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ウィザード&ワーウルフ  ~二つの最強を宿す者~  作者: 湖城マコト
1 残り火 ~亡霊たちは破壊を望む~
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12 図書館

 翌日の夕方。沙羅さらは学校を後にし、その足で市立図書館を訪れようとしていた。瑠璃子の提案通り、灯夜とうやも一緒だ。

 図書館へは、陽炎かげろう高校から徒歩で10分程。公共施設の多い、市の中心部に位置している。周囲には運動場や噴水が特徴的な公園などがあり、清々しい雰囲気に包まれている。


「素敵な図書館だね」


 沙羅は目を輝かせ、第一印象を口にした。

 曲線的なデザインを黒で引き締めたシックな外観。敷地内の庭には複数のアート作品が飾られており、季節感を醸し出す周囲の植物たちが、その魅力をさらに高めている。美術館だと言われても納得できるような、洒落た建物だ。


「二年前に、老朽化した古い図書館から建て替えられてな。建物のデザインは、館長自ら行ったらしい。ちなみに、飾られている作品も館長のコレクションの一部だそうだ」

「だとしたら、凄くセンスの良い人なんだね」


 建築に詳しいというわけでは無いので偉そうなことは言えないが、この図書館の外観には、一目見ただけで立ち寄りたくなってしまうような魅力を、沙羅は感じていた。

 飾られているアート作品だってそうだ。美術的な価値など関係なく、見ていて楽しい、好奇心をくすぐられる、そう思わせるような、魅力あふれる作品が多い。


「見物は今度にしろよ。今日は調査で来てるんだから」

「わ、分かってるよ」


 じっくり見学したいという思いを、沙羅は必死に抑え込んだ。灯夜の言う通り、今日は遊びで来ているわけではないのだ。


「行くぞ」


 灯夜はさっさと入口の方へと向かってしまった。


「ちょっと待って久世くぜくん。閉館時間を過ぎちゃったみたいだけど?」


 入口付近の立て看板を見て、沙羅は灯夜を呼び止める。

 看板によると、開館が午前9時で閉館が午後5時。現在の時刻は午後6時を少し回ったところなので、閉館時間はとっくに過ぎている。


「それを狙って、少し遅めに来たんだよ」

「どういうこと?」


 学校が終わったのは午後4時30分くらいで、早速図書館へ向かおうと提案する沙羅に、灯夜は「まだ大丈夫だ」と言い、教室で仮眠を始めてしまった。その結果、到着が今の時間になってしまったわけだ。

 沙羅は灯夜の言葉を、遅くまで開館している図書館だから焦らなくても大丈夫だ、という意味で捉えていたのだが、今の灯夜の発言から察するに、わざと閉館後の時間を狙ってやってきたことになる。


「とりあえず入ろうぜ」


 灯夜は躊躇なく、堂々と正面入り口から館内へと入って行った。


「ま、待ってよ」


 閉館後の図書館に立ち入っていいものか決心がつかぬまま、沙羅も灯夜に続いた。

 エントランスに入ると、閉館後とはいえ数人の司書が作業をしており、閉館時刻を過ぎてからの奇妙な来館者に、いっせいに視線が注がれた。


「……完全に浮いているんですど」


 話が違うじゃないかと言わんばかりに、沙羅は灯夜に確認する。周りの視線が痛いとはまさしく今の状況だ。


「申し訳ありません。本日はもう、閉館なのですが」


 状況を見かねたのだろう。三十代くらいと思われる男性司書が柔らかい物腰で声をかけてきた。この場の対応としては適切だろう。


「館長さんに話があるんです。久世灯夜くぜとうやと言えば伝わると思います」

灰塚はいづかにですか?」


 司書は訝しむような目で灯夜を見ている。学生二人が、何のアポイントも無しに閉館後に館長を訪ねて来れば、不思議に思うのも当然かもしれない。


「……本当に大丈夫なのかな?」


 進展しない状況に、沙羅は気まずさを感じていた。

 だが、そんな居心地の悪さは、あっさりと解消されることとなった。


「おや、灯夜くんじゃないか」


 奥の部屋から、壮年の長身の男性が姿を見せた。

 男性は丸眼鏡をかけ、セットアップとなっているグレーのベストとスラックスを着用。日本人のようだが顔の堀りも深めで、どこか英国紳士的な雰囲気を感じさせる。


「こんばんわ、灰塚さん。今日は灰塚さんにお話しがあって伺いました」


 目上の相手に対する最低限の言葉使いくらいは心得ているようで、灯夜は普段よりも丁寧な口調で要件を告げた。


「いつでも大歓迎だよ」


 知的な笑みを浮かべると、灰塚は快く要件を聞き入れた。


「そちらのお嬢さんは、初めましてだね」


 灰塚が沙羅の存在に気づき、話しかけた。


「久世くんの同級生の、詩月沙羅うたつきさらと申します。この街には先日越してきたばかりです。よろしくお願いします」

「館長の、灰塚霧人はいづかきりひとです。どうぞよろしく」


 優しい微笑みで灰塚は右手を差し出し、沙羅もそれに応えて握手を交わす。


「館長、お知り合いなんですか?」


 灯夜と灰塚が親し気に会話している様子を見て、司書の男性は面食らったような顔をしている。やはり本心では灯夜のことを怪しんでいたのだろう。彼の言葉が事実だと知り、驚いているようだ。


「ああ、私の大事なお客様だ。私はこれから館長室で彼らと少し話がある。君達は、蔵書の点検が終わったら、今日はもう引き上げてくれても構わない。戸締りは私がしておくから」


 灰塚の言葉に司書たちは「わかりました」と頷き、再び作業へと戻っていった。


「なあ、閉館後に来ても大丈夫だっただろ」


 灯夜がそっと沙羅に耳打ちした。


「確かに大丈夫だったけど、何でわざわざ閉館後にここへ?」


 灰塚館長を訪ねるだけなら、別に開館中でもいいのにと、沙羅は思う。


「閉館後の方が灰塚さんがいる可能性が高いんだよ。魔術師としての仕事は、主に閉館後にやってるから」

「だったら最初から、そのことを説明してよね」


 相変わらず説明不足な灯夜に、沙羅は大きな溜息を漏らした。初めから説明してくれていれば、ここまで気苦労を重ねなくて良かっただろうに。


「それでは、館長室に行こうか」


 灰塚に案内され、灯夜と沙羅は、奥の館長室へと通された。





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