当日6
———起き・・・まだ生きてはるんやろ———
ヴェルバー・・・?お前も生きてたのか?死んだとばっかり。
———うちの分まで生きてや。あともし巨大人工浮島行くことあったら弟と兄に伝えてえな———
いつのまにか立っていた俺はどこかへと向かうヴェルバーへと手を伸ばす。
『ヴェルバー。何言ってるんです?一緒に帰りましょう。諦めないで』
———ただの怪我やったらまだしも、あんな怪我やなぁ無理や。シラギンちゃんは頬だけや。いろんなとこ痛めてるやろうけど大丈夫や。うちが保証する———
身体がポカポカと暖かくなっていく。脈打つ速度が速くなっていき、身体の気だるさも戻ってくる。
『ヴェルバー・・・』
———うちがついてる。マリーちゃんのとこ行こうや———
歯を食いしばり手足に力を入れて立ち上がろうとするが、つるりと滑ってまた床に伏せる。
『んのっ・・・』
———がんばんや———
歯がギリギリとなりつんざく感覚が頭の中を駆け巡るが、前までよくあった絶望病と比べればなんてことは無い。だって意識が飛ぶことがないんだから。
左手で頭を支え右手は壁に手を付けてフラつきながら立ち上がった。こうなればあとはリミッターを外すだけだ。
2割程度の解除で走りながら合流地点へと向かう。
———もうここまで来たんか・・・どこかになんか乗るもんはない?———
左右を見渡すと左端にバイクが数台並んでいた。そのうちの1つ分が変に空いていたのでそれに誰かが乗ったというのは理解出来た。追うにはあれに乗らないと間に合いそうにない。
『あのバイクで行きます。バイクは急カーブがなければ私にもいけると思いますので』
———ほな、さっさと乗るで。思考の方はうちがなんとかする———
彼女のサポートとリミッター解除を組み合わせればいけるかもしれない。
俺は何とかバイクに跨ると、一気にフルスロットルまで動かしてトンネルへと走る。
『ヴェルバー。私の予想が正しければ、相手はあれだけの人数を1人で殲滅出来たとはいえ、見捨てて脱出した者まで処理するのは難しいと思うのですが、そのところどう思いますか?』
———うちなら絶望与える為に外全方位に配置しとくなぁ———
『つまりはそういうことですよね?私たちで入ってきた方の襲撃者は何とかしましょう。弓田屋さんに外の方の迎撃を任せて』
———無謀やで?———
『無謀でもヴェルバーやみんなが命を賭してくれたこの命です。なら私はマリーとJPPを守る為にそれを使いたいんです』
メガネのおかげで直接目に風が入ることはなく、高スピードを維持したまま進むことが出来た。
いくらかトンネルを進むと2人の人間が争っていた。1人は身長が高く弓田屋さんだとすぐに理解出来た。となればもう1人は敵だ。
バイクから耳障りな音を出しながら、敵の方へと全力を向かわせ引き飛ばそうとしたが、襲撃者は片手でバイクを受け止め、その状態で弓田屋さんの相手もしていた。こちらに視線なんて一切向けていない。
ならばとバイクから降りてリミッターを外して背面にナイフを突き入れようとしたが、それも簡単に迎撃されてしまった。
「2人で・・・いや、お前2人か・・・?まあいい。多少人数が増えたところで俺に勝てると思ったのか?こちらはお前らで言うリミッターを外していないがな」
『・・・・・・』「・・・・・・」
口が動かない。その後襲撃者は俺たちを内側へと投げ飛ばすと。両手を広げて勝ち誇ったかのように殺意を消す。
「分かっていると思うが、俺ぐらいで止まってる暇はないぜ?何故なら俺は中にいる人間を潰すことが仕事だからな」
『やはりそうですか・・・・・・弓田屋さん』
弓田屋さんの耳にギリギリ入るぐらいの声で話しかける。
『私が食い止めます。無謀ですが、そうしないと前のやつと同じぐらいのやつが外にいたら止めらないと思うんです』
「・・・・・・終わったら戻ってくる。何としてでも耐えろよ」
襲撃者は俺たちの作戦会議を余裕で待ちながらナイフをクルリと回していた。
「作戦会議は終わったか?じゃあ始めようか」
襲撃者はナイフを逆手に持ち殺意をこちらに向ける。
俺と弓田屋さんはそれに合わせて挟み込むように飛びかかり、僅かに先に襲撃者へと近づいていた俺を土台に弓田屋さんは飛び上がり倒れていたバイクに乗り込んで一気にトンネルを通過していく。
『ふざけるのもいい加減にしろよ・・・憤怒』
「お前はヒナに手を出した奴らを許すのか?」
『あの時助けに行こうとした俺を撃たなければもっと確実に安全に助けられたんだ!そのお返しがさせてもらう!』
前に戦った時はボコボコのけちょんけちょんにされたが今回は違う。食い止めてみせる。絶対にだ。