帰宅
意識が戻ると俺はソファーの上で横になっていた。
状況がどうなったか分からない。BOW化した人間を倒してその後だ。
立ち上がろうとソファーから降りようとするものの、筋肉痛の様な痛みが鈍く身体全体に走る。
まだ起き上がることは出来なさそうだ。
何か時間を潰せる物が今はないので再び寝ることにした。
何時間か寝た後、鍵が開けられる音が鳴ると入ってきたのはシュレだった。
「久しぶり。手酷くやられたね。リミッターは外さなかったのかい?」
『いいや外した。けど目では追えても身体の反射が追いつかなかったんだ。今まで追いつけた速さだったはずなのに』
「やっぱり君もそうなってきたか。シュレも同じ感じ……というよりそもそもリミッターがもう外せないかな」
『何でだよ?お前も俺たちだろ?出来ないって事はないはずだ』
「じゃあこれを見てくれるかな?」
手渡されたタブレットを覗くとシュレの身体について情報が書き足されていた。
内臓の殆どは一般的な機能以下にまで落ちているし、脈拍を異常な数値だ。
ここまで数値が低いとリミッターを外しても一般人になる事は出来ない。リミッターが外せないというのはこういう意味か。
「君の考えてる通りだよ。多分これは携帯の電池と同じ理論なんじゃないかってシュレは睨んでる」
部屋の中をぽてぽてと歩きキッチンに向かうように回り込み携帯菓子に手を伸ばすと、その内のひとつを俺に渡す。
「充電すれば携帯は使用出来るけど、それを何度も繰り返せば消費は激しくなっていく。シュレたちも同じだよ。食事は取ってるけど日南休を換えてないからそうなっていく」
『どこかのタイミングで平凡達に合流しないと生きる事さえ厳しくなる……という事か』
「そういう事」
『じゃあ俺でさえこうなんだからお前の場合はどうなんだ?』
「当然追加バッテリーを付けてるのさ。携帯でいうモバイルバッテリーみたいなのをね。そこから供給を受ければ、まあ生活を送る分には十分さね」
『なら俺もそういうのを用意しないとな。流石にずっと食べ続けるって訳にもいかないし』
携帯菓子を齧りエネルギーを補給すると寂しい笑みを浮かべてこちらを見つめる。
『なんだよ』
「君ならまだ間に合うさ。上限が下がってしまうなら、その下がる速度を落としてしまえばいい」
『どういう意味だ?説明を頼む』
「筋トレさ、筋トレ」
『筋トレェ?そんなんで大丈夫なのかよ?』
「ここ最近始めたから確証はないけどね。でも肉体性能の低下が緩やかにはなってる」
『……それが本当なら俺が今から始めれば平凡に合流するまで保つと』
「量はその分多くはなるけどね」
『仕事の合間にしたり重りとかで出来ないこともないか。シュレ、まだ知りたい事もある。一緒にここで働いてくれないか?』
シュレはその提案に驚いたようで目をくりくりと動かして俺を見ると、口に手を当て頭を回転させる。
俺といればどこかのタイミングで本体と会う可能性がある。見つかれば消されてしまうのは目に見えている。
だからここは慎重になるのは当然の判断だ。
数分が経ち、シュレは首を横に振る。
「シュレも有限の命の持ち主さ。そりゃ生きられるのならそれを選びたい。けどバッテリーの交換条件がこれである以上シュレには選ぶ事の出来ない選択肢だ。隠居生活も視野に入れて生活していくさ」
生きたいが選べない……か。いつか俺もそうなるのかな?だが隠居以外の選択肢はあるはずだ。
『そうか……ならせめて連絡先はくれ』
「それもバレるからどこかのタイミングで連絡するさ。決まった場所も連絡手段も確定しなければ、シュレが見つかることはないし。そういうわけでこの話はおしまい!痛みが治るまでは手を貸すから早くこの作戦を受けた目的を行うんだぜ?」
同じ容姿声にも関わらず、どこかヒナのような感覚を感じたがそれはここが俺とヒナが暮らした家だからだろう。ふたりでいる際はいつもこうだったのだから。