外側の天国6
霧に囲まれたこの巨大人工浮島系統の土地で俺は数日前に日南休のひとりが放送した内容を見ていた。
修也はドロドロになっていた身体は安定してきたのかひとりで食事が取れるまでに回復していた。
あそこまで行って人間レベルまでになることが出来るとは修也の回復力には脱帽だ。
「あいつら戦争でもするつもりなのか?おいらだって巨大人工浮島に対して憎しみがない訳じゃないけど……だからって殲滅殲滅にはならないぞ」
「巨大人工浮島の殆どの人たちは機械みたいに「こういうことをして下さい」って決められてる。それをしてはいけない状況になったら何のために存在すればいいのか分からなくなる。僕は運良く兵器ではない人に会うことができたからダメージが少なかった」
カロリーが高めな病人食を口へ運び味の薄さに渋い顔をしつつも喉を通していくインだが、食べれる様になったといえまだ内臓の機能が回復し切ってない修也からすればそう思えるインが羨ましかった。
「命令を聞くのが当たり前な世代からすると、どうしても要らないっていうのは傷つく以上のものだよねえ。おいらは前からひとり暮らしだったのもあるけど、やっぱり芹からそんなこと言われたらどうすればいいんだってなるし」
「どうすればいいと困惑するのは間違ってるわけじゃないけど、その回答が間違ってる。戦争なんてすればどうなるか、極東連合と対面すればわかるだろうに」
このインがどのインかまでは俺では判断出来ない。だがここで極東連合と言ったし少なくとも日本に滞在したばかりという訳ではないのを信じたい。
……死亡してもコピー出来る以上死亡した際の記憶を持ってるのならそれも分からないが。
「ねえキュウはどう思う?」
『俺は……なんとも言えない。捨てられた彼らの気持ちが痛いほど分かるしな』
「捨てられたって誰に捨てられたんですか?」
「修也……!」
あまり話したくない事だ。思い出すだけで殺意が目覚める。けど殺すも生かすも判断するのは平凡だ。
『まあ家族のような友達さ。もう2度と俺は会うことは出来ないと思う』
「キュウ…」
インの表情からは憐れみが見えたが、その表情をする理由もわかる。
『それでも、もう会えないと分かっていても俺はあいつを守りたいんだ。彼らがそれを奪うなら俺は彼らと敵対する』
「敵対ですか?巨大人工浮島と比べちゃ人数は少ないですけど、普通の街ぐらいの人口がいるところに1人で喧嘩吹っかけるんですか?」
『伊達に日本の極東連合に攻撃した訳じゃない。なんとかやってみるさ』
食べ終えて口を拭いたインが俺の心の中を覗く。
———故郷を2度も失うのは嫌だからね。協力はする。ただ問題は僕は人脈はないって事だね。資材や資金はどうにか出来ても———
最悪そこはマスターに任せる。何でも屋みたいなことをあの人達はしてるし。
———オーケー。じゃあ僕たちだけでやろう。修也は刹那さんや芹ちゃんのこともあるしこれには巻き込みたくない———
とはいえ俺たちが行動を開始したら向こうも気づく。準備が出来次第そちらに移動させたほうがいいな。
———人質にならない様にする為だね。了解だよ———
壁にかけていた杖を手に取り俺は外に出た。まずはここからどうやって脱出するかだ。
ここは巨大人工浮島の島流し先だ。つまりは帰る手段はこちら側からはない。人を連れてきた時の船に乗るしか俺が取れる手段はない。
そのタイミングを俺は知らない。だから近くで見張るか来るタイミングを知れる資料を他の俺から奪うしかないが、正直後者は今は取れない。
そのタイミングを把握するためにもまずはそれの調査に入った。