休暇2
洋館へと入ると執事のような男性が、こちらを通れと促す。
言われた通りにその道を抜けていくと、その先にはウルフ隊長と同年代ぐらいの青年が寝転ぶことが出来そうなぐらい大きい椅子に座っていた。
「ウルフ始めフォックス及び白銀3名出頭致しました!」
ふたりがきっちりとした敬礼と立ち振る舞いに合わせて俺も同じように敬礼をする。
「宇宙酔いも酷かっただろう?直接会話になってしまって申し訳ない」
「いえ!自分たちのような者を指名していただいただけで至極の極みです!」
『自分もであります!』
「それならいいさ。休んでくれ」
「失礼します!」
俺たちは促された足掛けに脚をかけて会長が見えるように立った。
「いきなりだが本題に入る。君たちにはある人型兵器のテストを行ってもらいたい。何もゼロから作れという訳じゃない。今回製造した兵器が一般に使用出来るかを試したいのだ」
「何故自分たちを・・・・・・」
「非能力者で試さないとどの人間も対応できるという証明にならないだろう?そういう訳なんだが、頼めないか?」
「会長様のご指示であれば」
「そうか。なら早速練習を兼ねたテストに移ってもらう。説明書を彼らに」
指示を受けた先程の執事は机にあった太い鈍器のような本をひとりひとりに渡していく。
重力が弱くなっているはずなのにずっしりとした重さが感じられた。地上なら足の指に当たって潰れていたかもしれない。
「それを可能な限り憶えてもらい、起動テストに協力してもらう。以上だ」
俺たちはその説明書を抱えるように持つと、敬礼をして部屋を後にしようとする。すると、会長は俺の名前を呼んでひとり残らせた。執事はウルフ隊長たちをテスト場所まで連れていくためにここから出ていき、今ここにいるのは俺たちふたりだ。
「呼び止めて悪いな。お前には伝えないといけないことがあってな」
会長は右横に取り付けてあったモニターに電源を入れるとそこに映し出されたにはヒナだった。
「君の国にいた彼女を保護させてもら———」
俺は会長が口を閉じる前に義手から蛮刀を取り出して飛びかかった。
振り下ろされた蛮刀は手首を掴まれたことで届かない。
「人の話は最後まで聞けと」
『お前が誘拐してセイエイたちを殺したのか!!!!!何でそんなことをした!納得出来る理由じゃなければ今ここで・・・・・・!』
「最後まで聞けと言っている」
俺を投げ飛ばして部屋の角に叩きつける。
「守りたいと言いながらお前はどこかに行っていた。極東連合にいつ襲われるかも分からない状況でな」
『うるさい!!!!!』
再び飛びかかるが、不意打ちに近い状況で決まらない以上これも決まらないのは当然で、右腕の義手を無理矢理外して踏み倒した。
「この義手が戦闘状態を生み出しているのなら、少しの間だけ貸してもらう」
関節が繋がっていたせいで血が出るような痛みが走る。痛みを堪えながら左足で会長の頭を狙うがそれも決まらなかった。
『返せよっ!セイエイを・・・・・・みんなを!』
「学校の人間は君を大事に思わず、誰も君を大切に思っていないにも関わらず返せというのかね?」
『だとしてもいなくなったら悲しいってこと分かんないのかよ!』
「ならば君は核で消されたかったか?」
『何っ!?』
「それよりもマシだと思うのだが?」
『それとこれは別問題だろ!』
「いちばん君が望む方法だと思うがね。彼女の保護は」
『だからって何故戦略兵器を使った!?』
「極東連合との戦闘だ。それ以外に理由はない」
それのせいでセイエイたちがみんなが消えたんだぞ・・・・・・。納得出来るわけがない。もっといい方法があった筈だ。
「お前が欲しくて彼女を誘拐したような連中だぞ?それよりもマシだと思うがね」
『・・・・・・・・・・・・』
会長は俺の足から手を放すと、先程の足掛けに再び足をかける。
「こちらの要求はただひとつ。我々との敵対はするなということだ」
『味方になれと?』
「そうは言ってない。君を小林派と我々との派閥戦争に巻き込みたくないからな」
『どういうことだ?』
「君は巨大人工浮島では今まで通りに行動してくれていい。どちらかに贔屓しないでもらいたいという事だ」
インの時は配置していたのはピライしかいないし、それも離れた位置だ。常に監視の行き届くのであればこちらの方がいいかもしれない。
『了承はしない。だが今まで通り日南休としてでなく、兵士としてあなたの命令は受ける』
今どうにか出来る話ではない。元の予定通り上層部に立ってヒナを救い出す事にしよう。
「わかった。どこかのタイミングで彼女と会う時間を作る。その時までには回答をくれるとありがたい」
俺は敬礼をして部屋を後にして、外にいた別の執事に従って施設へと向かった。