日南休直史の周りは絶望ばかりだ4
俺のバイト先は、いきなりだが、日本ではない。まあ、船でバイトに行くって言ったら、本島に住んでないことになるが、俺は本島に住んでる。じゃあ何処かだって?それは、人工島の巨大人工浮島だ。そんでもって、世界には水上にあるものを、水上島。空にあるのを空島。そして、俺も行ったことがない宇宙コロニー。これらを1セットが巨大人工浮島で、世界にはそれがアメリカ、ヨーロッパ、アジア、オセアニア、アフリカの5つに存在する。(これらは、大きいもので、小さい巨大人工浮島を含めれば、百以上はある。)
なんで金食い虫であり、国の土地にもならない人工島などを作ったのかは、俺には分からない。けど、そこで働いている以上文句は言えない。というか、日本にいるより安全だったりするのだ。
ここは先ほども言ったが、日本では無い。と言うことは、パスポートが必要だったりするわけだが、それだけで行けるのなら最高です。あれだ、入国するときに何しに来たの的なことを言われた場合、バイトに来たとか言うと、あまり良い反応を示されない。巨大人工浮島は非正規雇用を好まないからである。今の時代、非正規雇用を好まないってどんなとこだよ。みんな金持ちだってことなんだろうな。無論、大企業だけだろうが。
「何しに来たのですか?」
「ええと、知り合いに会いに」
「……はい。OKです。進んで」
「あっ、どうも」
ふう、入国審査官にはバイトで来たって事は気づかれなかったか。本当ならこんな思いしてまで巨大人工浮島でバイトなんてしたくないし、絶望病で倒れそうだけど、この10年間ヒナの両親から助けて貰っている訳だし。当然の事だろう。それに、日本より賃金が良いという点が本当に大きい。船での移動を含めても、こちらで働いた方が稼げるのだ。あれかな?バブル経済なのか?巨大人工浮島は。
さて港を出たわけだが、歩いて行きますか。そんな遠い訳でも無いし、少しでも無駄遣いはしたくない。てくてく……。
それにしても、本当に巨大人工浮島の建物は一つ一つが高層ビルレベルなんだよなあ。一度こんな景色を見てしまうと、日本の建物はこちらでの賃貸住宅にしか見えない。土地が少ないとはいえ、ここまで高くするにはかなりのコストが掛かりそうな上、技術革新でもなければ、短時間で作れないよな普通。
ほぼ毎日来ているというのに、巨大人工浮島はどんどん進化していく。特に今いる中心部は専用のソフトがないとそこに住んでる人でも絶対に迷うレベルだ。つまり、俺はどう足掻いても、迷うってことだ。機械音痴の人はどうするんだろう。まあ、電車やバスを使えば問題ないのだがね。ん?電車やバスがあるならそれを元にすれば大丈夫じゃないのかって?バスも電車も地下を通るので元にしようがないのでありますよ。お客さん。
そんなこんなでバイト先に着いた。店はそこまで大きくはなく、日本で言ったら、普通の喫茶店より大きいぐらいの三階建てだ。特に働く内容が決まっているわけじゃないから今日はどのように扱き使われるのだろうか、俺でも分からない。もちろん、絶望病の事は説明済みだ。俺が学校で飲んだ薬を用意してくれたのもここだ。それに関しては、本当に感謝している。命の恩人のような人達な訳だし。
入り口は客用と店員用に別れているので、店員用から入る。まあ、当然だな。入るとすぐに更衣室が簡易的二設置されているので、学生服を脱ぎ、私服のパーカーを来た後緑一色のエプロンを掛ける。何かを作るわけではないが、ヒナ特製のパーカーが汚れるわけにもいかないし。じゃあ着るなよって話だが、動きやすくて着心地が良い。中々こんな物には出会えないから着ている。
カウンターに入ると、店員のリーリャさんと、キッチンで調理中のマスターがいた。
リーリャさんはとても真面目で、尚かつ頭もいい。家に帰るのは夜遅くになることも多いので、ヒナの代わりに教わったりしている。俺に理解力がないので大体が無駄になっているが。
それに比べマスターは仕事中でも、暇さえあればパソコンの前に座っている。これが仕事でなければ、ニートと言われてもおかしくない。
「あら、今日は中々早かったね、ナオフミくん」
「ええ、途中で倒れることもなかったですし、船も今日は速かったんですよ」
「あれま、珍しいんじゃないかな?ナオフミくんが倒れないなんて。それとも学校で倒れたから今日の分は昼に飲んだとか」
「あちゃ~ばれたか~さすがリーリャさんだ。話しただけでそこまで理解するなんて、さすがですわ。天才ですわ~」
「言い方が棒読みだけど?まあ、いいや。仕事始めましょうか」
俺は了解ですと言うと、布巾とスポンジと、山積みの皿を目の前に置かれた。つまり、皿洗いですね。わかります。
この喫茶は巨大人工浮島にある店としては、客の来店数は多い。その分皿の使用量も多い訳だ。絶望病に影響しないよう、休憩を挟まないと俺は行けないので余計大変だ。
それから店が閉店するまで働き、今日のバイトは終了した。俺がエプロンとパーカーを脱ぎ制服に着替えて帰るとき、リーリャさんが話しかけてきた。結構露出が多いな。そういう仕事でもしているのかな?
「ナオフミくんお疲れさま~」
「リーリャさんもお疲れさまです。そんでマスターは?」
「今日は中々働いたんじゃないかな?酷いときは立つことなんて無いんだし」
「シィット!本当よくこれで潰れないよなここ。そう思いません?リーリャさん」
「ここは変な人がたくさん来る店だからね。私だって、これでもかって程クルクルパーなんだよ?頭」
そうかもしれない。俺だってこの店以外でバイトなんて絶望病のせいで出来ないだろうし。もちろん、リーリャさんがクルクルパーな訳ではない。ほんとだよ。
「そう言う人達が息抜き出来る場所または、働く場所としてマスターは多少の利益しか出ないこの仕事でも続けてるんじゃないかな?」
「その本人はゲームで時間潰ししてますけどね……」
「まあ、私達が働けばいいじゃない。でしょ?」
リーリャさんは片目を閉じ右手を唇に当てる。効果音を入れるとするならてへぺろだ。ん?てへぺろは頭に手だったか。まあ、そんな感じだ。
リーリャさんと最寄り駅まで一緒に帰った。話しながらだったからすぐに着いたがその内容は、今のところ変わったことは無いかとか、聞いてくることがまるで姉だ。なんでこう俺の周りは姉気質な人が多いのだろうか。やっぱり絶望病が大きいのだろうか。面倒見てくれる人がいるというのはいいことだと思う。そういう面で俺はほんと恵まれている。反抗期になりにくいので、社会に出たときが怖いが。
「それじゃあね~変な所行っちゃあダメだよ~」
「へいへい、分かってますって。「行くのは二十歳になってから」ですよね」
「結局行くんだ!?」
何かと勘違いしているようなので言っといた方が良いのか……俺が行くのはそういう類では無いんだがって。けど、面白い反応しそうだからこのままにしておくか。
「はい。行きますよ。そりゃあ毎日」
リーリャさんはあわわわ……と顔を真っ赤にして改札口を通っていった。さてと、俺も帰るか。最終便に乗り遅れたら大変だ。だからといって、電車に乗るわけじゃない。
俺は、巨大人工浮島専用ソフトを開くが、反応がない。GPSの故障だろうか。どの方角を向いても一切動作しない。電車に乗れと言うことですかそうですか。
結局俺はリーリャさんと同じ列車に乗り港へ向かった。