後日談(5)
「ふうぅ・・・食った食った。思ったより量が多かった」
「いやあ、いつも1人で食べてたからどれぐらいの量配分か分からなかったけど、よかったよかった」
足も義足とはいえ今までよりは確実に歩きやすくなってるし、食事も携帯食料の様な渋いものではないしで、最高だ。
「では俺は義足の最終調整を行って来ますので、それではまた」
狂学者は中央部を出て自分の部屋に戻る。同時に俺は全力で走れるか試しているが、普通に走れる。逆に生身の足よりも速度が上がってたり、高く跳べたり出来る。これで試作品だと言うのが驚きだ。基本的に試作品は実用出来るかの確認をする為に作るから、今回の俺の様に歩ければ問題ない場合それ以上の耐久性は求める必要はない。けど、狂学者はそれを可能にしてしまっている。もう感心するしかできないなぁ。
「走ることに支障はないか?平凡」
「ああ、すんげえ歩きやすい。それに走ることも———」
こちらが言い切る前に憤怒は鉄の物体を取り出す。あまりにも急だったので理解出来ずに足が止まる。温和達も憤怒の行動には驚きを隠せない様だ。
右腕が勝手に後ろに進み、さらに動かせない。
「憤怒君!?何を———」
「温和はそこで見ていろ。これは平凡が望んだことだ。強くなりたいと言ったのだからな」
確かにそうは言ったが、こちらがもう一度頼んでからやるのかと思ってた。ということは右腕が勝手に動いたのは・・・・・・。不意打ちで発砲したということか?ナイフを投げてしっかり人に刺さろうとしたら、それだけ力も必要だ。あの体勢からでは出来る筈がない。じゃあ何か?憤怒を見ると、両手とも机の下に隠れて肘より先が見えない。今度は後ろに進んでぶら下がる様になった右腕を見ると手首付近から赤い液体が流れている。
「そのまま止まってると、死ぬぞ?」
「は?ちょっと待て———」
今度は右腕の肩に衝撃が走る。痛いが足がなくなった時ほど痛くない。多分あの怪我で痛みに耐性が付いたのかもしれない。
「平凡君!走れ!」
温和の言葉通りに中央部から出て自分の部屋へと向かう。一つ目の十字路にさしかかった所で、憤怒が出てきたのだろうが?大きな足音が数回聞こえた。向こうには銃がある。それに比べて俺は、右腕は使い物にならないし義足は全力で走ることが出来るとは確定していない状態だ。向こうからすれば、俺なんて一捻りだろう。今俺に出来ることは逃げる事だけだ。
十字路を左に曲がり、数メートル先のT字路を右に曲がる。身体が壁の裏側に入る前に銃の発砲音が聞こえた。足首部分に当たるが、義足だった事も相まって多少の身体の揺れだけで済んだ。
「銃を捨てろ!そうしなきゃ練習にも何ねえだろうが!」
「外で同じ目にあった時どうする?実際に平凡、お前はテロに巻き込まれただろうが」
「あん時は撃たれてない!———せめてナイフプレイだけにしてくれよ!」
「甘ったれたことが言えるぐらいの余裕があるならこのまま続けるぞ」
銃声が廊下に響く。俺は当たらない事だけを考えて、右へ左へと道が分かれるたびに曲がっていく。プロであれば今までの発砲数を憶えているんだろうが、そんな余裕は俺にはない。仮に出来ていたとしても、最初の発砲回数を含めているかどうかで計算方法が変わってしまう。
「平凡さん・・・!こちらへ。このまま逃げても憤怒さんとかち合うだけですよ。一回体勢を立て直しましょう」
「狂学者!?何で———」
言い切る前にまだ動く左腕を掴み部屋のベッドの下に押し込まれた。それに少し遅れて憤怒が部屋に入って来た。
「狂学者、平凡はお前の部屋に入って来なかったか?」
「いえ、俺は見ていません」
「扉が開いた音が聴こえたが?」
「飼ってるネズミが逃げ出しまして、それで扉を開けただけですよ」
「嘘はついていないだろうな?」
「俺はこの部屋の中には実験体しか入れないといつも言っているじゃないですか。それなのに疑うのは少し心外です」
「そうか・・・すまなかった」
そう言い残し部屋を出て行った憤怒だったが、確実に気付いている気がする。ベッドに視線がきていたからだ。
もう大丈夫だろうか?試しにベッドから出て狂学者の部屋の外を見ようと扉に向かおうとすると、狂学者が俺の肩に手を置き待てと合図する。
「多分扉からは出られませんね、憤怒は扉付近に意識を向けているでしょうから。平凡さん、まずはこれに義足を付け直して下さい」
それほど足を動かすのは問題ないが、やっぱり作った人の意見には従った方が良いだろう。それに今の俺で憤怒に勝てる気がしない。少しでも勝てる可能性が上がるのなら、それに従うのは正しい判断だと思う。義足を外しそれを狂学者のに交換する。
今度のは途中までではなく、足全体を覆う義足になっておりその上で生え際付近に何かを入れるスペースがある。
「狂学者、このスペースって何だ?ポケットの代わりか?」
「これを入れる為ですよ」
おいおいそれは・・・俺にそれが出来る訳がない。けど、それを口にすればこう言い返されるだろう。———BOWには出来て人には出来ないんですか?同じ生き物なのにどうしてそう分けられるんですか?———と。俺はただ自分を、俺自身を守りたかったからそうしたんだ。今回は無理しなければ、ここにいて狂学者をいざという時の壁にすればいい。屑的なだが、あの時みたいに周りが遅くなる状態に出来ない以上、戦闘なんて正気の沙汰じゃない。戦いは勝てる見込みがあって初めて出来るんだ。BOWの時はサポートになる人が、インがいたから———。
「いいやそれなら」
「そうですか・・・しかし隠れるにしてもしないにしても、これ以上ここにおられて憤怒に気付かれるのはあまり良くない。そこのダクトを直進してください。そうすればその端にあるあなたの部屋に行けるはずなので。また壊れたら来てください。可能な限り修理しますから」
狂学者が指差すダクトに向かうが背が足りない。そこで狂学者は梯子を持ってきてくれ、それを使い俺は自分の部屋に向かった。勝てる訳がないが、それでも何かは出来るはずと信じて。




