最後の施設へ6
至る所から銃声が鳴っていた先ほどと違い沈黙に包まれていた。
最初に侵入した出入り口へと向かい外へと出ようとした時、右腕へと変化しているイアが叫ぶ。
「まだ外に出ないで壁に隠れてて!」
理由が分からず動きが止まってしまう。判断が遅いと言わんばかりに俺の身体の制御を奪って壁に隠れる。
シラヌイもアオイも同じように壁に隠れるとすぐにイアが言ったことが理解出来た。
出入り口から暴風が施設内へと濁流のように流れ込む。
その勢いに俺たちの身体は浮き上がり流されていく。
「任せて———」
イアがそう言うと、右腕が変形し付近の壁にアンカーを射出し身体を固定する。
俺の身体が固定されたところでシラヌイやアオイ達も同じように固定していった。
歯を食いしばりながら暴風に長い時間耐えていると、次第に足を付けられる程に落ち着いていった。
『はぁはぁ・・・・・・』
風も収まり呼吸が出来る様になると俺たちは荒げた呼吸を整えていく。
『イア、このあとは何かあるか分かるか?』
「本来この兵器はこんな暴風は出ないはず———いや、別の場所に撃ったのなら・・・・・・」
『じゃあこれは副次効果ってことか?』
「多分。この兵器の詳細までは知らないから分からないけど、目的の場所に発射した際に空気まで奪っていたのならありえるかも」
『そうか・・・・・・副次効果ならこの辺りにはいない筈。ふたりとも脱出するぞ!』
シラヌイは問題なく行動出来そうだが、アオイは動けそうにない。
俺が耐えれているから全員が耐えられると思うのは普通に考えておかしかった。現にメルトが暴走したわけだ。
先程の暴風が原因でメルトと同じようになっていてもおかしくない。
警戒しながら彼女に近づこうとするとイアは鼓膜を揺らすことで外に声を漏らさず俺に言葉を伝えてきた。
「(知らない人たちがいる。彼女からは暴走の可能性は軽微。無理やり連れてって問題ないよ)」
レッドフィールドに造られたこいつなら俺よりも詳しく知ってる筈だもんな。取り敢えず信じてみるか。
シラヌイにアオイたちを任せ俺は先行して進む。
遠くから声が聞こえると、銃声に合わせて銃弾が足下に落ちる。
『シラヌイ!重いのは分かってるが急いでくれ!俺は迎撃に入る!』
「「そんな身体で出来るわけ」」
『リミッター解除!』
俺は2人の呼び止めを無視すると、突撃銃をばら撒きながらシラヌイとは別方向へと走る。
攻撃する人間を優先して狙ってくれるようで、シラヌイの方向への攻撃が散漫になる。
木の葉特有の音が近づいてくると、金属がキラリと光る。
くるりと横転してイアから小太刀を取り出す。
「極東の悪魔が!」
兵士は銃を背中のホルスターに取り付けると、俺の持っていた同様の小太刀を取り出し振り回す。
それ自体は窓原たちほどではないものの、絶不調ではやはりキツい。
シラヌイの後退さえ済めば俺も後退できるし休める。
『ぐふっ・・・・・・』
リミッターに耐えられず吐血が始まる。
兵士は小太刀を収めると手足による攻撃を始める。
「反応遅れてる!」
『なら脈の調整を頼む!』
ドクンっと身体が一瞬重くなるが、その後の身体と思考がすーっと軽くなる。
挙動が変わったことに驚いたのか、コンマ単位の一瞬動きが重くなる。
もういちど小太刀を抜くとこちらの攻撃をその柄で防ぐ。
シラヌイはもう着いたんだろうか?普通ならもう着いてるだろうが、ふたりを小さい身体で運んでいる分時間はかかる。
「———シラヌイの停止を確認。こっちに向かってる」
その言葉の後に飛び上がる自動車が現れて綺麗に俺を避けて兵士を轢き潰す。
地面に着地すると助手席の扉が開きシラヌイが乗れと促す。
『・・・・・・・・・・・・』
「文句は後で聞く。まずは家に帰るぞ」
俺は残った力を振り絞り車に乗ると、その場を去り自宅へと向かった。