当日3
盾にするものを失った男は獣のように飛び跳ねながら牽制していた。こんなに狭い場所なのになぜ彼は戦えるのだろう。人数差ももろともせず。
絶え間ない攻撃で俺たちの銃の銃身は熱くなり、安定した弾が撃ちにくくなっていた。
男はその隙を無駄にせずにこちらに接近すると、前方にいた人たちを一瞬で捌きそして俺も簡単に無力化され倒れ込んだ所を撃ち抜かると同時にその衝撃で意識を奪われた。
キュウやその他のメンバーが襲撃者と戦っている間に弓田屋とマリーはJPPと他のメンバーと合流していた。
「弓田屋さン。他ハ・・・?」
首を横に振り無理だったと伝える。これだけ減ったとなるとここの運営はもう出来ないと思った方がいいと判断したJPPは脱出の準備を進めていた。
「あんたとマリーさえいれば取り敢えずは続けられる。なんとしても脱出をしてくれ。俺は殿をする」
「すみませんがお願いしまス。皆さんは私と共に脱出ヲ。いいですネ」
準備が進んであと少しという所で通信が入る。襲撃者から防衛していたチームからの通信だった。
『もう持ちそうにない!あとはお願いします!』
「分かった。・・・・・・すまん」
『自分で決めたんですから気にしなくていいっすよ。それじゃ』
通信が切れる。弓田屋は何も出来ない自分の心を左手に込めて握り締める。そしてそれを解くと準備の出来た車の荷台を掴み行けると伝える。
車は休むこともなく一気に最大全速へと速度を上げて車庫を出ると、何処かに繋がる線路のあるトンネルへと飛び出した。
「(やつとて脱出を予想しないわけがない。俺ならトンネルの出入り口を塞ぐが・・・)」
特に何もなく車は進んで行く。時折前方と側方を確認していると自分たちの来た方向から爆音が聞こえてきた。音からしてバイクなのは確定だが、ここには車に追いつくようなバイクはない。だが近づいてくることからして襲撃者の物と見た方がいいだろう。
弓田屋は指でそれを伝えると、トンネル内に銃身を向け臨戦態勢を整えた。
冷や汗が流れる。あれだけいた仲間たちをこれまでの人数に減らした相手を自分は殺せるのかと。
「(弱気になるな。これぐらいの修羅場アフリカで経験したろ・・・)」
バイクの爆音が強くなった所で、弓田屋はサイドウエポンのグレネードを上へ向けて発射しトンネルを塞いだ。
瓦礫の中から音がする。声なのは認識出来たが、それがなんだったのかまでは聴き取れなかった。
すると瓦礫の中からバイクと共に襲撃者が瓦礫をぶつけたのだろう頭から血を流しながらこちらへと飛び出して来た。
「初めから撃ってりゃ良かったなぁ!」
「チッ!」
弓田屋が弾を撃つ前に襲撃者は運転手とJPP、マリー以外のメンバーを撃ち抜いた。
何とかそれを見ることが出来ていた弓田屋は銃を弾かれるだけで済んだが、他は全員即死だった。
「仕方ない・・・リミッター解除!」
そう叫び車から飛び降り襲撃者へと膝蹴りを決めてバイクから突き落とした。
「他の奴らを含めた第2ラウンドだ」
襲撃者が立ち上がる前に弓田屋は腰の大型ナイフを振り下ろしたが、それを難なく回避し立ち上がる。
「俺と同じタイプの・・・・・・あんた。巨大人工浮島だな?なんで奴らに協力する?」
ナイフを逆手に持ち替え空いている右手に拳銃を持ちそれを構えながら弓田屋は答える。
「自分を襲った相手が目の前にいるんだ。その状況でそんなこと気にしていられるか?」
「そうかよ」
襲撃者は距離を詰めると右袖からナイフを取り出してそれを弓田屋の首めがけて振る。
それに対して弓田屋は銃身に付いている銃剣でそれを防ぎ蹴り飛ばす。
「能力者を知っているなら同じ出身者なのかもしれないが、俺が生きるために死んでもらうぞ」
すると2人は目にも留まらぬ速さで動き始めた。