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俺の周りは絶望ばかりだ  作者: キノコ二等兵
巨大人工浮島《ギガフロート》編
193/202

出国

 船が到着するその日、俺たちは再度行動確認を行っていた。


 侵入経路やその際の喋る内容のテンプレート。紙を見ないでも言えるように叩き込んでいく。


『特に返答が無ければ問題ないぐらいにはなったけど、やっぱり不安だな』


「最悪新人って言えばどうにかなるって。逆にあたふたしてる方が目立つから自信を持って」


『分かってる』


 心臓の心拍数が上がる。嘘を吐くわけじゃないからそれほど緊張するところではないはずだが、やはりガバガバ作戦なのが不安を誘っているんだろうか。


 やらなきゃやられる。そういう状況ならまだしも、ここから出なきゃ何も変わらないが安全はある。


 何も変わらなくていいというならこれでもいい。だがヒナは守れない。平凡(あいつ)が望むその時迄は殺させる訳にはいかないんだ。


 息を整えてインに準備が出来たことを伝える。向こうも緊張しているようで少し肩が強張っている。


 覚悟を決めた俺たちは外に出て郵便局の寮へと向かう。


 入り口前でインと別れて俺は窓が空いた部屋を探す。3階の右端の部屋が開いていた。この場所にインを呼んでインターホンを鳴らしてもらう。


 数秒の間にこなさないと気配でバレる。意外と得意な力が無くとも人の気配は感じ取りやすい。特に通常ではあり得ない行動をしてる人間がいる時はその傾向がある。


『インターホン鳴らすよ』


 インからの連絡があった。行動開始だ。


 屋根の水を下に流すパイプを手に取り上へと登っていく。


 登り終わった所でインターホンが鳴った。それと同時に室内に侵入し服を探す。


「こんな所で注文なんてするかね?」


 青年はインと顔を合わせて何か話しているようだが、そちらに意識を向けている余裕はない。


 窓付近にはなかった。一部屋と廊下しかないこの部屋で考えられるとしたら洗濯中だ。


 ガバガバなのは計算内だったが、プランBで行くしかない。


 息を殺して局員の首を絞める。急な行動に局員は対応出来ず。うめき声と俺の手を掴むだけで何か起こすことはない。


『殺しはしない。どうしても巨大人工浮島(ギガフロート)に帰りたいんだ。手を貸してくれたら嬉しい』


 苦しみながら首を縦に振る。了承してくれたらしい。なら……。


 改造された声帯機を局員に当てて意識を奪うとベットに寝かしつける。


「キュウ……」


『しゃあないだろ。プランBしか思いつかなかったんだ』


「よくまあこんな行き当たりばったりでどうにかなると思うよ」

 

『どうにもにはなってないけどな。少なくともインは疑われるから俺が船に乗った後は隠れてくれ』


「分かってる」


 その場で奪った服を着て港へ向かう。停船している船の付近には積荷と共に何人かが見えた。


 これぐらいは想定内なので港入り口近くへと進めた所でインが止まれと声をかける。


「さっきの局員の意識が戻ったか、それともあの建物を出た時点でバレてたみたいだね」


 根底達だろうか?前の時点で彼らとの線は切れていたと思っていたが……それとも日本のことは無問題として放置していたのだろうか。どちらにせよ顔は街灯しかない今の状態では立っている人間の顔は見る事が出来ない。


 確定するまでは俺は持たない。この服で持ったまま近づけばもし無関係な人間だった場合この人が巻き込まれるのは考えたくない。まあそれなら元々人から服を奪うなんて方法取らないのがいいのだが……。


 インにもおおっぴらに武器を見せないようにと指示を出して入り口へと向かう。


 入り口前に立つ人は俺たちに対して何かするわけでもなくただその場に立っている。


 それなら俺たちにとって好都合だ。通らせてもら———


 通り抜けた所で急に悪寒が走る。港側に飛び退くとその悪寒の原因であろう人に意識を向ける。


「やっぱり気づかれてた……?」


 正規の人間じゃないことは今の気配でわかったのでインと俺は武器を手に取りそれを構える。


『ガバガバにも程があるよ。憤怒』


「ふ、ふん?」


 その呼び方は|温和か……。となれば話は無理だろう。


『施設にいれば問題ないと思ったみたいだけど、無線が駄目なら有線でってこと。直接聴けば何にも問題もないんだよ』


 背後からもぞろぞろと俺と同じ容姿が現れる。俺も知らない日南休がいるのか、それとも線が切れた時に新たな俺が生まれたのか。


『君をここから出す訳にはいかない。君はここの無関係な人間を自分の個人的な感情で殺しても良いと思うのかい?』


『俺は元からこれの情報を会長に伝えるつもりはない。ヒナ条件があるとはいえ誘拐するような奴らに伝えるわけがないだろ!』


『裏切った君が何を言う!』


 温和がナイフを片手に俺へと近づく。俺は声帯機ナイフでそれを迎え撃つ。


 それと同時に周りの俺たちが数の暴力を活かすためインへと銃弾を放った。


 音は発せられず口だけが動く。インは銃弾の雨を身体を捻ったり回ったりしながら回避するものの全方位を回避しきることは出来ず、数発がインの身体へと入り込んでいく。


『戦闘力が君の方が高いからって気が抜けるのかい?』


 温和の言葉と同時に腹部に鈍器が当たるような重みを感じた。


 俺は温和を蹴り飛ばすとその重みの部分に触れつつインへと近づく。


『イン。まだ動けるか?』


「……戦場で撃たれるだけ撃たれてきたさ…。もう何回かは耐えて……ぐっ…」


 初速の遅い弾丸のせいか貫通しておらず、四肢を動かすのに苦労が見えた。


「ボクを置いていくんだ……」


『しかし……』


「元々君1人が行く作戦だ。それにボクはどうせ道具だ。死んでも巨大人工浮島(ギガフロート)で生き返る」


『……死んだらお前というインは死ぬんだろう?』


「沢山のボクが死んだんだ。今更」


『じゃあ何故それを使わなかった。死にたくないんだろ?」


 怖くなく死んでも問題ないならそれを使えばいい。でも使わなかった理由はこれしかない。


「痛みがない訳じゃないからね……どうしてもあの感覚は慣れない」


『慣れたら怖いわ……』


『投降するんだ。君たちが行かないよはっきり言うのなら()たちは君たちを殺さない』


 俺たちの戦闘で船は動くことはないか、逆に逃げる為に沖に進むか。


『そう言ってお前らはずっとシュレを追っていたじゃないか。それでもそれを言えるのか?』


()はそんなこと知らない』


『俺たちみたいに自分の頭で考えろよ温和』


『逃げた奴が言うことか!』


 頭に衝撃が走る。温和にとって考えていないと言うのが響いたのだろう。


 視界が歪み温和の言葉が聴き取れない———いやこれは……。


耳と目を塞いで下さい(・・・・・・・・・)!」


 それは日本語だった。温和達は聞く機会が少なかったせいで反応に遅れる。だが俺たちは理解でき反応が出来た。


 閃光と爆音が五感を奪う。音が小さくなったところで目を開くとそこに立っていたのはまだ動けないはずであろう修也が金属パイプを温和に構えていた。


「手製の閃光弾なんで急いで船へ向かって下さいここはおいらが食い止めます」


『だがお前の身体は……』


 動けるのがおかしい状態のはずだ。どうやって……。


「あんたらの話同じ部屋で話していれば嫌でも聞こえてしまいますよ。さあ急いで。インはおいらがどうにかしますから」


『すまん!』


 俺はわき目も振らずに船へと走り出した。修也は周りを取り囲んでいた人間たち近くにも閃光弾を投げ込んでいたようで、突き飛ばすのは容易だった。


『撃て!状態は構わないから!』


 銃弾が四肢を貫く。正確な射撃は逆に俺の動きを止めるには至らない。正確なら逆に動きに問題ないように動けば問題ないからだ。


『このっ……!』


「させないって!」


 温和と修也の声が聞こえてきたが俺はそれにも視線を向けず船に乗り込むと、港と船を繋ぐ橋を取り外す。


 港では船を停めようと、船長に連絡を取ろうとしているのだろう。なら俺が出来ることはその船長を確保することだ。停められたら終わりなのだから。


「心配ない日南休」


『誰だ!……窓原?何でここに?巨大人工浮島ギガフロートにいるんじゃ』


「インと俺が連絡を取り合っていないはずがないだろう。話は聞いてる安心しろ」


 港からの怒号をよそ目に船は進んでいく。こうなればもう大丈夫だ。


 視線がふらつく。船だからだろうか?俺は仕事疲れのサラリーマンのように受け身も取らないまま船の床に身体を叩きつけてしまった。

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