少し日常に戻ったと思ったら・・・
シラヌイとヒナの3人で晩飯を食べた俺は、明日の仕事の準備を始めた。シラヌイ用の部屋も用意しないといけないが、ヒナが認めなさそうなので、先に運送系の準備を始めよう。
ヒナからすれば、若い男女それに片方は容姿が子供と言ってもおかしくない子だ。俺が手を出すかもしれないと思うと心配でしょうがないと思うだろう。俺がそんな事するわけがないのにな。
「キュウちゃん。そのバッグ何に使うの?」
「バイト先の仕事に配達があってその時にキャッシュカードで払う人もいるから、それで払う時に通す奴あるだろ?あれを入れる用。仕事用だから毎回毎回そん時借りるわけだが」
「あれってポーチに入れて運ばない?っとその前にいつから、配達業始めたのさ!」
「昨日の昼からです。キリッ!」
「キリッ!じゃない!いつ倒れるか分からないのにそういう仕事は辞めてよ」
「大丈夫だ。問題ない。基本的にはシラヌイが運転するトラックで移動するから。俺は最後のとこだけやるだけだし、絶望病は出やしねえよ」
ヒナが俺を見る。こういう時に目をそらすと嘘をついていると思われて、海老反りか本気の首絞めにあいそうだ。事実なんだけどな。現実は非情で理不尽だ。
「シラヌイちゃん頼りなんだね・・・・・・私も頼って欲しいな」
ヒナの頭に手を置き撫でる。まあ、すぐに吹き飛ばされるが。俺はヒナにいつも助けられている上に頼りに頼っている。そんなのこちらだけ利益をもらい向こうが消費しかしてない。そんなのは良くない。それにヒナには学校に行ってしっかり勉強して欲しい。俺は追い出されたが、ヒナは教師からも1目置かれているはずだ。そう信じたい。
「俺にとって、お前がいる事が俺にとっての喜びなんだよ。それだけで充分ヒナに頼ってる。気にすんなよ。お前はしっかり勉強してくれればいい。明日も早いんだろ?早く寝て明日に備えたらどうだ?」
「そうだね。そういえば話変わるけど、シラヌイちゃんどこで寝かすの?」
「部屋が余ってるしそこに寝かせるつもり・・・・・・」
しくじった。さっき言ったばかりじゃねえか。空気が凍った。逃げようとリビングに向かって走ると思うといつの間にか窓の方向に走っていて、次の瞬間うつ伏せになっていた。
「ぎゃあああああ!!!痛ってええええええ!!!!海老反りは辞めてくれえええ!ガチでやばい!ガチガチがんっ!」
「まだ1日も経ってないのに、何考えてんのさ!?男女が一緒とか犯罪じゃない!」
「なんで襲う襲われるの関係になってんだよ!俺はそんな気はねえってええええ!!」
海老反りの角度は60度を超えこれ以上いったらガチでやばい。呼吸がしづらくなってきた。あっ、ポキポキ鳴ってきた。
「あれ?ちょっとやり過ぎちゃった?キュウちゃん起きてよ〜」
「生きてる・・・・・・たかがコクピットをやられただけゴフッ!」
「キュウちゃんが死んだ!?」
このひとでなし!とか言いたかったが、真面目に本気で痛かったのでビクンッビクンッと震えるだけだった。
「・・・・・・大丈夫だ問題ない。俺はそんな如何わしい事はしないから。俺を信じろ。ヒナが知ってる俺を信じろ。いいな?変な疑いは持つなよ。俺は子供に興味はない」
逆に疑われそうだったが、最低限の納得はして貰えたようで、ヒナは自宅に戻っていった。さてと次は部屋の準備だな。
空き部屋にベッドはあるにはあるのだが、シーツも掛け毛布も布団もない。敷いたまま放置すればダニなどの王国が出来てしまう。そういう状況の場所にシラヌイを寝かせるわけにはいかない。朝起きたら身体全身ダニに噛まれた跡があったら罪悪感で胃が痛くなりそうだし。
まずは、クローゼットの中からシーツと掛け布団を取り出してその両方を同時に洗濯にかける。両方選択する時に注意することが同じなので気にせず突っ込めるというのはかなり楽だ。
ガタガタ音を立て中のものを洗っていく洗濯機を後にし、今度は着替えを用意する。今日の服装は刹那を救出しにいった時と同じなので所々に穴が空いていた。同じ様な事があった時に仕事の関係とかいえば言い訳にする事が出来るだろうから、今着ている服はそういう時用にしよう・・・・・・ん?なんだこのガッ!?
「よくもまあ好きな様にこき使ってくれたな。ええぇ?キュウ」
ガッ・・・・・・息が、なんだ!?シラヌイなのか?昼までの彼女じゃない。力が尋常じゃない。脚も浮いてるし背中も壁に当たってない。つまり腕だけで自分より大きなものを持っているって事か・・・・・・!?
ガンッ!!!!
グファッ!や、やばい。本気でこれ以上は息が・・・・・・。周りが暗くなってきた。
「はな・・・・・・ガッ!!!」
「お前に話す権利はない。てめえは私を質問に答えればいい。何様のつもりなんだてめえ。そうやって自分の愉悦感を味わいたいのか?」
一度シラヌイの首への締め付けが緩み、床に落ちる。一気に空気を取り込むため、肩が激しく動く。うっ吐きそうだ。
「はぁはぁ・・・・・・愉悦とかじゃねえよ・・・・・・ただインの所にお前を任せたら確実に今より嫌な目に合う。俺の方にすれば少しは抑えられると思っただけだ」
「・・・・・・もういい。お前を殺ってからあの娘も潰すか」
「や、やるってなんだよ」
「そのままの意味だ。面白いテレビを見せてもらったお礼だ。長引かせず終わらせてやる」
腰から何かを取り出しこちらに向けるシラヌイ。空気の取り入れで周りがよく見えない今の俺にとってそれは何か判別することは出来なかった。けど、予想は出来る。多分、リーリャさんの所で盗んできた何かだろう。俺より小さいとはいえ、俺を片手で持ち上げる程の力だ。ちょっとしたもので殺すなんて容易だろう。
シラヌイの右腕の何かが近づく。・・・・・・来るな。嫌だまだしたい事が沢山あるんだ。社会的地位がなくても生きる自由はあるんだ。頼む待って・・・・・・待ってくれえええ!!
ガクンッ!
その瞬間また久々の絶望病が発症して俺の意識はまたもや刈り取られることになった。