新たなバイトを追加
「こんにちは!一角獣運輸です!お届け物です」
配達業とは言ったものの、まさか特異な物を運ばされるとは、思わなかった。今回の品は、猿の手という存在らしい。そう言うことにはあまり関心がないので、特には考えなかった。
「ほーい。どうもっと。って日南休じゃねえか」
「セイエイなのか?性格が学校とで違いすぎるんだが。どうした?」
「俺からすれば、お前の方が変だったけどな。まさか、学校全体がお前に対して暴力振るってたとは思わなかった」
退学する前学校では、刹那のように無口だったような気がするが。まあ、あれは周りの環境が変わる前の話だから、関係ないか。そういやセイエイも俺に対して暴力振ってたんだよな。今仕返ししようか。・・・・・・やっぱ止めよう。
「えと、まあ何て言うか、すまないな。まさか本当に退学処分になっちまう何てさ。俺もお前に暴力振るってた訳だが、お前が一回反抗しただけでこうなるとは思わなかった。本気ですまん」
一回だけなのか・・・・・・?この環境の俺は一切合切反抗していなかった。それを分かっていながら、こいつらは・・・・・・。っく、だが、それはそれ。気にしていたら始まらない。俺は猿の手が入ったケースを開けて、その中身をセイエイに見せる。
「これで中身は合ってるか?」
「おう、それで合ってる。いやあ、まさか本当にあるなんて思わなかったよ。フィクション物だと思ってたからな」
「猿の手って何なんだ?昔アメリカのアニメでウサギと犬が擬人化した奴で出てきた位しか知らねえんだけど」
「願いを三つまで叶えてくれるものさ」
「それって最強じゃんか!そんな物をよく売りに出したなあ。その人」
その三回って言うのは、一人の人間に対してしてなのだろう。そうじゃなきゃ普通は捨てるだろ。斬れた猿の手なんて絶対時間が経てば臭くなるだろうし。
「ただな。一つだけ大きな欠点があってそれが願いを叶えてくれるのは確かなんだが、その叶える方法が酷い物なんだよ」
「よくもまあそんなもんを買う気になったな。俺は怖くて買えねえわ」
そのデメリットを目を瞑ってでも叶えたい事があるのだろうか?今んとこ今の生活にほぼ満足している俺にとってはあまり関係がない品物って事は確かだ。
「俺、まだ仕事あっから印鑑頼むわ」
印鑑を押して貰い、俺はセイエイと別れた。後はトラックに積んでいるよく分からない品を集積場に持って行くだけだ。免許はないが、運転は全てシラヌイに任せ俺は運ぶだけだ。これなら、絶望病が発症する可能性もかなり低い。いやあ、まさか俺よりも小さいシラヌイが免許持ってるなんてびっくり仰天ギョロリンチョってやつだな。
「ごめんな待たせた。後さ、折角仕事から離れたのにいきなり面倒な事にさせちまって」
「・・・・・・問題ない。こんなの仕事の内に入らない。夜の仕事よりはまし」
出会ってから5、6時間程経っているので、シラヌイも俺には慣れてくれたのか、普通に会話が出来るほどには話せるようになった。てか、夜の仕事って何だよ。そういう系なのか?尋ねたいが聞けるものでもないし。
「勘違いしてるようだから念の為言うけど、夜の仕事っていってもこの歳でも違法にならないものだから」
「つまりは処女ってこふぉ!?」
「言う必要性があるか?」
「ハイスミマセン・・・・・・」
いくらなんでもこれは俺のシラヌイに対する配慮がなさ過ぎた。腹と頭部に目掛けての三連星ストレートはしょうがない。というか、何で俺はシラヌイが少女って分かったんだ?どちらかというとショタにしか見えないのに。
「ハラガイタイ──この後ろに載せてんの何なんだろうな。確認は一応したけどよく分からないし」
「自業自得だ──巨大人工浮島経由だから国連関係ではあると思う」
「巨大人工浮島って国連のなの?人工島は土地として認められてないから国家としても認められてない事は知ってたけどよ。UNってマークなかったぞ」
「私だって全部を知ってるわけじゃない。逆に知らないことのほうが多い。知りたいのならば、インという奴に聞けば良い」
ああ、そうか。あいつなら何でも知ってそうだよな。目を合わせればそれで相手の考えてることが分かるわけだし。でも国連が民間に輸送させるなんて変じゃないか?そんな物を民間に運ばせて敵対勢力にでも渡ったりでもしたら、やばいと思うが。
「もう一度聞くけどさシラヌイ、俺の家で生活すんの本当に良いのか?便利差で言えばインの方が圧倒的にいいぜ」
「少なくとも3日間はお前の家にお世話になる。それから考える。今は特に決めていない。どちらにせよ、インの所は拒否させて貰うがな」
「何でだよ?むちゃくちゃ便利じゃねえかあっこ」
「便利とかそういう問題じゃなくて、あのインという奴を信用できん。プレッシャーというのかよく分からないが」
窓原が言ってたやつか。あまりインは好まれないというのは本当なのか。勿論人間なのだから全てを信頼する事なんて出来るはずがない。俺でさえ自分の事全部を信用できていないのだ。他人なんて余計全てを信用できるはずがない。まあ、俺だけがそうなだけなのかもしれないが。
その後もシラヌイといろんな所に配達物を運び、後は後ろに載せているよく分からない物を運ぶだけで今日の仕事は終了だ。最後のは、山岳地帯の休憩所で渡すことになっている。時間は指定されていなかったが、早く運んだ方が良いというシラヌイの判断で、殆どぶっ続けでトラックを走らせた。俺が運転しているわけじゃないのに何故俺を休ませたいのだろうか?殆ど俺はシラヌイが運転中はほぼ寝ているというのに。
集合場所の山岳地帯自体が思ったより遠くにあり、時間が掛かってしまった。太陽が沈むには早い時間ではあるものの、昨日今日と日常から離れたことが連続で起きてしっかりとした睡眠が取れてないのが実状だ。慣れてないところでの睡眠はあまり意味がないので、結局の所ちゃんと疲れが取れているのかが心配だ。
「着いたぞ。人との会話はお前の仕事だろう?起きろ」
「うっ・・・・・・んじゃあ行ってくる」
完全に自分の世界に入っていたので、状況は殆ど読めていない。だが、到着したという言葉が出た以上、最後の配達場所には着いたんだろう。
俺はトラックを降り、目の前の小屋へ向かう。扉の前に立ち、ノックをコンコンと二回扉を叩く。
「一角獣運輸なんですけども、お届け物を運びいたしました」
扉が開き出てきたのは女性だった。その女性は赤髪でさらさらと流れる星のような綺麗なもので、二次元にしか興味がない──この場合、ヒナは例外だ。家族のような存在に興味がないとか、クズにも劣る何かだと思う。勿論恋愛対象という意味では無い──俺でも息をのむ程の美しさだった。
「注文の品をお持ちしたのですが、確認お願いできますか?」
女性はええ、と答えトラックの荷物の中を見て、よしと頷いて俺を見る。
「大きいからこのトラックごと持って行くけど、変える手段はある?」
そういや、依頼内容で最後はトラックごと渡せって言ってたな。だからバイクを積ませておいたんだ。
バイクを取り出し判子を貰いトラックを譲る。他にも小屋には何人かいて、その人達もトラックに乗った。山岳地帯での配達とはいえ、そんなに何人もこの場所で待つ必要性あったか?
「行ったな」
「ああ、行ったな。俺達も帰るか」
そんで今はっと、3時前か・・・・・・バイクでどれくらいかかるか分かんねえし、1回家に帰ってシラヌイを置いてから巨大人工浮島のバイト先に行くか。ヒナとなら仲良く出来るだろうし。それにこれ以上リーリャさん達に迷惑を掛けるわけにもいかないし。
「居候の形になるから、バイト手伝うぞ?」
「こっちが勝手にやってることだから気にすんな。てか、何でバイトの話が出てくるんだ?」
「これから別のバイトだって顔してるから」
ああ・・・・・・何でこう巨大人工浮島の奴って相手の心とか読める奴が多いんだよ・・・・・・。その力欲しいよ、それがありゃあ、退学処分とかにならなかったかもしれないし。まあ、ないもんを望んでも意味ないか。
心を読まれた俺は、家に帰ってヒナと一緒にいるのと、俺と同じバイト先で働いてみるかをシラヌイに尋ね、一緒に働くことを了承したので、俺は髪を後ろでまとめて結び、フルメットを着ける。結ぶの以外は俺と同じ事をシラヌイにも行い、巨大人工浮島に向かった。