お家に帰ってきたぞ
家にシラヌイと帰ると、ヒナのスーパー跳び蹴りの洗礼を受けた。連絡するのを忘れたのが原因だとは思うが、状況上しょうがなかったと説明すると、後ろの子は誰だと言われた。ヒナがキレる理由も分からなくもない。いつも夜には帰ってくる俺が、一日跨いで帰ってきた上に子供まで連れて来ていてはは誰だってキレる。弁解の余地はないので、大人しくヒナのアームロックを・・・・・・ぎゃあああああ!!!
「ぎゃあああああ!!!?ヒナそれアームロックじゃなくてヘッドロックじゃないか!そこまでする必要があああ!!!」
「心配したんだよ!?何で連絡しなかったの!?いくら電話してもででくれないし、バイトが終わってから何時間経った思ってるの!?」
刹那を助けに行く前に連絡すべきだったが、そこまで頭が回らなかった。初めてのバイク運転やイン達の小銃での発砲。今まで経験したこともないような事が一気に起きたのだ。途中での連絡は無理だった。
本当に心配してくれていたようで、肩の力が抜けたのか、ヒナは小さいが重い嗚咽を漏らした。アームロックと言う名のヘッドロックは緩くなり、俺はヒナを抱きしめた。俺にとっての数少ない友人であり、家族のようなヒナを泣かせたのは本当に久しぶりだ。本当俺は最低な屑野郎だ。
「ぐっ、ねえ、キュウちゃん。後ろの子は結局誰なの?」
「ああ、シラヌイっていう子だ。巨大人工浮島から帰ってくるときに、建物がドカンと崩れたんで、バイト先の人と一緒に救出作業してたらいたってわけ。ほら、シラヌイ挨拶は」
実際は刹那を取り抑えていた奴の一人だが、そんなこと言えば、シラヌイは警察署行きか、この家がヒナの燃え盛る憤怒の一撃で俺ごと殺る羽目になるかもしれない。まだ死にたくないので嘘をつく。バレたら確実にパイルドライバーを三階から使われそうだ。運が悪けりゃ、ミンチより酷くなるかもしれない。
コミュ障なのか、それともこの状況に納得できていないのか、頭を小さく前に傾けるだけの簡単な挨拶をすると、俺の後ろに隠れてしまった。どちらかというと、緊張してるのか?
「嫌なことがあったんだね。ここにはいて良いからね?」
「・・・・・・」
「最初は皆こんなもんだろ。てか、腹が減ったぞ!飯なんかない?ヒナ」
「キュウちゃんが遅くなければよかったのに・・・・・・分かったから分かったからそんな目しないで!適当に軽い物で良いね?」
「おう、頼んだ。シラヌイも食うか?」
声は出さないが頷く。肯定したと判断しよう。ヒナが二階にあるリビングに向かったので、俺は靴を脱ぎ捨て一階の洗面所に向かう。家に帰ったら手を洗う。コレ当たり前。
手洗いを済ませて玄関に戻ると、シラヌイが靴を脱がず、ただ呆然と立ち尽くしている。巨大人工浮島では靴は脱がないんだったなそういや。スリッパとかあったっけ?客人用に用意してたはずだから・・・・・・おっ、あったあった。
「靴脱ぐ事ないんだろ?かわりにこれ履いたらどうだ?」
スリッパをシラヌイの前に並べると、一度躊躇ったが靴を脱ぎスリッパに履き替えると、俺の後ろに着いてきた。シラヌイからすれば他人の家な上、巨大人工浮島の事もある。あまり肩の力は抜けないのか。インの所へ行かせればよかったのだろうか。
二階のリビングに入り、テレビを点ける。最近まともに録画した物を見ていないので、容量は持ちそうにない。
「また、高校生なのに身長が何処から見ても、小学生にしか見えない女の子しか出ないアニメなんか見て、それのどこがいいの?」
「身長とかどうだっていいんだよ、可愛ければそれで!身長が低いって事は、ロリ巨乳が出るかもしれないだろ!」
「あんな体のバランスを間違えてるスタイルのどこがいいんだか。現実を見なさい現実を!」
「リアルの女の子にどこに真実がある!?ふざけるな!リアルで可愛い子なんて、どうせビッチしかいねえんだ!」
「偏見は良くない!」
「偏見じゃねえ、事実を言ったまでだ!」
何で理解してくれないのだろう?可愛い子には沢山彼氏が出来る。出来たら、直行ベッドインに決まってる。きっとそうだ。モテない前に社会に貢献していない俺とでは天と地の差がある。
「・・・・・・見ない?」
「オープニングが終わってんじゃん!ヒナ、不毛な争いは今度だ。今はこれを見る!」
シラヌイが始まったアニメの事を教えてくれたので、一度口喧嘩を停戦して、ソファーに座った。ヒナが何か言っていたように聞こえたが、振り向いても何も口を動かしていなかったので、気のせいだったようだ。うんじゃ、見るか。
CMに入り、時間が空いたので食卓の椅子に座る。シラヌイもテレビに釘付けになっていた。CM中でもテレビを見ているって考えると、シラヌイも好きなのか?このアニメ。試しに聞いてみるか。
「シラヌイ、このアニメ好きなのか?」
頷く。集中して見たいようで、こちらには顔を向けない。だが、いきなり入れと促された建物で、少しでも自分がでたのは俺としては嬉しい限りだ。家に帰る間にいろんな事を話してみたが、全て無言しか返ってこなかった。そういう面では少しは俺に慣れてくれたのだろう。
「はい。余ってたパンケーキ。これシラヌイのね」
「俺にはないの?」
俺の前に茹でたブロッコリーが積まれた皿が置かれた。
「これを食えという事でありますか。せめて茶はくれ。歯に挟まるだろ」
「現実を見ないキュウちゃんなんて、ベジタリアンになってしまえば良いんだ!」
「それなら大豆食品をくれよ!ブロッコリーだけ食ったって強くなれねえだろうが!」
「それなら自分で作ればいいんだよ。人に用意して貰ってるくせに、文句言うなんて最低だよ!」
「ぐっ・・・・・・正論で返す言葉がない・・・・・・!」
「なっはっはっ!キュウちゃんが私に勝つなんて三十分早いんだよ」
胸を張るヒナだがその程度で胸を張っていたら、全ての行動の度に胸を張らなくちゃいけないと思うんだが。まあ、用意して貰ったのは事実だ。皿に載せられたブロッコリーよ。食べられる用意は出来ているか!シュピラキラン!!
「早っ!?ちゃんと噛んだの?ちゃんと噛まなきゃ喉に詰まらせるよ」
「ふっ・・・・・・ブロッコリー如きに負ける俺様ではごふっ!?」
しまった。ブロッコリーの筋が引っ掛かって、息が・・・・・・。
「言わんこっちゃない・・・・・・。水飲みんさい」
「ぐっぐっ・・・・・・ごふぁ!恐るべき力だ・・・・・・!」
「自爆でしょうが。シラヌイみたいに静かには食べられないのかな?ん?」
目が笑っておりませぬぞ、ヒナさんや。てか初めて来たところで俺と同じことしてたら追い出されるって普通は思うだろ。俺は追い出すつもりはないが。そんいやテレビ見てなかった・・・・・・。巻き戻すの面倒いし諦めるか。
「あっ、終わった・・・・・・。さようなら我が愛するキャラ達よ。君達のことは忘れない・・・・・・」
まわりが凍ったような気がしたが、そんなことぐらいで一々矮小な心を揺れ動かしていたら、絶望病がまた起きちまうかもしれないし、気にしない。
ブロッコリーを全て食べ終えた俺は、皿を軽く流してから自動洗浄機に入れる。シラヌイも終わったようなのでついでに入れた。
「キュウちゃんごめん。今から学校だから、行ってくるね」
「そうだっけか?今日は休みじゃねえの?」
「明日OSだからそれの準備でね」
ああ、なるほど。OSなんて面倒なのあったなそういや。当時は特欠貰えるんなら全然行くけど、何のメリットもないんじゃって思って一切考えたことなかったな。まあ、今は退学処分後だし、関係ないんだが。
「沢山人が来ればいいな。まっ、ヒナがいりゃあ学校に来る奴も多いだろ」
もう行く準備は出来ていたようで、キッチンにあったバックを肩に掛けて出掛けていった。行ってら。ヒナさんや。さてと俺はこれから何をしようか。シラヌイは何にも持ってきてない状態で来たわけだし。衣服でも買いに行くか。ついでに俺のも買おう。と思って席を離れようとしたその時、家の電話が鳴った。昨日今日といろんな事があって休んでないんだ。止めてくれよ全く。
俺は電話を取ると、相手はリーリャさんだった。
「何です・・・・・・リーリャさん」
「いや、えとね。ほら、学校退学処分になったんでしょ?だから仕事を追加できるかなって思って。凄い眠そうだけど大丈夫?」
「特に何も。もしあっても文句は言えないですよ。俺みたいなやつ雇ってくれるとこなんて普通はないわけですし。それで、どういう仕事なんです?」
「配達業何だけど良いかな?」
俺は、はい、了解ですの二言でそれを了承した。合流地点は船着場なので、インから借りたバイクに乗って行くことにしよう。・・・・・・仕事とは言え、今日来たばかりのシラヌイを放置には出来るわけがない。
「シラヌイ、これから仕事なんだけどよ、お前を一人残すわけにもいかないから、一緒に来てくれないか?その帰りに衣服も買おうぜ」
シラヌイは頭を縦に振り了承してくれた。よし、なら行くか。バイクに乗り俺達は、船着場へと向かった。