ギガフロート
「いつもいつもこの時間は人は少ないですけど、ここ最近は少ないですね」
リーリャはぼーっとしながら外を眺めている。
「大陸との戦争が終わって帰還兵が帰ってきた。それらに割く人員が多いんだろ。巷ではPTSD患者を診るのが面倒だからという理由で島流しもあるようだしな」
「大人でさえ心を傷付いて休養が必要なのに生きてる時間が短い子供たちがならないわけないよね」
「とはいえこちらに何か出来る訳でもない。精神的な事は会長グループに任せる他ない。あっこいつ煽りやがったぶっ潰す!」
「本当真面目な話しすると思ったらこれだ…馬鹿なのか頭の回転がいいのか訳わかんなくなるよ…」
その日何度目かの机拭きをし始めると、入り口の扉が静かに開く。
「いらっしゃいませ……って日南休君?どうしたのその身体!?」
「日南休だと…」
ふたりは持っていたものをその場に置きながら日南休の元へと駆け寄る。
銃痕だけでなく深い斬り傷がここまで来るのに何があったのかを物語る。
『ミクロネシアの…人たちを助けてくれ……』
ミクロネシアに巨大人工浮島があることをふたりは知らない。これだけでは一般的なミクロネシアの事としか思えない。
「ミクロネシア方面で何があった?ミクロネシアだけじゃ分からん」
日南休は咳き込み言葉を話せない。マスターはリーリャに酸素ボンベを持って来させるとそれを日南休の顔被せてそれを吸わせる。
『流刑地みたいに使われてる巨大人工水上島で反政府勢力が出来つつある…』
過呼吸気味ではあったが少しずつそれを落ち着かせていく。
『巨大人工浮島が行なった軍事作戦で生き残った者たちの行く場所。みんな自分の住む場所の為に頑張ったのに、与えられたものが何もない所だったら誰だってああいう行動起こしますよ』
「それを伝えにきて反乱の芽を潰しに来たのか」
日南休は違うと首を横に振る。努力に応じた答えが欲しかったんだと呟く。
損得なしに行動する人間なんていない。たとえ生み出された存在であったとしても心があるなら多少なりとも欲は生まれる。
だが巨大人工浮島にとっては兵器としか見ていない。巨大人工浮島からすれば兵器は使い道が終われば廃棄。生かしてるだけでも温情とでも言うのだろう。
『俺の目的はヒナが無事でいられるかだ。変に反政府運動がバレれば巨大人工浮島はヒナを殺すかもしれない。それだけは避けないと……平凡の帰る場所がなくなる』
「日南休。お前はそれを俺たちに伝えて何がしたい?いずれはバレること、その時には……」
『それを防ぐための場所が欲しい。俺は平凡とヒナが無事でいられる場所を作りたい』
「なら先に反乱の芽は切り取るのが先だ」
『それはダメなんだ』
「反対するなら別の提案を出せ。それがないなら今の方法を」
『……本当の意味の外側の天国を作る。隠居出来るような場所。自分から人殺しをしなくていい場所を作りたいんだ』
「無茶で無謀だな」
マスター呆れて溜息を吐く。それはそうだ。日南休がやろうとしていることは理想でしかない。その道筋もないのにそんなことをすると言っているのだからこういう態度も当然だ。
『だとしても俺はやる。俺が目指すものこそが本来の外側の天国だ。これを作る為の力をくれ』
「…………はあーーー勝手にしろ」
そういうとマスターは奥の部屋へと足を進めどこかに電話をかける。
「ああ俺だ。日南休がこっちにきたんでな。電話をお前さんと話をしたらと思ってな」
『マスター…?』
「ほいよ。馬鹿なお前みたいなことをしようとしてる奴からの電話だ」
『俺と?』
受話器を受け取ると、その先から聞こえてきたのはJPPの声だった」
『お久しぶりですネ日南休さン。それとモ白銀タケルの方がよろしいですカ?』
『JPP?最近行方が分からなくなってたがどこにいるんだよ』
『常に巨大人工浮島から監視対象になっている私ガどうやって身を隠してるか知りたいということですネ?簡単な話ですヨ』
『地下か?』
『太陽はギンギラギンと照ってますねネ』
『それなら衛星から発見される筈だ。通る瞬間偽データでも通してるのか?』
『一度や二度ならそれも問題ないでしょうガ、何度もはバレましょウ』
首を傾げながら数回回答を出すが全て外す。もうダメだと降参すると胸を張っているのが電話越しに分かる声でふふふと笑うと正解を出す。
『来てからのお楽しみでス!』
『いや答えじゃないが?』
『バレたら困るということデ。まあ来ればバレない理由も分かりますかラ。そういうことで詳しい情報と話はこちらに来てからしましょウ』
『了解だ。それじゃあな』
電話を切ると受話器をマスターへと渡しながらJPPのことを尋ねる。
「通るルートは元々巨大人工浮島が見つけたものだ」
受話器をしまい奥の階段から2階へと上がり休息部屋に使われる私室の扉を開ける。
『何度もここには来たが、ここからどうやっていくんだよ。わざわざ2階からしかいけないエレベーターだったりするのか?』
「まあ見れば分かるさ。イメージとしては昔あった物語みたいな感じさ。この先の場所はメリットがあまりなくてな、だから安く手に入れられたのさ」
私室へと入った2人は角にあるタンスに近づくと、マスターはそこで足を止める。
「この先に答えがある。念の為聞くがこの先に行ったらもう戻れないぞ。運送屋を手伝って貰った時みたいに急に辞める事は出来ない」
『……』
このままではヒナは危険な目に遭う。日南休の顔が会長グループに知られれば契約違反となりヒナが殺される。
そうなれば今憤怒がやろうとしていること、ボロボロになりながらも送り出してくれたみんなの命も無駄になる。
それは防がないと平凡に合わせる顔も言葉もない。
「(……少しの間だったが、俺は人でいられた。平凡の真似事をすることで兵器としてではなく自分の意思で遊びに行き、自分の意思で怒り、自分の意思で泣くことが出来た。十分と楽しめた。これからはもう人でなくても十分だ)」
『ああ。十分休んだ。場所を教えてくれ』
日南休はコクリと首を縦に振るとそれを見たマスターはタンスの扉を開きその中へと入って行く。
それを追って中に入るとその先にあったのは、巨大人工浮島だった。