狼狽えないで頑張る
「ドンマイとしか言いようがねえな日南休」
グサッ!
「マスター。あんまりナオフミ君に精神ダメージを与えるようなこと言わないでください。本当に自殺とかしだしたらどうするんです?それに仕事してください」
グサッ!グサッ!
「今の日本だったら、大卒でさえ海岸掃除ぐらいしか正社員に雇用される仕事がねえってのに、中退とか社会的に殺されたも同然じゃねえか」
グサッ!グサッ!グサッ!
「ああっ・・・・・・!ナオフミ君が息してないですよ!マスター!」
「モウダメダアオシマイダ・・・・・・」
「声出てんだから問題ねえだろ。いちいち悪い方向に考えすぎる所がお前の悪いとこだな」
グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!
「いい加減働かんと、クビにすんぞ~」
ピコンッ!くよくよしても仕方ねえか。やることがなくなったわけじゃねえ。逆に考えるんだ。学校に行かない分生活費が安くなるって。
「ちゃんと働きますから文句は終わってからにしてくれマスター。てか、人に指図するんなら先にあんたが働けよ」
「私店長お前部下。それ以上でもそれ以下でもないだろ。俺が給料やってんだからなっと!おい何するんだよ。返せって」
「今日はお客様多いんですからもう終了です。どうせメンテなんですからいいでしょう?」
うぃーすとやっとカウンターに顔を出したマスターだが、マスターがするのはコーヒーを入れたりする程度だ。普通はもっとこういろんなことするだろ。俺は調理師免許持ってないし、リーリャさんは他のことで忙しいし。
・・・・・・将来の事考えると他のバイト捜さないとな。だが、これ以上増やしても絶望病で倒れるし、まずそんな人間を雇うはずがない。しかし、動けるのに生活保護貰うわけにもいかないし。ああっ!困ることしかねえよ。
カランと扉を開けて客が入ってくる。ネガティブ思考は後にしてオーダーを取りに行く。
「どうなさいますか?」
「気の抜けたコーラを頼む」
気の抜けたコーラ?何じゃそりゃ?けどオーダーがそれなんだから、リーリャさんに渡すか。
「リーリャさん、これお願いします。何なんです?気の抜けたコーラって」
「そのままの意味だよ。裏メニュー的な感じだからナオフミ君が知らなくてもしょうがないよ」
裏メニューか。けど、そんなに気の抜けたコーラって美味かったか?俺は気の抜けた炭酸飲料何てあんまり好きじゃねえな。日本には数少ないあれを除くが。いや、本当は沢山あるんだろうけど、取り扱ってる店が近くにないからな、あれ。巷じゃあ、七割の日本人は嫌いだとか何とか。あの何とも言えねえ味が最高なのにさ。
リーリャさんに渡すとすぐにそれをマスターに渡す。少人数でのバケツリレーみたいに。それを見たマスターは、いつものゲームをやっているときのような、本気の目になっていた。てか、それが一般人である俺でも分かるぐらい通常業務がひどいって事になるじゃんか。
これまた珍しく、カウンターから離れて裏メニューを頼んだ客の所まで行く。何か聞き忘れたことあったっけ?
「お客様、この気の抜けたコーラは温かいのですか?それとも、冷たいのですか?」
「冷たいのを頼む」
マスターはその注文を受け取るとカウンターの奥にある、階段を上がって行った。それに続き、注文客もマスターについて行く。裏メニューは上でしか楽しめないのか?気の抜けたもんを準備するには時間はかかるし、その前に飲む人が少ないから頼まれてから準備してるんだろう。
「ここ、お願いね。ナオフミ君」
「ちょま、1人で皿洗いから注文を取って清算までやるの無理ですよ」
「すぐ戻るからね。それまでねっ?お願い」
「・・・・・・はい。分かりましたよ」
さっすがと言い残し、リーリャさんも上に上がる。話が終わるの待ってましたというように、客の注文が入った。紅茶の3つだ。これなら1人でも出来るな。
すぱっと、紅茶を作り客に出す。さあ、どうか。味には自信が無い。急いで作ったからとかじゃなくて、練習をそんなにしていないから微妙な味加減が上手く出来てない。少し緊張するな。感想を1人の客に聞こう。身長は俺と同じぐらいで、髪も腰まで行きそうなぐらい長い。
「あの、どうですか・・・・・・?あんまり煎れないもんで」
「・・・・・・お茶について詳しくはないけど、君の緊張がお茶からも伝わって来る。決して失敗している訳じゃないから、いいと思うよ」
そういう意味で聞いたわけじゃないんだが、好印象な意見が貰えるのは、悪いもんじゃねえな。
「あの・・・・・・どうかしました?ぼーっとされてますけど」
「いや、何ていえば良いのかな。君、僕と同じような気がしてね」
「どういうことですか?」
「閉店時間まで待つから、仕事をこなしてきた方が良いよ。僕が留めたんだけどね。ほら、あそこの人とかそこの人も」
げっ、そうだったそうだった。今は俺1人なのか。俺は好印象なことを言った不思議な客から離れた。数十秒という短時間とはいえ、待っている人からすれば何分も経っているように感じてしまう。こんな失態は、クビ案件だ。さっさと終わらせよう。心はもちろん込めるがね。
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実際に不思議な客は閉店時間まで待っていた。その間はどうだったかだって?マスターとリーリャさんと気の抜けたコーラを頼んだ客の三人は間際になってやっと降りてきた。俺が料理が作れないせいで、何人かの客は何も頼まず帰ってしまったが、それもこれも、主力メンバーがいないのでは起きてしまうのも無理はないと、人のせいにする最低な俺1人。って言う感じ。
「ふざけんなよこのやろーマスターのせいで、文句言われたんだぞ!一応俺はメンタルがやられた可哀相な子なんだぞ!」
「うっせえ、段ボールに入れて出荷すんぞ。これも重要な案件なんだよ。まあ、料理も作れねえバイトを1人残したのは失敗だったな」
それなら、閉店後にして欲しい。マスターと気の抜けたコーラを頼んだ客は許さねえ。ぷんすか。
「はいはい、喧嘩は後で先に片付けようかな?」
「シィット!了解です。リーリャさん」
残った食器を片付け、今日の分は終わりだ。家に帰ってもすることねえから日本に帰ったら、オールでもしようかなと。
「ねえ、待ってたんだからさ、何かちょうだいよ」
「それはてめえが勝手に待ってただけだろ。何かやる義理何てねえし名前も知らない奴を信用するとでも?」
「ひっでええ!?そりゃないよ・・・・・・。仮にも客だったんだしさ・・・・・・」
「バイトは終了関係ナッシングてか、名前教えろよ」
「名刺じゃ駄目?あんまり自分の名前言いたくないんだ」
「名刺でも良いからさっさと寄こせ」
名刺を受け取り名前の所を見たが、読めない。セイエイが持ってきたのと、まったく同じ字だ。言葉は通じるのに、何で起きるんだ?
「すまんが、読めない」
「あれま、日系かと思ったから、これは読めるかなぁって思ったんだけど」
そういやさっきから、リーリャさんとマスターの反応がない。いつもなら、俺が今みたいに読めないことがあったら、代わりに読んでくれたりするんだが。
「ねえ、君の上司達っていつもこんな感じ?」
「んいや。どうしたんですか?リーリャさん。あの・・・・・・。駄目だこりゃ、目が点になってる。口答で頼めるか?」
「本当は嫌だけど、良いよ。僕は***だよ」
名前の部分だけ、キーンという音が俺を襲った。なんだよ今の・・・・・・漫画じゃあるまいし。
「す・・・・・・すまんもう一度頼めるか?頭にかき氷を食べた後みたいな痛みが走って聞こえなかった」
「そんな・・・・・・もしかして、君。***じゃない?」
ぐっ!?戻しそうになる。胃酸が喉まで来そうだ。
「**************」
「がああああああああああぁ!?」
う゛おぇぇぇぇ。気持ち悪い。完全に口から漏れる前に手洗い場に行けたことが幸いし、床が汚れる事はなかった。
やっと、動けるようになったのか、リーリャさんは水を持ってきてくれた。俺はそれを口に含み、また吐いた。
「大丈夫?ナオフミ君。何か悪い物でも食べた?」
今日食べたものに、ハンバーグ等の混ぜ肉類や、当たるような物は入ってない。何がどうなって吐いたのか、少なくともあの不思議な客が話してからだ。あいつの名前を聞こうとすると、こうなった。そして吐く寸前の時の感じは、絶望病に近い反応だった。この客は絶望病について何か知っているかもしれない。膝をついて吐いたので、立ち上がろうとしたその時、また絶望病の症状が出て、意識を失った。