5 暗躍
日が落ちて薄暗くなった廃ビルの中で、数人のローブ姿の男達が会合を行っていた。
全員がフードを深くかぶって表情を隠しており、異質な雰囲気が漂っている
。
「今夜、作戦の第一段階を実行します」
リーダーである赤いローブの男が言った。口調こそ柔らかいが、その言葉にはどこか静かな狂気を感じさせる。
リーダーの言葉を受け、周囲の黒いローブの男達は静かに頷く。目指す目的は一緒だ。意を唱える者などこの場には一人もいない。
「昨晩、斥候を行っていた同士との連絡が途絶えました。相手方にも、相当の実力者がいるとみて間違いないでしょう」
リーダーからもたらされた情報に、周囲がざわつく。これまで順調に進んでいた計画に生じた初めての綻びだ。動揺する者も多いだろう。
「だが、恐れることなどありません。我々の崇高なる計画は、必ず成功します。私がそのことを約束しましょう!」
威厳に満ちたその言葉に、黒いローブの男達の志気は高まり、大きな歓声が上がった。
あえて最初にマイナスな情報を伝えることで緊張感を生み、その後に強い言葉を使い奮い立たせる。リーダーの想定通りだった。
「重要な役目です。頼みましたよ」
「はい、我らの命に代えても」
今回の作戦を任される三人の男達をリーダは激励する。四人の男たちは光栄の意を込めて膝を着き、頭を下げた。
「では、改めて作戦を命じます。〈NEXT〉研究者の娘、詩月沙羅を誘拐しなさい」
「御意に」
三人の男たちは与えられた命を果たすべく、ビルを飛び出し、夜の闇へと消えていった。
「残りの者達も次の作戦の準備をしなさい。重要なのはここからです」
命令に頷き、他の男達も役割を果たすべくその場を後にする。
まるで最初から誰も存在していなかったかのように、一瞬で廃ビル内から男達の気配が消えた。
「もう少しだ。僕が理想とする世界の実現まで」
誰もいなくなった室内に、リーダーの笑い声だけが響き渡った。
※沙羅の誘拐に向かった男達の人数が四人となっていましたが、三人に修正しました。
単純な修正忘れでした。こういうミスを減らせるように頑張ります。