家族会議
3人が帰って来てから晩飯まで、俺はどうやって説得しようか考えていた。リーリャさんに頼まれたと言っても確実にバレるだろう。シラヌイとイサリビは毎日とは言わないものの、ここ最近の俺より会っているわけだし。
だからそういう方向での嘘はつけない。というか嘘は吐きたくない。吐いた結果がこの怪我だもんなぁ。俺も痛い思いをするのは嫌だ。まあ当時は殆ど痛みなんて感じてないんだが。
3人との晩飯で俺は嘘はつかずに本当の事を全部言った上で行くことにした。
「ダメに決まってるでしょ」「ダメだ」「何言ってんの」
当然の3人同時の否定だ。
『あいつはヒナを誘拐したんだーーー』
「関係ない。というかそれは終わった話でしょ」
「そのJPPっていう人間がいたとしても、今は被害に遭ってない。またあの時みたいな怪我はして欲しくないと言っただろ」
『あいつがいたらまたやられるかもしれないんだ。取れる芽は早めに取っておかないと』
パチンと頬を叩かれる。グーでないだけマシだが結構な力で、俺の身体はぐるんと待ってうつ伏せに倒れこむ。
「今のでさえ反応出来ないんだよ?それに顔だってバレてる。キュウちゃんが行けば何が目的で来てるかすぐに感ずかれるよ」
「気になるんだが、なぜお前はインに言わない?お前の時だって来てくれただろ?」
『極東連合ってところに関わってるらしいから、そこにインが行くと国際問題になるらしいんだよな』
「だからこっちに住んでるキュウちゃんが行くと」
『ああ』
巨大人工浮島は人工島である以上現在の理論で言えば国ではない。だから攻撃は可能なんじゃないかとも思ったが、それ以前に国連のものだった。つまりは上が了承しないと本来は動けない。ピライのような企業を隠れ蓑に目立たないように少人数でならまだしも、多数での行動は出来ないわけだ。
「ふーん。そうなんだ」
『だから行かせて———』
「構わないよ」
ヒナに全員の視線が集まる。そんな回答するとは思ってなかった。ヒナは目を合わせず下を向いて呟くように続ける。
「ヒナさん!?どういうつもりだ。あなたが一番言っては———」
「話は最後まで聞いて、そのかわり条件がある」
鋭い目つきで———しかし心配の目でもある———俺を見つめて出た言葉に俺は驚いた。
「キュウちゃんが行くなら私も行く。それが条件だよ。キュウちゃん」
・・・・・・・・・・・・ダメだ。
『前に誘拐されたのを覚えて———』
「終わった話はなしって言ったでしょ?それに私はキュウちゃんを手に入れる駒でしかなかった。それほど重要じゃないからキュウちゃんほど目立ってない。覚えられてないよ」
『ダメだダメだダメだ!危険な目に合わせたくない!その為にあの時助けに行ったんだぞ!』
「私たちも今キュウちゃんに対してそう思ってるんだよ?分かる?」
「ヒナさんもキュウもやめろ!みんな行かない。それでいいだろ!」
頭に血が上っていくのを感じる。
『今しかないんだ!今この近くから離れられたらそれこそもう手の出しようがなくなる』
「動ける人に任せればいいでしょ!これ以上キュウちゃんが行くって言葉言うなら、怪我人だからって容赦なく首を絞めて動けなくするよ」
『ああ、そうかよ。じゃあ行かねえよ!勝手にボロボロにされても次は助けに行かねえからな!』
「捕まっておいてそれ言う!?自分をエリートだと思ってるの!?子供に負けるような子が偉くでかくなったもんだね!そんなに殴られたいの!?」
んだと!と怒りを隠せずヒナに摑みかかる。が簡単に避けられる。
『俺はみんなと居たいんだ!誰にも欠けて欲しくないんだよ!その為の努力をなんで否定するのさ!』
「否定じゃない!自己犠牲が気に食わないの!みんなと居たいって言うならそうなるようになんで努力しないのさ!」
『俺は自己犠牲しているつもりはないし、入れる時間が増やせるようにしようとしているだけだ!なんでもかんでも自己犠牲って括りに入れるなよ!』
「キュウもやめろよ・・・」
「ヒナお姉ちゃんもだよ」
2人が俺たちの間に入って距離を置こうとするが、関係ない。逆に言葉の勢いは強くなる。
『相談する俺が悪かったな!勝手にやらせていただきます!』
「ええどうぞ!勝手にして!もう知らないから!」
ヒナは走って家を出て行った。俺も誰にも関わりたくなったので部屋に戻った。
階段の途中でシラヌイに止められる。イサリビはヒナを追ったようだ。階段を上がっている途中でその音が聞こえた。
「キュウ、さっきのは良くない」
『またああなる可能性がないわけじゃないのは分かってる。けどせめてこの国からJPPを出さないと、また狙われる。目的が分からない以上俺たちが関わらなくて済むような状況にならないと不安だ』
「ヒナさんだって私だってイサリビだって分かってる」
身体をシラヌイと向ける。
『じゃあなんで否定するのさ』
「分かってるからって理由でお前は家族を危険な場所に連れて行きたいと思うか?私は嫌だな」
『だが動けるのは俺だけだ』
「それだけか。それにそれは回答になってない。私は連れて行きたいと思うかと聞いている」
『だから俺1人で———』
「ちゃんと答えろ!他のみんなが行けない。行かなきゃ行けないって勝手に決めるな。じゃあなんだお前は家族に周りに死ねと言われたら死ねるのか?」
『そう言うわけじゃないが・・・』
「結局お前は自分が何か理由をつけてるだけ、本音は違うだろ?」
『本音はもう言ってるだろ』
「何も出来ずただ家にいるのが嫌なんだろ。JPPの事なんて二の次で』
違う。そう言いたかった。でもゲームで暇になっていたのは事実。それが実際はシラヌイの言う通り家にいるのが嫌という意味だったのか。
「自分で自分の気持ちが分かってなかったようだな」
『シラヌイ・・・・・・』
「けどなキュウ。お前は何も出来ていないと思ってるが、私たちからすれば・・・・・・いや、ヒナさんからすればお前が無事に生きてることが彼女の願いなんだ」
『・・・・・・』
「お前の傷は生きているのがおかしいものなんだ。処置無しの右目に身体全身の傷。それを補うための義手義足。無事だった左目だってほぼ機能していない。今までなら怒りはするものの、否定はしないさ。だがこれだけの怪我をして行っていいよって言えるか?」
『・・・・・・』
言えない。俺が同じ立場なら言えない。
「流石にヒナさんが行くって言ったことには驚いたが」
『ヒナも俺と同じように家族を守りたかったのか・・・?』
「お前だけが家族を守りたいわけじゃない。それが分かった上でもう一度考えてみろ」
『・・・・・・そうだな』
「ヒナさんは私たちに任せろ。お前はゆっくり落ち着いて、その上で動いてみろ」
『ああ』
そう頷いた俺は部屋に戻るとベッドの上に横たわる。
・・・やっぱり俺は馬鹿だな。何も見えてない。家族なんだから助け合うのは当然だ。
明日もう一度話そう。分かった上で納得させるために。