あの化け物の正体は———2
玄関の明かりを消して奥の部屋へと足を踏み入れる。
「しかしあれは一体何なんです?刹那さん」
「少し前から現れだした化け物でね。人間だけじゃなく動物も無差別に殺しているみたいなの」
「それなら流石に自治体も動くのでは?」
「動いた結果が学校での早く帰宅しろって言われただろ」
「学校としても言うわけにはいかない理由があるということよ。夜歩いていると赤い化け物が高速で襲ってくるなんて言っても「何言ってんの?」ってなるでしょう?」
自分は聞いていなかったが、ちゃんと聞いていたら彼女の言う通りだろう。今日言われたのは船の件だったと聞いているから別の時にだろう。
「だから今日はアレの対処をしていたのだけど、そこで君が襲われていたわけ」
「いやホント助かりました。なんて言えばいいか・・・」
セイエイはキッチンで茶を淹れると、それをテーブルに並べる。
「緑茶飲めるか?無理なら言ってくれ」
「大丈夫です。ありがとうございます」
口に含むと少し苦味を感じたが飲めないものではない。というか淹れて貰って飲まないのはどうかと。
「・・・・・・ん。刹那さんあの化け物に名前とかあるんですか?」
「ないわよ。そうよねセイエイ?」
「うむ。考えたこともないな。化け物は化け物としか読んでなかったし、他の人と情報交換する必要もなかったしな」
「ってことはあれについての情報は全て自分たちで?」
首を縦に振り頷く。
「しかし、わざわざ刹那がここまで連れて来たってことは結構しつこく追ってきたってことだよな・・・今までの挙動とは少し違うな」
「あといくつかの化け物は気配を殺しているタイプもいたみたいね。これもまとめておかないといけないわ」
2人は今回会った化け物の情報をまとめていく。その間に自分で考えられることを浮かべていく。
動物も人間も襲うような化け物だ。なぜ今日初めて見た?日常的にゲーセンに寄ってから帰宅していたんだから、一度や二度会っていてもおかしくない。
それに前からいたのなら他の人の帰宅時にも会っていてSNSとかに晒されていたりしている筈だ。
けどしていない。つまりは見た人は全員例外なく襲われている?それとも刹那さんたちが見つけてこれのことを他言するなとでも言っているんだろうか?
「情報を自分たちで集めているなら、結構前からあれと戦っているんですよね」
「そうだぞ」
「他の人って助けたことありますか?人だけじゃなくて動物も殺しているって言いかたから死体も確認してるって事ですよね」
「そうだな」
「じゃあなんで殺人事件としてニュースとかになってないんですか?」
「グサグサくるな・・・正しくは殺された形跡を確認しているってだけだ。本格的に人が襲われているのを見たのは今回が初めてだ」
つまりは状況証拠のみで判断していたってことだ。
「後輩くんのように襲われたあとそれを処理したとしても被害者は出ている。行方不明などがニュースになってもおかしくないはず・・・SNSにも上がっていないなんて」
「殺されてもだれも気にしない人間が殺されてるとかか?」
「化け物はそういう人間を見極めて殺している事になるわね。誰かが指示していたりしているのかしら?」
「またまた情報集めが必要になってくるなぁ」
セイエイは頭を抱えるとため息を吐き髪をかしゃかしゃと擦る。
彼女たちが考えた理論が少しでも当てはまっているなら、狙われた人間は必要ない———生きる必要がない人間となる。
自然と恐怖が襲ってくる。手が震えてしまう。自分は必要ないと言われるのは悲しくなる。
「まだ確定していないのにそれで恐怖するする必要はないわよ。恐怖するのはすべての事実を知ったあとよ」
震える身体を熱い茶で飲んで潰す。舌はひりひりしたがそれによって身体の震えが収まった。
一度大きく呼吸を整えると刹那さんとセイエイ氏から可能な限り情報を貰うと太陽が昇るまで眠りに入った。