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俺、制御する

 大量の金貨を抱えて自宅を飛び出た俺は、足取りのおぼつかない酔っ払いどもをかきわけながら町外れへ向かう。


 巨大な館が俺を出迎える。


 転生初日に訪れた奴隷市場。


 あの時はまったく手が届きそうになかったが、たった一週間で再訪することになるとは。


 つくづく俺のスキルは偉大だ。


「いらっしゃいませ」


 前回と同じく、ヒゲの男が接客に出てくる。


「おや、以前お見えになった方ですね」

「ああ、あの時は話だけさせて悪かった。今回はちゃんと取引をしにきたぞ」


 金貨のぎっしり詰まった布袋を掲げると、商人は一瞬目を丸くした。


「どうかしたか?」

「いえ、その、少しばかり驚いてしまいまして……。まさか本当に入念深く検討するためにお帰りになっていたとは」


 やはりと言うべきか、俺は単なる冷やかしだと思われていたらしい。


「大変失礼いたしました。僅か一週間でこれだけの額を工面できるのでしたら、お客様はこの町有数の長者でいらっしゃるのでしょう」

「ま、まあそんなところだ。それより」


 俺はこほんと咳払いしてごまかす。


「展示室とやらに行ってみたいんだが。一度見てみないことには商談もできねぇ」

「承知いたしました。ではこちらへ」


 奥の広間に通される。


 心臓がバクバク鳴っているのが分かった。なんて緊張感なんだ……。


「こちらが展示室になります。品定めはご慎重に」


 扉が開き、その内部が明らかになった。


 そこは部屋というよりも、牢獄を思わせる造りだった。


 室内は鉄柵で二つに区分され、俺のいる手前側の床には豪華な絨毯が敷き詰められていたが、柵の向こうでは質素な布がかぶさっているだけである。


 そこに、数十人の奴隷が入れられていた。 


 全員頭に動物の耳を生やしている。なるほど、これが獣人ってやつなのか。


 どうしても檻を連想してしまう。


 ……ただ率直な感想を言わせてもらうと、それほどひどい環境ではなかった。


 俺は『奴隷』という言葉から、勝手に足枷や首輪といった拘束具を想像してしまっていたが、そういったものは嵌められていない。


 大事な商品だから、と体を傷つけないための配慮だろう。


 衣服もさほどみすぼらしくない。汚い服を着させると実物以上に見劣りしてしまうからだろうか。そう考えさせられるほど、美人が揃っていた。俺の好みを抜きにしてもだ。


 いやいや、このルックス水準は異常だろ。


 誰が来てもノーチェンジなんだが。


 そもそも獣人自体が遺伝子的に目鼻立ちの整った種族なのだろうか?


 体型ひとつ眺めても、肉感的な子、細身な子、ロリっぽい子……購入者ごとの趣味に合わせているとしか思えない。


 皆期待と不安の入り混じった眼差しで俺のことを見てくる。俺が見にきたはずなのに、こう一斉に全員の視線が向いていると、俺こそが衆目に晒されているかのような気分になる。


 どちらかといえば期待するような目のほうが多かった。なんでもいいからこんな場所から早くオサラバしたいということか。


 たくさんの美女からそんなふうに見つめられたらそりゃ……。


 やばい。治まれ俺。大人しくしていろ俺!


「お客様」

「おっ、おう、なんだ」


 急に話しかけられたので動転してしまう。


「どういった基準で奴隷をお選びになりますか」

「うむ、それなんだが……目移りしちゃって選ぼうにも選べず……」

「では僭越ながら提案させていただきますが、実用性で選ぶのがよろしいかと思われます」


 じ、実用性だと? なんてストレートな言い回しなんだ。


「お見受けしたところお客様は冒険者でしょうから、戦力として計算できる獣人を推薦します。肉弾戦、もしくは魔法への適正がある者はいくらかおりますので」


 なんだ、実用性ってそういう意味か……。


 じゃなくて。


「確かに、ちょうど探索にも連れていける子を探していたんだ。どの女の子がいいかな」

「お客様、失礼ですが魔法の技量は?」

「皆無」

「では、魔力を有している獣人がよろしいかと。きっとお客様の長所を活かし、短所を補ってくれる存在となってくれます」


 ふむ、それは的確な意見だ。仮に戦闘に参加してくれなくとも、魔法屋で体験したように、ヒールやリペアが使える味方がいれば長旅で頼れるだろう。


「よし、じゃあそれで」

「かしこまりました。ですがお客様、ひとえに魔法の適正といっても、たとえば狐の遺伝子を引く獣人は非常に秀でていますのでワンランク高値となります。ご予算はいかほどですか?」

「百五十万だ」

「ああ……それですと足りませんね。その金額の前後で買うとなりますと、山羊の獣人が最適かと思われます」

「や、山羊?」


 なんか強くはなさそう。


「山羊は悪魔との関連性が深いとされています。侮ってはなりませんよ」

「へえ。まあ能書きは分かったから、とりあえず見させてくれ」


 頼むと、商人は「ミミ、ミミ」と手招きして柵の一番手前までその子を来させた。


「こちらが山羊の獣人になります。名はミミ。いかがでございましょう」

「いかがもなにも……」


 百点です、としか答えられないんだが。


 ショートカットの真っ白な髪の毛から突き出た、ぴんと張った耳と弧を描く角を見ると、なるほど山羊なのが分かる。


 エメラルドの澄み切った瞳は、草食動物の遺伝子の名残だろうか。


 そんな理性的な考察なんて全部投げ捨ててしまいたくなるくらい、ミミは美しい娘だった。


 喜怒哀楽を表に出さない、ぽーっとした表情もまたいい。


 しかもである。背はそれほど高くないのに体つきは豊満で、着衣越しにもはっきりとした体のラインが浮き出ている。どんだけ俺のツボを抑えてくるんだ。


 もう魔法とかどうでもよく、このまま早く連れて帰りたい気分になってくる。


「本来百五十二万Gの値をつけていたところなのですが、冒険者であるお客様の前途を祝して百五十万Gでの提供とさせていただきます」

「いいのか?」

「はい。その分、今後もご贔屓にお願いしますよ」


 うーむ、いかにもな商人のやり方だ。損して得取れってやつだろう。


「分かった。この子に決めよう」


 俺は布袋ごと金貨を商人に渡した。


 奴隷商人は慣れた手つきで素早く精算を終え、俺に売約書を切る。


 それから柵の端に取りつけられた戸の鍵を開け、ミミを窮屈な牢屋から解放した。


 邪魔な柵を隔てずに目にしたミミは輪をかけて魅力的に感じた。間近で彼女を前にして、俺は人目もはばからずゴクリと生唾を飲みこむ。


「ミミ、こちらはこれよりお前の主人となるお方だ。挨拶しておきなさい」


 指示されたミミは眠そうな目のまま頭を下げ。


「よろしくお願いします、マスター」


 と、少しだけ微笑を添えて言った。


 俺の男心に響く、とろけるようなウィスパーボイスで。


次回、ようやく女の子回なのでみっちりやります。

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