2つ目の外側の天国
巨大人工浮島に着いて初めに感じたのは海の香りだ。
苦手な人からすればどれだけ慣れても慣れないものだ。それは俺もだが。
空には手で隠さないと見上げることが出来ない程雲ひとつない快晴と言っていい程だ。確かにこれはギンギラギンと照っていると言ったJPPの言葉は間違っていない。
「どうだ?最初は何もなかったこの場所をここまで仕上げたのは俺たちなんだぜ?」
『だが、巨大人工浮島じゃあどう頑張っても会長グループに見つかる筈だ。何でみんな無事でいられるんだよ?』
「言っただろ。彼らが捨てた場所だって。そんな場所を奴らが調査するか?」
『そうやって泳がせてるだけかもしれないって可能性は考えないのか?』
「心配なら電波を出す機械のひとつでも見てくださイそれだけで分かりますかラ」
巨大人工浮島似の施設に入ってすぐに現れたのはJPPだった。修也達を襲った方のではなく、確かに俺が会って国外へと送った筈のJPPだ。
JPPが言う通り携帯を取り出してみると一般的な作業には問題なく地図等などの場所を特定するものはランダムに移動していた。
『……本当だ』
「こちらからは彼らのものを使エ、私たちの情報は渡さないで済ムここはそんな場所なんでス」
どういう原理かわからないがここなら身の危険がある修也たちを守れるかもしれない。
『だがそんな場所をなんで巨大人工浮島を捨てたんだ?ジャミングとまではいかないにせよ誤魔化せる場所なら残しておいた方がいいんじゃ?』
「反乱分子の巨大人工浮島と同じような理由だ。資材も人材も全てが足りない。ここはそういう場所なんだ」
JPPたちと歩きながら巨大人工浮島内を見回っているが、窓原の言う通り人がいない。
本部としても何度も完全ゼロから作るというのは苦しくなったのかもしれない。国連直属とはいえ資金も無限なわけじゃない。
座標ランダムは非正規な行動をするなら便利だが政府がそんな場所にあるのは結構困るという訳か。
そんな捨てられた場所を整備し続けていた窓原とJPPは脱帽だ。
施設をひと通り見て回りJPPが寝泊まりしている家屋に入るとJPPが指差した椅子に腰を下ろす。
そんなタイミングで携帯がブルブルと震える。相手先は会長だ。
俺は窓原に携帯の画面を見せるとお前に任せると手を出す。
JPPたちと合流しているのがバレるのはまずい。いくらランダムとはいえ一定間隔で同じ場所にいるというのが出てもおかしくない。
苦し紛れではあるがバレないように部屋を出て廊下で携帯を手に取る。
『こちら白銀、会長殿お忙しいところご連絡頂いきまして』
『私だ日南休君。早速だが近くにジャンヌ・ピエール・ポルナレフはいないかね?』
『日本で会った以来ですよ。そうそう会うような場所に俺もいない』
『君の座標がまばらに移動しているのだがその挙動とジャンヌ・ピエール・ポルナレフの挙動が同一なのだ。座標は違うがね』
常に見張ってるわけじゃないだろうにそれが出来るなんて純粋に凄いと言葉が漏れる。
『それで会長殿はJPPをそちらに引き渡せと?』
『必要ない。所詮は第三勢力未満の力もない者の身柄を渡されても困るだけだ』
『……じゃあ何が目的と?』
『映像展開状態で3人君たちふたりと話したい。彼女を呼んでくれ』
嫌がったとか言っても連絡が少し遅れるだけで向こうの印象が悪くなる。そうなるなら合わせたほうがいいだろう。
ふたりのいる部屋に戻りJPPに声をかける。俺が何かを言うまでもなくJPPは横に座り俺は携帯をプロジェクター代わりに使い眼前に会長と顔を合わせる。
『久しぶりだなジャンヌ。大陸の方の生活はどうかね?』
「陸酔は時折ありますガ、それ以外には特に変わった事はありませン」
『殆どの巨大人工浮島民はその陸酔に耐えられず戻ってくるんだが、流石だな』
「元々人は陸で住む生き物ですシ」
これだけの規模でも微弱には揺れる。その揺れを産まれてからずっと受けているのだからそれがなかったら変に身体を動かしてしまってそれが良いに繋がる訳と。
『本題に入らせて貰うがこちらに、今すぐ巨大人工宇宙島に来てもらえるか?』
『引き渡す必要はないと言った側からこれですかね』
『今はジャンヌと話している。ヒナ———白銀が少し静かにしてもらいたい』
先述の通り俺たちは第三勢力未満のその他だ。潰そうと思えばいつでもやれる。機嫌を損ねる発言は控えないといけなかった。
『どうやって向かえばいいでしょうカ?その他だとはいえ私たちはあなた方に敵対していまス、行くとしてもルートは目立たないものを使わないと行けませんシ時間かかりますヨ?』
『巨大人工浮島に来てくれさえすれば迎えを用意出来る。白銀がそこに来たルートで来てくれ』
「脚固めになるようなものを頂きますヨ。行くこと自体がデメリットなのですかラそれ相応のことハ」
『こちらに来てくれれば欲しいのものをいくつかやる。それで手打ちにして欲しい』
JPPと顔を合わせる。俺としては行きたくないが呼ばれているのはJPPだ。それに俺が来いと言われているわけじゃないし判断を任せるしかない。
「……ここまで放置させて貰った事を信用しテそちらに向かいまス」
『そうか…ちゃんと目立たないチーム送る。無事に到着することを願う』
言いたいことを言うと即座に連絡が終了してモニターが閉じる。
「いくら向こうが護衛を用意するとは言ってももしもの事はある。日南休来て早々だが護衛を任せたい」
『窓原は小林派だったから第二勢力になるよな。JPPといる所を見られる訳にはいかないか』
「そういう訳だ。状況証拠として共にいることはバレたとしても完全な協力関係にあるということは隠しておきたい」
JPPはため息を吐きながら立ち上がると、荷物もまとめると言って部屋を出る。
「ここにはまともな戦力はない。だからお前には武器の強化をここでする。全部出してもらえるか」
俺は言われた通りに声帯機ナイフを取り外し机に置く。それを窓原は受け取ると声帯機を分解してバッテリー等を新型の物に取り換える。
「高周波回路を取り入れてみた。これで斬れ味は多少上がったはずだ。あとはこれだ」
腰に巻いたホルスターごと拳銃を机に置く。俺はそれを取り出すとそれは光る剣を生成出来る変形武器だ。
「出力を上げつつ燃費を抑えた代物だ。お前さんが昔使ってた物と比べて弾倉ひとつに付き17発発砲出来る様になった。他の武器も必要なら言ってくれ」
ホルスターを腰に巻き整備された声帯機をクビに取り付けて立ち上がる。
『声量などの変化はなしと…これでいける。また帰ったらここのこと色々教えて貰うぜ窓原』
追加の弾倉をいくつか受け取るとJPPが再び部屋に戻る。
「行きましょウ。護衛を頼みますヨ日南休君。ここにはあなたぐらいしか好きに動ける戦力はないですシ、お願いしまス」
もう一度手持ち武器を確認した俺はJPPと共に会長が指定する巨大人工浮島へと向かった。