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俺、発進する

 顔の上にスライムが乗っかっている。


 目が覚めた時、真っ先にそう感じた。


 いやいや、家の中にスライムとかいるわけないし。いるのは俺とミミだけだし。だとしたらぷにぷにのこれは、後から布団に入ってきたミミの……。


「おわっ!?」


 思わず跳ね起きる俺。


「あ……おはようございます。申し訳ありません。寝過ごしてしまいました」


 驚く声でミミを起こしてしまったようだ。半開きのまぶたを眠り足りなそうにこすっている。


「い、いや、いいんだ。昨日は疲れただろうしな! 遅くまで勉強してたし!」


 こっちはそれどころじゃねっての。朝っぱらから不意打ちで刺激を受けて困惑してるんだぞ。


 要するに朝特有の生理現象のせいでギンなところをギンギンにさせられたってな具合だ。


 オークの生傷から漂う悪臭を思い返して鎮める。


 よし、落ち着いた。


「魔術書を軽く読んでみた感じ、どうだった?」

「とても興味深く学ばせていただきました。魔法は難しいですが面白くもありますね」


 センスに恵まれた種族なだけはあり、飲みこみは早そうだ。


 うむ。この調子なら大丈夫だろう。


「飯食ったら出発するかー」


 俺はごそごそと棚からワインの瓶を取り出す。


 朝湯には縁がないが朝酒は毎日のように浴びている。最初の頃はこれダメ人間じゃねーかという気分になったが、今ではすっかり慣れてしまった。というか、この世界ではそれが普通。ワインは最もポピュラーな飲み物のひとつだ。


 パンを並べて簡単な朝飯の完成。


 食料品市場で買ったジャムを開封しつつ、ミミがぽつりと漏らす。


「おうちでも温かいスープが飲めたら、素敵だとは思いませんか?」

「そりゃまあ」

「ミミは魔法だけでなく、その、料理も覚えとうございます。奴隷であるからにはシュウト様の身の回りの世話もできなければ申し訳が立ちません」


 だが俺の家にはかまども炊事場もない。


 となると次の目標は……引越しか……。先は長いな。


「第一歩を踏み出すためにも、今日から二人で励んでいかねぇとな」


 一生分の貯えをして、でかい屋敷でダラダラしながらメイドのミミと暮らす。


 夢のような生活じゃないか。


 いつかは雇う奴隷の数も増やして、美女に囲まれた華々しい毎日を過ごすのが究極形だな。


「ま、ミミに飽きるなんてことはありえないけども」

「どうかなさいましたか?」

「いや、なんでもない」


 パンをたいらげた俺たちは多くの荷物をかついで家を出る。


 目指すは無論、初の本格的な遠征となる湖畔。


 ただその前に、一度訪ねておきたいところがある。いわんや斡旋所である。


 せっかくなので湖畔で行える依頼を一個か二個、可能ならあるだけ全部受けておいて、俺の名声も同時に稼いでおきたい。


 ランクが上がらないと他の町に移ることもできないしな。


「なんかすげー久々に感じるな、ここ」


 数日顔を出してなかっただけなのに。


 情報はナマモノだから、定期的につまんでおかないと腐っちまうってことか。


 変に詮索されると困るのでミミには外で待っておくように伝えた。


 それにおそらく、ミミを冒険者に登録するのは不可能か、仮にできたとしても適切じゃないだろう。奴隷に身分を与えるのはよくないとかそんなんで。


「ようこそギルドへ……おお、シュウトか。えらく久しぶりじゃないか」

「いろいろと準備に追われてたからな」

「ということは、湖畔に向かう覚悟ができたってことか」

「まあ、そんなとこだ」


 それより。


「俺はこんなどーでもいい世間話をしに来たんじゃない。仕事を探しに来たんだ」

「おっ、気合が入ってるな。いい傾向だ」

「派遣先が湖畔のやつを教えてくれ。採掘以外ならどれでもやるぞ」


 それなら、とおっさんは記帳をめくる。


「急ピッチで進めてほしい依頼がある。今朝入ったばかりの救援依頼だ」

「ほう。なにやら穏やかじゃないな」

「湖畔で活動していたパーティーが昨日未明、賞金首の魔物に襲われて散り散りになったらしい。ほとんどの奴はなんとかここまで帰ってこられたんだが、一人怪我してまともに身動きが取れない仲間がいるそうだ」

「え……それって大丈夫なのか?」


 不謹慎なイメージが脳裏をよぎる。


「朝一番に戻ってきた奴の話だと、多分草むらに身をひそめているはず、とのことだ。眠れぬ夜を過ごしただろうから早く助けに行ってくれってさ」


 死にはしてないだろう、とおっさんは意外にも楽観的に語る。


 冒険者のサバイバル能力を信用しているようだ。


「だが三日を超えて持つどうかは、神様の気まぐれになってしまう。早めに対応してやってほしいところなんだが、どいつもこいつも札付きが出たって聞いて怖気づいててな……」

「よっしゃ、だったら俺が救出してくるよ」


 載せられた報酬の三万Gは、他の依頼群と比べてダントツで多い。


 だが俺にとってはそんなのは些細な差。重要なのは、この依頼を達成することで俺の地位の飛躍的な向上が望めるということだ。


 斡旋所の同僚を助ける。これ以上にヒロイックな出来事はない。


 それに野垂れ死にされるのも後生が悪いしな。打算を抜きにしても救えるもんなら救ってやりたいところだ。


 まったく恐怖心がないと言うと嘘になるが、俺には強力極まりないカットラスがある。多少のことじゃビクともしないベストがある。


 今回は更にミミもいる……もっとも、初陣なのであまり無理はさせられないが。


 ……危険に晒されるなんて大っ嫌いだったのに、俺も随分変わったな。


 でも根底にあるのは最終的に満ち足りた生活を送りたいっていう欲望ダダ漏れの精神だから、そんなに変わってないか。


「で、動けないってのはどこのどいつだ?」


 その他の採取系依頼もまとめて承諾しながら、救出対象の冒険者について尋ねる俺。


 おっさんはここで初めて苦々しげな表情を作り、答える。


「ヒメリだ」

「えっ?」


 マジかよ。


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