ちょっと普通じゃないぞ」
「そんなこと言われても、思い当たる節なんて……」
あったわ。
人より遥かに楽ができる――俺は女神の言葉を振り返っていた。
「もしかして、俺に与えられたスキルってそういうことなのか……?」
「どうかしたか?」
「あ、いやなんでもない」
ひとまずこの件は隠しておこう。種を明かしても俺に一切利益がない。
下手したら噂が広がって意に沿わない魔物退治に連れて行かれる可能性もある。俺自身が開運アイテムみたいな存在になってるし。そんなのは御免だ。
「俺もギルドに勤めて長いが、ウサギが銀貨を落としたなんて話は初耳だ。これでもし倒したのが強力なモンスターだったりしたら……」
ほら、なんかもうそういう方向に持ってかれそうになってるじゃん。
「偶然だよ。あんま深く考えるなって」
「そうか?」
「とにかく俺は運がよかっただけだ。今日だけかも知れないしさ。まあ次からも食っていくために地道にコツコツ稼ぐよ」
俺は斡旋所を飛び出した。
「……さて……」
銀貨の詰まった布袋を見下ろす。ようやく女神の言っていたことが理解できた。なるほど、これが俺が異世界で楽して生きていくための手段か。
いいものをもらった。素直にそう思う。
たまに森にウサギを狩りに行くだけで、十分に食べて行ける。いい身分じゃないか。昔のイギリスの貴族みたいな生活だな。
とにかく数日分の食費はできた。となれば。
「飯だ飯。起きてから何も食ってねぇ」
気づけば日も暮れている。空腹を満たすのが急務だ。
町をうろついて、適当な飯屋に入った。料理名から内容をまったく想像できないので注文したメニューも適当である。
運ばれてきたのは原材料不明な肉を炒めたものと、湯気の立った香味野菜のスープ。あとは拳大のパンがふたつほど。
それからジョッキに注がれた真っ黒い謎の飲み物。店員はエールという酒だと答えた。
「こ、こ、こいつは……」
これで肝心の味がまずかったら悲しみに暮れるところだったが、しっかりうまいので言うことはない。
肉は脂身が少なくて硬いが、その分イノシン酸だかグルタミン酸だかの味がよく分かる。スープも塩が効いていてメリハリ抜群だ。この店、客層をよく理解してやがる。
合間に飲むエールが一汗かいた体に沁みる。ロックを浮かべた焼酎だったら百点満点だったのだが、ないものは仕方ない。気分よく酔えるだけマシだろう。
他のテーブルを眺めると俺だけでなくどいつもこいつも酔っ払って顔を赤くしているあたり、この店にはアルコール飲料しか置いてないようだ。町を見て回った感じの時代的に、沸かしてない水飲んで大丈夫なのかって問題もあるしな。
酒の勢いか調子に乗って食いすぎて200Gを余裕でオーバーしてしまったが、まあいいだろう。
帰るか。
食って寝るだけの人生。最高だな。
「……いやちょっと待て」
三大欲求ってもう一個あったな、そういえば。