救出作戦・調査3
店へと入り早速協力を取り付けようとしたが、帰ってきたのはカフェオレだった。
『なあ・・・・・・少しぐらい———』
「そういうのは取り扱ってない。今はな」
とりつく島もない。平凡自身が彼に助けられている以上今更非正規戦闘は出来ないのは理由にならないと思ったのだが。
『そうか・・・・・・じゃあ何かおすすめのものを出してくれないか?コハルの分も含めてな』
「金を払ったからって返答は変わらないぞ」
『そんなことは分かってる。純粋に動き過ぎて腹が減っただけだから』
釘を刺されてしまったが、店長の件もあるしそちらに話がまとまらない限りどうせ動きは取れない。
「ほらよ。暇だったから試しに作ってみたモンブランだ。味の評価が貰いたいな」
テーブルに乗せられた菓子に俺は手を伸ばし、コハルは感謝の言葉を言いながら同じように手に取り口に含む。
糖分がここ最近足りてなかった事もあり本来なら甘すぎると思える砂糖の量でも、美味いとはっきり言えるものだった。
コハルもひとり頷きながら菓子を平らげる。
「どうだ?こういうのいつもならリーリャがやるから少し不安なんだが」
『マスターの見た目からは想像出来ない程上手く出来てるよ』
「私はあまり菓子を食べないから正しい評価になるか分からないが、いいと思う」
『だってさマスター』
「ありがてぇありがてぇ・・・・・・」
『そんな感謝感激雨あられみたいに言わなくてもいいだろ』
「器用じゃないからな。褒められると素直に喜ぶもんだ」
『そこに関しては同意だ』
残った菓子を口に放り投げ紅茶を飲み終えると、再び依頼の話に戻るが気分が良くなっても回答は変わらなかった。
『やっぱりリーリャさんが帰って来るまでは無理な感じか?』
「こちらだって仕事をしているんだ。それにお前しかいないから言うが、俺自身は小林派は嫌いでな。巨大人工浮島の大元を作った人間とはいえ、非能力者と能力者の差別が生まれた原因を作った訳だし」
イン自身は関係ないがインの上司がマスターに対して何かしたのだろう。
『じゃあ窓原に協力してたのは?』
「渋々だ。可能であればしたくない」
純粋な笑顔を浮かべている時もあったのにその言い方はないと思うが・・・・・・。
「それにな、本来自身の部下を救出するのに赤の他人を使うか?俺なら仮を作らせないのも合わせて自社で処理する。というかそれが普通だろ。それが出来ない状況にあるということは、インに発言力が失われたか、救出対象がイン本人である場合だ」
俺たちが食べ終えた皿を洗いながらマスターはそう言った。
「お前に話を通したのも、白銀タケルという偽名を使った方法で行って欲しいとかだろうて。にしては作戦内容は全てお前さんに押し付けるか・・・・・・インは切り捨てられる予定だったのか?」
『どうしてそうなるんだよ?』
「考えてもみろ。ここは巨大人工浮島だ。それにここの技術ならもうインの記憶を持った人間なんて製造されてるか起動している筈だ。死んだ次の日には前線に送り込める程なのだから」
もしかしてイン達のような人間を極東連合に作らせないために俺に頼んだのか?向こうとしては死んでても生きていても関係ないって事かよ。
『温和・・・・・・こんなの全然穏やかじゃないぞ・・・・・・』
「そういう事だ。そんな奴らの為に命を張る必要はない。分かったならさっさと家に帰るんだな。それか配置されている基地にでもな」
メリットがない。だが彼らを助けた条件として医薬品を調達してもらうのだからどうにかするしかない・・・・・・。
「これ以外の事だったら協力してやってもいい。そんなメリットの薄い計画を立てさせられる位なんだからな。ほら言ってみろ?」
『ごめんマスター。あんたは意見は100%正しい。けど日南休は一度彼らに助けられてる。生きてるうちに恩を返したいんだ』
洗った皿を置くとカウンター越しから俺の襟を掴んで引っ張ると頬を握り拳で殴る。
「恩義は自身のことを考えた上でやれっていつも言ってるだろうが!そんな無駄死にで恩義は返せるのか!?ちゃんと返せない恩義はただのエゴに過ぎない。そんなことも分からんやつに手を貸すつもりはない」
まだまだ俺には人間の感情がないらしい。そんな論破された心の状態でマスターを説得できるわけがない。
『そうか・・・・・・コハル、先にうちに帰って荷物をまとめておいてくれ。少し俺は心を休めてから帰る』
「私の所だけで問題なく救出出来るよう準備は万全にさせておく。また後でな、日南休さん」
コハルが店を後にし店から見えなくなった辺りで俺は救出作戦用ではないとある薬剤を注文を彼から取ってから店を出る。
『あんな他人を思ってくれる人が近くにいてよかったな。平凡。俺じゃ絶対にこんなに早く他人から協力を仰げる状態には出来ない』
今日話しても結果は変わらないと判断し後日に回すことにして俺はみんなの家へと足を進めた。