日南休直史の周りは絶望ばかりだ5
船が出発してから数分後、船内が急に慌だしくなった。最終便なのに何故なのだろうか。リアルファイトでも起きてるのかな?やるなら巨大人工浮島でやって欲しいなまったくよお。
音のある方へ行ってみると、リアルファイトとかは起きてなかった。ふう、よかったよかったって・・・・・・じゃあ何であんな音がしたのだろうっ!?
体が動かない・・・・・・。何も絶滅病になることがない。殴られたのだろうか。不意打ちを受けると動けなくなるって本当だったんだ。そのまま地面に受け身も取れず倒れる。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
視界が殆ど開いてないので、どのような人か分からないが、少なくとも危ない奴だ。それに言葉が理解できない。ん?何で物事を考えられるんだ?麻痺毒とかでやられたのか。思考があるなら少しでも行動しないと、俺は耳に神経を集中させる。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
やっぱりだ。少なくとも俺の知ってる言葉じゃない。巨大人工浮島でだって多分使ってない。ということは。テロとか言うやつなのだろうか。
そこで俺は不審者の一人に担がれる。多分まとめていた方が管理がしやすいし、もしこいつらが人を商品としているなら、売買するときも楽だからだろう。はあ、ったくこんな不良品売買したところで赤字が出るだけだってえの。
「コノ言葉ナラ分カルカ?坊主」
ん?さっきまで理解できない言葉を話していた人のはずだが、今度は俺の知ってる言葉で話しかけてきた。もちろんだが他の奴には聞こえないようにだ。けど、あんたらのせいで話せませんがね。
『思考ハ生キテイルノダロウ?コッチデハ会話出来ルヨナ』
頭に直接声が響く。このおっさんすげえな。
『コレデモマダ二十歳ニナッテイナインダガナ。マアイイ。ソレニシテモ、見タ所日本人ミタイダガ、最初ニ話シタコトバノホウガ分カラナイナンテ、オ前本当ニ日本人カ?』
殆ど勉強なんてしてねえんだよ当然だろうが。それにカタカナって聴き取りにくいんだよ。
『慣レテ無イナイ国ナンダ、ショウガナイダロウ』
あんたいったい何なんだよ。こんな事して許されると・・・・・・。おっさんは気絶した振りをしろと俺に合図をする。俺の意識があると奴らから襲われる危険がある上、このおっさんもスパイだと疑われて裏切り者として消される可能性がある。利害の一致とやらだ。とにかく今頼りになるのはこのおっさんだけだ。もし、このおっさんが信用に値しないゲスな人間でも。はあ、ヒナにどう言い訳しよう。俺は目を瞑りつつ別のことを考える。
『家族ガイルノカ?ジャアココハナントシテデモ生キナイトナ』
巨大人工浮島の言葉なら分かるからさ、そっちで話してくれますかね?
おっさんは目を一瞬大きく開くと、また思考会話を始めた。
『変な奴だなお前』
思考会話してるあんたも同類でしょう。おっさんと話し始めて数分、人質と思われる人達と同じ客室に監禁された。てか、男が少ないな。違う船に乗ったのだろうか。そうだとしたら俺運がねえなあ。大体人身売買って状況にもよるが、買う相手が大富豪の男性だったらその大富豪がホが付く人か(無論、現実にそんな人が多くいるとは思えないが)、売られる方が男の娘でもない限り売られることはない。つまり普通の男である俺がこの要素に入れる率は低い。
『今は黙っておけよ坊主』
分かってる、分かってる。今はこのままでいろってことだろ?俺だって死にたくないんだ。おっさんの話は聞くよ。てか、坊主じゃねえよ。
だからおっさんじゃないって思考会話した後溜め息をしたおっさんは仲間の場所へ向かった。
んにしてもどうするか。このままでいてもらちがあかない。もう一回おっさんが来たら行動するか。
「・・・・・・・・・・・・」
テロリスト?の1人が人質に説明している。他の奴らは分かってるようで、頷いている。ここは合わせないとな。ああ、恐い恐い。
船がバンッという音と共に大きく揺れる。説明していたテロリスト?の男は何が起きたのか無線で連絡を取り合い出した。彼らにも予期しない事だったらしく僅かにであったが、動揺が見えた。人質側は多少のパニックだ。なぜか、俺は恐怖が感じなかったが。逆にそっちの方が恐い。
『坊主、聞こえるか』
どうしたんだ?おっさん。なんかこっちの方は軽いパニック状態何だが。
『誰かがエンジン部を破壊しようとしたみたいでな。まあ、爆薬の量が少なかったおかげでいきなり大破って事にはならなかったみたいだ』
そうなのか。だけどさおっさん。このままだと止まるんじゃあないのか。それにちゃんとした時間に到着しないとあんたら全員危険だと思うし。
『それはないな』
どうしてだ?いくら沈まなくても動けないなら意味ないだろ。
『巨大人工浮島は今回の事には手を出さない』
はぁ?手を出さないってどういうことだよ。市民が人質に取られても無視すんのかよ。
『いつもならそんなことはない。だが今回だけは違うんだ。それは・・・・・・すまない集合が掛かった。また、後で話す』
こちらの質問に答えず、おっさんからの通信は途絶えた。しかし、気になる。巨大人工浮島が来ない。こっちがこないなら日本が来てくれる可能性なんてない。完全に八方ふさがりじゃあないか。どうするか?まだ日があれば泳いで逃げる(薬を飲みながらにはなるが)ことが出来るかもしれないが、今は最終便だ。外は真っ暗、そして冷たい。船の灯りだけが頼りのこの状況でこの手段は取れない。連絡しようにもSNSじゃあまともに信じて貰えない。仮に信じて貰えても、特定なんて無理だろうし、それに救出作業がばれるとこちらが危ない。皆がハッピーエンドになる方法は船の一部を破壊することだ。・・・・・・ん?待てよ。テロリスト?の人は動揺していた。つまりは計画にはなかったってことだ。ということは、別の人間がやったに他ならない。
あのおっさんが自分の首を絞める事はしないだろうし、ましてや一般人が船を破壊出来るほどの爆薬を用意できるはずがないし、その前に取り押さえられて終わりだ。考えられることは、元から仕掛けられていたか、テロリスト?の誰かが仲間を売ったと言うことだ。おっさんはきっと、ここまで浮かんでいるだろう。テスト結果がいつも悪い俺が気づくんだ。
「・・・・・・・・・・・・!」
テロリスト?の男が仲間と連絡を取っていた次の瞬間、船が大きく揺れた。衝撃も大きかったようで、ガラスも割れる。そこで、傾かなければ良かったが、運が悪いと全部悪くなるのか、横に傾き始めた。俺は座席に引っかかったおかげで、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!と叫ぶだけで落ちることが無かったが、殆どの人は駄目だったみたいだ。そのまま海へ落ちていった。この高さだ。幾ら横に傾いているとはいえ、それでも5~6階の高さから水に落ちたら、死ぬことはないにせよどこかの怪我は確実だ。それに先までのパニックが悪循環を起こす。呼吸がしたいから人を押す。さらにそこに人に押される。その繰り返しだ。もうこうなったらおしまいだ。足が付けばなんとかなるかもしれないが。
『坊主!大丈夫か』
ああ・・・・・・俺は大丈夫だけどあんたの仲間が。やっぱり巨大人工浮島は関与してたんだ。人は信じちゃいけないね。
『坊主。そのまま海へ飛び込め。俺達も乗客をぎりぎり・・・・・・・・・・・・』
おっさんの話の全てを聴く前に、船は大きく揺れ俺も落ちた。また、絶滅病が来たのだろうか意識が遠退いていく。そんな状況で見えたのは炎上する船とその炎で燃える乗客とテロリスト?の男達。そして空をジェットパックなしで空を飛ぶ人の姿だった。