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俺、要求する

 最近即死した。トラックに轢かれて。


 まあそれはいいのだが、死後の世界で女神から衝撃の告白を受けた。


「申し訳ありません! お迎えの順番を間違えました!」


 どうやら俺はミスって死んだらしい。


「おいおい勘弁してくれ。あと五、六十年は生きられたんだぞ」


 さすがにキレる権利があるので文句をつけておいた。


「お詫びと言ってはなんですが、今すぐに生き返らせてさしあげます」

「いや、それはちょっと待ってくれ」


 よくよく考えてみれば生きてても別にいいことなかったな。あのまま日雇いバイトを続けたところでまともな人生が開けているわけがない。


 生きるために働く必要があるのに、実際は働くために生きていたような毎日だ。死んだ今だから冷静になって見られるが、ろくな生涯じゃなかったな、俺。


 というか借金も残ってるし。


 ……苦行なだけじゃないか。戻りたくない。


「すまん、死んでるままでいいわ」

「それはできません。寿命を満たしていない魂は天国にも地獄にも属せないのですから。このままだとあなたは自然消滅してしまいます」


 む……じゃあ復活するしかないか。


「生き返るにしても、前いた世界はごめんだ。なんか他の選択肢ないのか?」

「えっ、他のですか? うーん、それでは『ドルバドル』という世界はいかがでしょう」

「現世じゃなきゃどこでもいい。それで頼む」

「こちらは剣と魔法の世界ですが、本当によろしいですか?」


 面倒そうなキーワードが出てきたな。


「そこさー、俺みたいな一般人が暮らしてても問題ないところなのか?」

「大丈夫だと思いますよ。収入を得る手段はちょっと特殊で大変ですが」

「稼ぐのが大変ってダメじゃん」

「もちろん手ぶらで送り出すだなんて粗相はしません。こちらのミスの補填はします。あなたが新しい世界で快適に生きていけるようサポートさせていただきます」

「ほう……で、どうやって?」


 ついてこられても困るぞ。


「ひとつだけ特別なスキルをプレゼントいたします。うまく活用できれば英雄にも王様にも、はたまた闇の支配者にまでなれますよ」

「ええ……別にそんなのなりたくないんだが」


 正直引いている。


「でもドルバドルでは強さこそが一番大きく稼げる手段なのですよ?」

「戦うとかそういうのはあんまり……俺は平和主義者なんだ。せっかく飛び道具一個くれるんなら、もっとこう、楽して生きていける感じのをくれ」


 日本国憲法にも最低限文化的な暮らしとかそんな感じのことが書かれていたはずだが、俺が求めているのはそれ。不満なく暮らせるレベルでいい。


「で、でも、でもですよ、めちゃくちゃ凄い魔法とか使ってみたくないですか?」

「金になるの?」

「それはもう! 高額の懸賞金がかかった魔物を討伐する必要はありますが」

「じゃあいいや……」


 すげーしんどそう。


「それだと……ええと……戦闘で役立つものはいっぱいあるのに……」


 女神はあれこれ思案しながら贈与可能なスキルをいろいろ探っている。


「……決まりました。このスキルならば人より遥かに楽ができるかと思います」

「そりゃ助かる。ありがたく有効利用させてもらうぜ」


 俺としては万々歳だが、女神はまだ微妙に納得していない顔をしている。


「ではこれより、白澤秀人はシュウト・シラサワとして、ドルバドルの地に転生します」


 情けない魂だけの存在に過ぎなかった俺が、女神のその一言で徐々に肉体を取り戻していくのが分かった。けれど同時に頭の芯も霞み、思考が混濁していく。


 生まれ変わるとはこんな心地なのか――そんなことを考えているうちに、俺は意識を失った。

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