その兵器の名は2
頼む・・・・・・何にも起きていないでくれ。
暴力によるトラウマと出血によるダブルパンチで手の震えが止まらない。
それでも向かわなければならないという使命感が、今の俺を突き動かしている。
「あれま?なんであちきは外を走ってるの?」
『データ処理が終わったのか?イア』
「まだ状況証拠しかないけどそれでいいなら話せるよ」
『じゃあまだいい。今俺は知り合いがどうなってるか確認するために学校に向かってる。俺の最も大切な人であるヒナが誘拐されてな』
「誘拐した後その人を知る人間まとめてあちきの予想通りの兵器が使用されたと」
返答はしない。もしそうならセイエイも刹那もコハルももうこの世には居ないことになる。そんなこと考えたくない。
学校に到着すると、下駄箱を覗くと授業がしっかりとあったようで運動靴がしっかりと置かれていた。
「生徒は来てるようだね。にしては静かだから範囲内かもね」
『ここ俺の知り合いがいる学校だからもう少し相手のこと考えて行ってもらえませんかねえ?』
「中退した場所に未練があるとは思わなかったよ。注意する」
無言のまま上階へと上がり、セイエイのクラスを覗くと、机にうつ伏せになっているセイエイを見つけた。
『セイエイ!!!!!生きていたか!』
良かったと言いながら近づくと、その違和感に気付いた。他の生徒がいないことではない。別の理由だ。
「へへ・・・・・・ひとりだけでも助けてみせたぜ・・・・・・。キュウ。コハルと刹那のこと頼んだぜ?」
『死ぬ寸前の人間みたいなこと言う———』
セイエイに触れるとゆっくりと霧のように消えていき、まるでそこには誰もいなかったかのような光景になっていた。
『セイエイ・・・・・・』
「シグナルロスト・・・・・・この部屋に不自然に砂があるなと思ったけど、やっぱりあの兵器だ」
『どんな兵器なんだ?』
「戦略兵器999・・・・・・敵国の人間や、自国にとって対策のない風土病なども砂へと変える。その砂は栄養価が高い為環境に与える影響は少ないとして開発されたもの」
右手が自然と動きその砂を回収していく。
「敵は消せるしワクチン開発のこともしなくていいという兵器だね。それをたったひとりの人間のために使うのかな?」
『砂に変えたんだ。どんな理由があろうと使ったのは事実なんだろ?』
「うん・・・・・・残滓が残ってるかもしれない。十分に注意してね」
返事を返そうとしたところで、後ろの掃除ロッカーからガタガタと本来ならば起きないテンポで鳴り響く。
『イア。ロッカーを開けてみる。左手で開けるから右手の操作頼む』
他人が右手を動かしているような感覚になりながらロッカーを開けると、中から掃除道具と共にコハルがこぼれ落ちるように倒れ込んできた。
『コハル!?どうして中に・・・・・・』
セイエイが言っていたひとり助けたってのはコハルのことか・・・・・・。
『コハルを連れて帰宅する・・・・・・セイエイが自分よりも友人を守ってくれたんだ。あとは俺が』
コハルを担ぎ家に帰るともうひとりの俺も動けるようになっていた。
「学校は・・・・・・コハルだけだったか」
『ああ。他はみんな砂に・・・・・・』
「私も死んだ扱いにされたら困るわ日南休君」
『刹那さん!?セイエイがああなってたから・・・・・・』
「お前が学校に行った後彼女が来てな。俺とお前の話はもうしてある」
あんまりそういう話はして欲しくないが、ややこしくなるのも困る。そういう判断をしてくれたことには感謝すべきか。
『だがこれからどうするか・・・・・・ここにいても普通の生活だって厳しい』
「となると最終手段である巨大人工浮島に向かうか」
『しかし、今インたちと会うのは・・・・・・』
「だが頼れる人間は他にいない。違うか?」
しょうがないか。これだけの人間を俺ひとりで面倒を見るなんて出来るわけないし、住む場所の提供もインに頼むか。
『もうひとりの俺の言う通りだ。だけど今日はここで準備して明日巨大人工浮島に向かう。刹那さんやシラヌイは荷物をまとめて来てくれ』
「街全体そうなっているなら仕方ないわね」
「ひとりでの行動は危険だ。私も行こう」
「シラヌイさんお願いするわね」
ふたりは家を出ていくのを見送った後、俺は自室に戻り再び眠りについた。