最後の施設へ2
「白銀さん大丈夫ですか?」
レッドフィールドからの依頼では今回行われている実験対象である子供たちにはある薬物が投与されているらしい。
前にインが学校地下にあった施設へ攻撃した時の物とは違うようだが、既存技術を使った物らしい。
完全に変化する前に、または化け物に変化しないようにしてその薬品が精度の低い物だと認識させることが彼女からの依頼だ。
俺自身も潜入している以上バレる訳にはいかないので、微量ではあるがその薬物を投与している上その実験項目は受けることになる。
本来は周りが簡単には壊れないような壁で包まれているのだが、実験対象者には自然に囲まれた空気の美味しい山の中にみえている。
あらすじとしては、俺たちは世界から人が集まるような大規模キャンプからの帰宅中に道路が地震で崩壊し、下の森に落下したという程での内容だ。
引率者は全員死亡ということにすることで、子供たちに違和感を持たせることなく行われている。
『救難要請は出てるんだ。変に動かないほうがいいって』
俺は隣に座席に座っていた(設定)メルトという少年と共に行動していた。
「みんなはあんなに食べ物を探そうとしてるんですよ?」
『専門知識がない状態で食べたら不味いでしょうが。人間は水があって孤独な状況でなければ基本は何週間も生きていける。ストレスは溜めないようにしていかないと』
「でもみんなが探してるのに働いていないのバレたらまずいですって」
俺の寝袋の裏側にあるテントの壁には栄養剤が毎日追加されている。
これを摂取すれば支障なく実験に参加出来る。けどそれは1人だけ余裕のある状況を作ってしまう。
それでは助けたことにはならない。俺も暴走する可能性はあるが同じ状況でこそ意味があると思う。
『まあ待っときゃ良いんだよ。救難信号を出してるんだから』
納得出来ない表情をするメルトだが、俺が動かない事だけは理解したようで寝袋に包まる。
しかし今まで会ったことのない人間を元々友人だったと思わせられる洗脳技術は純粋に驚く。
薬物だけで出来るものなのだろうか?それとも大まかな記憶は変更せず、隙間に埋め込む事ぐらいは彼らには造作もないのだろうか?
『俺も注意しないとな』
「何をです?」
しまった。適当に言っとくか。
『栄養とってないから怪我しないようになって』
「そうすっねえ。無駄なエネルギーの消費は抑えないと。白銀さんのおかげで栄養確保さえ厳しいですからね」
『責任押し付けられてんなぁ』
こんな何か変わるわけでもない話をする日を数日繰り返せば、当然栄養不足による視界の歪みと肌の変色が始まる。
食事はなく水飲みの生活は理論上可能なだけでやはり来ることはくる。
「いつになったら助けが来るんだよ・・・・・・」
『待つしかないって———』
「それ言い続けてもう1週間っすよ!もう限界だ。俺もみんなみたいに探しますよ!」
メルトはそう言ってテントから身を出すと、その景色に驚いていた。
もう何度も見た景色だろうに今更驚くことなんてあるのだろうか?
俺はメルトの足の間から顔を出すと、その理由を即座に理解した。
『いつの間に建物内に移動したんだ?』
勿論元から施設内であることは俺は知っていたが、視界での認識はしていなかった。
『メルト流石にこれをひとり出るのはまずい。俺もいくよ』
「白銀さん。みんなも連れてこられてるかもしれないですし、探しましょうや」
2人でテントを出るとまずは同じように実験に参加していたアオイという少女の泊まっていたテント場所に向かうか。
施設内とはいえテントの位置が変更されているということはないだろう。
見える視界は変わっているが、方向までは変わらない筈だ。
その方向に歩いていると、ひとりの少女が顔を髪の毛で隠しながらこちらに歩いて来る。
「スコンドさん?いつも髪まとめてるのにどうした?」
メルトはスコンドに近づいていくが、彼女はメルトが肩に触れたところで初めて気づいたかのような行動を取ると、何かまずい感じが俺の身体に走る。
『メルト、いちど距離を取れ』
「こんなにボロボロになってるんすよ?」
『・・・・・・嫌な感じがする。上手く説明できないんだ』
渋々肩から手を離すと、スコンドは口を大きく開いてメルトの肩に噛みつこうとしてきた。
嫌な感じがあったために俺はメルトの近くにいたこともあって彼女を蹴り飛ばすとメルト引っ張り元きた道を使って逃げる。
「なんなんすかあれ!?」
『知るわけないだろ!知ってたらとっくの前に気づいてるわい!』
過度なストレスが原因でBOW化したのか?いやそれだけじゃないか・・・・・・。
それなら噛みつく行為を取らない。ただ相手を殺す態度をとる筈だ。
『二重暴走とかか?』
「二重暴走?どういうことですか?」
『俺もよくは知らないがゴドウってのがあって、それの中に餓鬼と言うものがある。いつになっても満たされない状態のことを言うらしい』
こんなBOWなんて認めたくない。けどそうとしか言えないんだ。
『極限状況化でそれに近い状態になってるんだろうな。他のみんなもこうなってると思った方がいい』
「でも出口なんてどこにあるか・・・・・・」
『走って探すしかないだろ!いく———っず!?』
右腕に変な感触がある。そして急に引っ張っていたメルトが重くなる。
共に走っていたから重くなることなんてないんだが・・・・・・。
振り返って見てみると、メルトが俺の腕に噛み付いていた。
『があ“あ”あ“あ“あ”あ“あ“あ”あ“!!!!!?』
血が吹き出して服に顔に飛び散る。
引き剥がそうとするものの異常な力がそれを拒み、押し倒されてしまう。
『落ち着けっ!俺は食い物じゃないっ!!!!!』
耳にまで届いていないようだ。逆に声がうるさいと感じたのか、俺の頭を掴むと壁へと投げつけてから再び俺の腕に齧り付いた。