巨大人工浮島《ギガフロート》の兵士として
「お前ら。これより我が非能力部隊———ウルフ隊は中枢とは離れた湿地帯へ侵攻する」
巨大人工浮島はアフリカ地域に展開される軍に出兵をしていた。
その中でも俺は非能力部隊という特異な力を持たない部隊として派遣された。
俺はリミッター解除を使うことが出来るので能力者なのでは?とも思ったが、目立つようなものでもないし、目立ちたくはなかったのでここを配属先に選んだ。
いろんな訓練を積み最低限の戦闘技術を得た俺は、巨大人工浮島にシラヌイたちを日本の時のように残して今ここにいる。
会議の前席で座っている上官フォックス少尉は手をあげると、ウルフ隊長はいいぞと指を指す。
「何故私たちがそちらから進行する?中枢とは遠く離れているし、湿地帯を全力で抜けたとしても戦闘は終了するのでは?」
「んまぁそうじゃろな。命令だからどんな問題が?」
「本来私たちのような無能力者は肉壁に使われるために用意されたと思ったのだが」
「逆に計算外なんだろうな。ただ戦場に来て何もしない部隊があったらそれはそれで他地域から言われるかいな」
あちらこちらから弾が飛んでこない環境なのは実戦が初の俺にとっては喜ばしいことだ。
フォックス少尉はいくつか質問をした後納得したのか問題ないと言い手を下げた。
「よし。質問はもうないな?最も目的地から離れているとはいえ戦場に出ることには変わりがない。全員気を抜かずに行動しろよ?いいな」
「『イエッサー!』」
俺は立ち上がり準備を始めるために武器庫に向かって歩いていると、俺と同期のウェイバー・ベルベッド———日本にいたヴェルバーの知り合いのようだが見捨てたこともあり聞けずにいた———が肩を叩く。
「シラギ。初の実戦はどんな気持ちだよ?」
『手の震えが止まりませんって言えばいいか?お前だって同じなくせにー』
「冗談言いながらじゃないといくら最前線ではないとはいえ、怖いものは怖いもんなぁ」
『しかしー最前線に行ってるのによくPTSDならないよなぁ。そういうところも薬キメたりして対策してるのかねぇ?』
「知らないよ。俺たちみたいな非能力者が有能力者と仲良く出来るわけないだろ?そういう所から曲がりなりにも話が出来るウルフ隊長は凄いよな」
『それだけウルフ隊長が実力者なのかもしれないな。その名が穢れないように俺たちも努力していこう』
「了解ー」
武器を手に取り装甲車へと乗り込むとウルフ隊長も乗り込んだ。
「シラギ上等兵とウェイバー上等兵は今回が初陣だ。オレと来てもらう」
『期待に応えられるよう頑張———』
額を指で弾かれると呆れたような声で注意する。
「初陣なんじゃけ生き残る事だけ考えろ。戦場に行ったら色々起きるからな」
「色々ってどんな事っすか?」
「本当色々だよ。色々な」
部隊大きく迂回して湿地帯へと向かうと、俺たちは装甲車を降りて進軍を始めた。
装甲車を盾にするように進軍していると防衛の為攻撃が飛んできた。
「うひゃ!」
「装甲車を盾にしつつ前進する!足並み揃えろよ」
『こちらフォックス。前方確認出来るのは34。スリーマンセルでの行動だ』
「了解だ!フォックスのチームはそのまま監視続けろ!いいな!」
ウルフ隊長は指示を出していき、それに他のチームは応え敵をひとりずつ仕留めていく。
『凄いな・・・・・・』
口から自然と漏れる。実際彼らの行動は冷静かつ確実で無駄な行動がない。
「俺たちいる?」
「私語は止めろ。撃てないなら何人無力化したか確認していろ」
向こうとしてもあまり重要ではないのか、それとも中枢に向かった本隊の迎撃で忙しいのか、増援が来ることはなくひとり、またひとりを消えていくがそれでも後退せずに迎撃を続ける。
訓練を受けてないのかそれともそういう命令なのか。
最後のひとりがウルフ隊長の弾丸で床に倒れ込んだ。
「各員チェックをしておけよ。半殺しは見ておけない」
ひとりひとり確認していくと、時折息のある人間もいる。
「隊長これは・・・・・・」
ウェイバーは銃を突きつけながら呻き声を上げている子供を見つけると、対応を尋ねる。すると手に持った突撃銃で数発撃ち抜いた。
『隊長!?』
「これから帰投するならまだしも、前進するんだ。戦場に瀕死の人間を連れてけるわけないじゃろ」
ウルフ隊長は俺とウェイバーの肩を叩き装甲車へと移動する。
「攻撃してくる奴なら楽だろうが無抵抗の人間を撃つのは慣れないよな。慣れて欲しくはないが、覚悟は決めとけよ」
「り、了解・・・・・・」
ウェイバーは装甲車に乗り込むまでウルフ隊長が撃ち抜いた子供を見続けながら俺と共に装甲車へと戻って中枢へと走った。