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俺、受注する

 ところがいつもに比べて様子がおかしい。


 斡旋所に入ってすぐ、薄手の鎧をまとった女に呼び止められた。


「あなたがシュウトさんですね?」


 しかも強めの態度で。


 口調そのものは丁寧だが、やたら圧迫感がある。


「そうだけど」

「失礼を承知でお聞きします。森に出現する要注意指定モンスターを三匹、それも一人で討伐したというのは事実でしょうか?」

「あー……事実で間違いねぇ」


 嘘を吐く意味もなさそうなので普通に答える。


 しかし答えてやったにもかかわらず黄金色の髪の女は一層むっとした表情を作った。


 ぶっちゃけると若い女、しかも結構な美人とまともに会話したのは異世界に来て初と言っていいので若干喜びもあったのだが、とはいえこんなふうに詰問されるとなると穏やかではない。


「というか、どこでその話を聞いたんだよ」

「サダさんからお伺いしました。ですが……」


 どこか悔しそうな口ぶりをする。


「この目で確認してもまだ信じられません。あなたみたいな何の変哲もなさそうな冒険者が、それだけの実績を成し遂げられただなんて!」


 そう言うと女はヒステリックに地団駄を踏んだ。


 な、なんだこいつ……。


「まあまあまあ、一回落ち着け。そもそもサダって誰だよ」

「すまん、シュウト。俺だ」


 奥のほうでおっさんが手を合わせて苦笑いしている。ってかそんな名前だったんだな、あんた。


「……はぁ、はぁ。失礼、取り乱しました。そうですね、冷静になれば理由は明らかでした。腑には落ちませんが単純なカラクリです」


 女は俺の身につけているカットラス、ベスト、チョーカーの豪華三点セットを見ながら。


「あなたではなく、装備品が強かったのでしょう」


 少々がっかりしたように呟く。


 さすがの俺もイラッときた。


 並の冒険者が腕五十点、装備五十点くらいのバランスでしのいでいるところを、俺は腕二十点装備八十点でやらせてもらってるのだからこの発言自体には異論ない。


「だが装備を揃えたのは俺自身だ。それ含めての実力だろ。大体な、カットラス以外は狼を倒した後で買ったものなんだぜ」

「むむ……も、森の魔物を倒しただけでいい気にならないでください!」

「いや別になってないんだが」


 俺のツッコミも気にせず女はまくしたてる。


「いいですか、この町を拠点にする冒険者は、北にある鉱山の最上部に出現するオークと戦えてようやく一人前とされています。あなたにオークを難なく倒せるだけの実力があるなら、それを証明してみてください」

「え、なんでだよ……」


 めんどくさい。


「それに証明するったって、どうやってお前を納得させりゃいいんだよ。目の前でやれってか? それは嫌だぜ、俺は単独行動派なんだ」


 ありえない量の金貨を目撃されるわけにはいかないんでな。


「オークのはびこる最上層でしか取れない鉱物、銀があります。それを持ってきてくれれば信じましょう。これは依頼です!」


 女はズビシィッという効果音が似合いそうな指差しポーズを取った。


「報酬は6000G。例の懸賞金を上回る額を出しましょう。あなたにとっても悪い話ではないはずです」


 どうだ! とばかりに金額を提示されたものの、俺からしたらそんなめちゃくちゃおいしい儲け話でもない。


 もちろん口にも態度にも出さないでおくが。


「おいおい、そんな身銭切って大丈夫なのか?」

「かまいません! 私の四日分の食費ですが、そのくらいの覚悟ということです」


 心配したのかおっさんも口を挟んできたが、女の決意は変わらないらしい。あとさらっと聞き流してしまったが一日あたり1500Gって食いすぎだろ。


「期限は明日の十八時までとします。お願いしますね」


 そう一方的に告げると、女はどこかに行ってしまった。


「……なんだ今のは」

「ヒメリって冒険者だ。まあ、大目に見てやってくれ。あれがあいつのかわいいところなんだよ。お前が来るまでうちのギルドで一番の成長株だったから、要するに嫉妬だな」


 なにせ登録から一週間と経たずに懸賞金付きの魔物を倒すなんてのは前例がないからなぁ、とおっさんは続ける。


「そもそもなんで俺の話をしてんだよ」

「悪い悪い、でもつい自慢したくなったんだよ。そういうのあるだろ?」

「俺の業績だ」


 おかげで厄介事に巻き込まれてしまった俺の身にもなってほしい。


 どこの世界にも新人イビリってのはあるんだな。外見からすると歳は俺より下っぽいが。


 とはいえ、やるべきことはハナから決まってる。


「どうせ森以外にも行ってみるつもりだったし、ついでにこなしておくわ。あいつに絡まれ続けたらめんどくさくてかなわん」


 無視したなら無視したでウザ絡みしてくるのは目に見えてるので、さっさと片付けたほうが得策だろう。


 ああいう向こうっ気の強い美人をシュンとさせるのも悪くない。いろんな意味で。


「そうか。だったら鉱山について説明しておこう。この町の北にある場所で、片道一時間くらいで着く。レアメタルは出土しないが鉄と銀が取れるから、ここで採掘と鍛冶の面白さを覚える冒険者も多いぞ」

「鉄と銀だけかぁ」


 だとしたら素材入手の面ではあまりおいしくないな。


 凡庸な武器には乗り換える価値がない。海洋鉱のカットラスより強い武器となると、やはり希少な鉱石をふんだんに使用したものでないと。


「ただ一層にはゴブリン、二層にはコボルト、三層にはオークが生息している。どいつもお前の倒した懸賞首よりは弱いが、その分数は多い。いわば冒険者の登竜門みたいなもんだ。警戒は怠るなよ」


 それだけ聞けば十分。俺はおっさんから地図の写しをもらって出発した。


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