施設内での休暇
マリーとの暮らしは楽しい。前に買ってきたゲームのおかげでヴェルバーと弓田屋さんだけでなく色々な人と仲良くなることが出来た。
だからこそ時々考えてしまう。シラヌイやイサリビとはこういう生活が送れているかと。自問自答すると少し怪しく感じてしまう。彼女たちに家族として何かしてやれているかと。非日常を与えると言ったのに、俺が与えているのは彼女たちにとっての日常しか与えられていないんじゃないか?そう思って仕方がない。
「シラギン、顔怖い!」
マリーの声が俺の意識を現実に連れ戻す。
『えっ、ああ・・・すいません。前に買ったゲームでどうやったらみなさんに勝てるか考えていたんです。私弱いですからね。腕がないのを研究でどうにかしないと』
「それで朝からぶつぶつ呟やいとったんやな。怖いやつやと思おたわ」
「そうだぞ。ずっと右上左上みたいな何かの呪文みたいに呟いていれば側から見れば怖いといったらありゃしない」
ヴェルバーと弓田屋さん曰く声が漏れていたらしい。声帯機で喋ってるわけだから多少の漏れがしょうがないか・・・じゃあすまないな。注意しないと。
『すみません。気をつけます』
「謝る必要はないさ。しっかし、あそこまで負けず嫌いだとは思わなんだな」
「年上の貫禄を見せたいっちゅうやつやな」
『そこまでは』
「ホンマかいな。うちそこに関しては疑うでぇ」
「夜な夜なシラギン君の声が聞こえテ恐怖を感じるという声があるぐらいですからネ」
『本当ですかそれ・・・完全にヤバいやつですよ私』
「誰だって弱点はあるもんさ。気にしないで行こうぜ?」
最後の一口をスプーンですくい口へと運ぶと近くの爪楊枝を取り歯に当てる。
「ん?JPPか?今日は珍しくここで食ってるんだな?」
「みんなで仕事をしているのですかラ、何度かはこのように食事を取ったほうがいいと思いましテ」
『JPPにも認識されているとなると、ほぼ全員に知られていますね・・・これは』
ちぎったパンを口に入れながら自分の奇行に後悔する。マリーとヴェルバーは何が面白いのか分からないが楽しそうだった。
ツボにハマったようで涙を流しつつ笑うと呟く。
「誰にでも敬語やから、クッソ硬いやつなんかと思ぉとうったけど、シラギンちゃんも人要素あってよかったわぁ」
『今私を貶しませんでした?』
「んなことなかろうて」
『それなら良いんですが・・・』
あれから敬語をずっと使ってるのもあって、少しは違和感ないように感じてきた。それほど長い時間彼らと一緒にいるということだろう。
「話は変わるのですがマリー、みなさんが来てどうですカ?何か困ったことがあれバなんでも言ってくださイ。出来ることなラどうにかしますかラ」
首を横に振りううんと元気よく答えるマリーを見て安心する。もし嫌なことがあったら大変だ。
「ごちそおさまあ!」
マリーは元気に手を合わせつつ食器を洗い場に持っていく。キュルキュルと離れた位置にいる俺たちにも聞こえるほどの腹の音が聞こえ、マリーの顔が青ざめていく。
『どうしましたマリー?何か当たりました?』
「いつも食べてるものなのにお腹がすっごく痛いの!」
それを聞いたヴェルバーは席を立ち上がりマリーの所へ向かいつつ、顔をこちらに向ける。
「迷惑やと思うんやけど、うちがマリーと行くから、シラギンちゃん皿頼めんか?」
警護の為とはいえ女性トイレに入るのは憚れる。ここはヴェルバーに任せよう。
『分かりました。マリー、ヴェルバーの言うことしっかり聞くんですよ』
「トイレ行くだけなんだから言うこと聞くとかないだろ」
『もしものこともあるじゃないですか』
2人と別れた俺と弓田屋さん、そしてJPPは残った飯を食べつつ、2人の帰りを待つことにした。