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鬼手仏心  作者: グレース会
2/2

分からなかった

誤字脱字はお許しください

少年が剣の訓練から帰宅すると街はすでに崩壊の一途をたどり住人達は冷静さを失い、ただ崩れゆく建物に飲み込まれる家族や恋人を涙ながらに見ることしかできなかった。中には死別を嫌がり共に死のうとする者もいたが空から舞い降りるドラゴン達に慄き、ただ現実から逃げることしかできなかった。ドラゴンは口から火を噴き街を燃やした。

しかし全ての人間がそうだったわけではない。ドラゴンに立ち向かう者達も確かにいた。その少年もその者達の一人だった。片手には先ほど父親から譲り受けた自分の背丈ほどの大剣を引きずるように崩壊する街の中に進んでいった。止める者は一人とていない。何故なら彼にはドラゴンをかつて止めた男の血が流れているからだ。

その少年は一匹の白いドラゴンの元へと行き、目に涙を浮かべながら叩きつけるように叫んだ。

「俺の父さんどこいった! お前知ってんだろ!? どこにいんだよ! 答えな!」

まだ扱い慣れないその大剣を構え少年は白いドラゴンを睨みつけた。するとドラゴンは少年を見、ドラゴンは身体を傾けたがその行動は少年の怒りに油を注ぐだけだった。


「お前の行動に全ての者が好意を示すわけではないのだぞ」


少年がその相手の方を見ると背丈も体格もマントに隠れ素性が見当もつかない人が、確かに少年の父親を蹴り飛ばしていた。蹴り飛ばしていたといっても力がないのか父親が揺れるだけである。それでも血まみれの父親にはかなりのダメージが与えられているだろう。それを見た少年は足を動かさずにはいられなかった。慣れない大剣を掲げ人を斬りつけようと剣を振り下ろした。するとドラゴンはその人を守るように飛び、気づけば少年の前からドラゴンと人は消え父親だけが残った。


少年が父親に駆け寄ると父親は少年の手を握り苦しそうに語りかけた。

「ドラゴンは悪くない。悪いのは我々人類なんだよ。森を削り、海を汚す我々がいけないのだ。それを心に留

めておくのだ。さっきのお前の半分にも満たないであろう少年も悪くない。彼はもう人ではない。だから我々が悪いのだ。怒りに身をまかせるなんてことはするな。これは遺言だ。」


そう言って父親は息絶えた。少年の手からスルリと抜け落ちる父親の手を、少年は掴み直すことはなかった。父親との別れよりも少年の心には、父親を蹴飛ばした少年を捕まえ理由を聞き蹴飛ばし返すことしかなかった。少年は父親を悲しそうに見つめ、その場を後にした。


しばらくの間街の人々は街の復興に大忙しだった。ドラゴンを使えばあっという間に終わるのだが、再び敵対した彼らに話しかけることのできる人間などいなかった。数週間前までは確かに友好的な関係だったのだ。多くの者が契約し楽しい日々を過ごしていたのだ。なのに突然ドラゴン達は姿を消した。そしてまた帰ってきたかと思えば街を破壊していった。誰もが空を舞うたくさんのドラゴンに一瞬頬を緩めた。しかしそのドラゴン達が火を噴くと人々は困惑しすぐに行動に出れた者はすくなかった。むしろいなかったと言っても過言ではない。


この少年もドラゴンと契約をしていた。ドラゴンとの契約は基本親が生きているうちは親の許可が必要なのだが、少年は許可を得ずに契約していた。少年とドラゴンは秘密の関係だあった。街の者達が復興に勤しむ中少年はコソコソとドラゴンに会いに行った。街からドラゴンが消えた日も少年のドラゴンはいつもの場所にいた。少年のドラゴンは生まれつき翼が弱く自身の大きな体を浮き上がらせることができないのだ。


少年がドラゴンのいる洞窟に着くなり少年は眉間にしわを寄せ、頭に血が昇るのを感じながらも岩陰に身を潜めた。そして静かにその会話を聞いた。


「僕は見ての通り翼が効きません。だから君の望むような結果は出せません。」

「僕は…君のような諦めた姿がとても嫌いなんだ」

「ごめんなさい…でもここを離れたくはないんです」

「なぜ誰も僕の手をとってはくれないんだ」

「我では不満か?」

「僕の優しさの話さ」


洞窟の中ではあの日の白いドラゴンと布をかぶった子供と少年のドラゴンがいた。ここには誰も通したことはなかった。だから誰かが告げ口したとかはあり得ない。それにここはかなり入り組んだ谷底で人なんて好んで入ったりはしない。ましてやドラゴンなど不可能に等しい。なのになぜ奴らがここにいるのだ。少年は不思議で仕方がなかった。


やがて声は聞こえなくなり、静寂が訪れた。すると一瞬少年の目の前を白いドラゴンとその上に乗る子供が通り過ぎていった。少年はそれを見ると全速力で自分のドラゴンの元へと駆けた。ドラゴンは少年を見ると安心しきった顔をした。

「アミュレット! あぁ! 心配したよ」

アミュレットはドラゴンの顔に抱きつき頬を滑らせた。

「ごめんよ。ジェントル。街が大変なことになっていて…。」

アミュレットがそう言い街であった出来事を一通り説明するとジェントルは気の毒そうな顔をしてアミュレットにそっと尻尾を回した。二人にとってこの形はお互いに安心する物だった。


アミュレットはジェントルの尾に腕を伸ばしそっと涙を流した。

「俺、本当に父さんの子供かな。俺、あの子供のこと本気で攻撃できなかった。ずっと避けてくれって思っていた。こんなんじゃ、俺ドラゴンとの平和を取り戻せないよ」

ジェントルは何も言わなかった。


ジェントルの身の安全を確認するとアミュレットは街の人々に怪しまれぬように、早足で家路に着いた。もっと話したいことがあったがジェントルが妙に帰りを急かして来た。


アミュレットは街に着くと人々の仕事の早さに驚いた。ドラゴンの裏切りにかなりのショックを受けているはずなのに修復はほぼほぼ終わり、あとは電気や水を流すだけとなっていた。人々の顔には笑顔も垣間見得ていた。そのままアミュレットは自宅へと向かった。あの日半壊し父が死んだ自宅はもうすっかりもと通りになっていて、父親の死を夢であったかのように思わせた。


しかしアミュレットがドアを開け家に入るとその夢がやはり夢であることを示した。ただいまに対する返事はなく、茶の間の机の上にはメモが置いてあり後日合同葬式を行うことが書かれていた。そして視界の端に映る床に敷かれた布団とその上に眠る父親がいた。アミュレットはしばらくそれをただただ無言で見つめたが、やがて父親に抱きつくように泣いた。


アミュレットの父親は本名をイルーシェン、皆からはプレゼントと呼ばれていた。生まれは比較的裕福な家で三人兄弟の末っ子だった。あまり仲は良い方ではなかったが、それぞれに秀でた才能があり人々は三人を慕った。イルーシェンは肉体が秀でていた。これは兄たちの才能と比べれば魅力に劣るがそれでも兄弟の誰よりも街の人々の役に立った。土嚢を運び、土を掘り、木を切った。

そんなイルーシェンは25の時に友達と共にドラゴンの住む濃い霧の森へと探検に出かけた。イルーシェンは乗り気ではなかったが友人の押しに負け、護身用の斧を持ち友人を守るつもりで行動を共にした。

二人が森の奥へと進むとやがてドラゴン達が見えてきて、一匹のドラゴンと目があった。ドラゴンは全て火を吹くわけではない、ということを二人はまだ知らず目を合わせたままでいた。


そのドラゴン、催眠を司る者であった。


イルーシェンは微動だにしない友人に目を向けたことによってドラゴンの催眠から逃れたが、友人はドラゴンを見つめたままで催眠にかかってしまった。催眠にかかった友人はそのままフラフラとドラゴンの方へと歩いて行った。勿論イルーシェンは友人を追いドラゴンの元へと走ったが何故かいくら走っても友人にたどり着くことはなかった。そして気がつけはイルーシェンはドラゴンの森の中央付近に来ていた。

ただでさえ濃い霧はそこに来てより一層濃さを増し、視界を奪った。一寸先も見えぬほど濃い霧の中で突如霧が開け一匹のドラゴンが現れた。先ほどのドラゴンとは違うドラゴンで明らかに長年を生きていた。そのドラゴンはイルーシェンを今にも噛み殺さんとする目で睨みつけ鳴いた。イルーシェンは蛇に睨まれたカエルのごとく縮こまった。


「貴様か。我々の住処を破壊するのは…? 初めて見る生き物だ」


初めて人類とドラゴンがあったのはこの時であった。今まで伝説でしか語られなかったドラゴンをイルーシェンと友人はその目で見たのだ。友人がどこへ行ったのかイルーシェンが尋ねるとドラゴンは返事をしなかった。それにカチンときたイルーシェンは自分の背丈ほどの斧を構えた。するとドラゴンはそれを宣戦布告と取りまた鳴いた。すると森は一気に晴れおびただしい数のドラゴンが空を飛ぶのをイルーシェンは確かに見た。そして確かに斧をドラゴンに向かって振りかざした。しかし、次の瞬間彼がいたのは病室前。しばらく呆然としていると病室から今生まれたばかりであろう赤子を抱いたナースがいた。


イルーシェンは直感でわかった。それが自分の子供であること、ドラゴンに勝ったという事実を。


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