プロローグ
「そんな貧相な体で我の半身になりたいと言うのか」
そびえ立つ大岩の上から全身に光を浴びる白いドラゴンが、先ほどの攻撃でもはや意識も絶え絶えな赤黒いドラゴンにそう小馬鹿にするように言い放った。
ドラゴンがドラゴンと契約し命を共有することはさほど珍しいことではなかったが、主にそれは伴侶や配偶者になることを示していた。つまり、互いに相思相愛でまさに命をあげても構わないと思う相手とだけドラゴンは同種族と契約するのだ。別種族との契約とは意味の重さがまるで違うのだ。
赤黒いドラゴンは頭を下げたかと思えば口を開き中から血まみれの子供をゆっくりと吐き出した。出てきたその子供は3歳かそこらの幼さで生々しい傷はなく、身体に付くその血が少年のものではなく赤黒いドラゴンのものであることを物語っていた。子供は少しおびえた様子で赤黒いドラゴンの足にすがるようにしがみついた。しかし赤黒いドラゴンは子供の襟元を噛み白いドラゴンからその子供が見える位置に置いた。子供は悲しい顔をしたが抵抗はしなかった。
「私ではない。この子供を貴台の半身にしてやってほしい」
赤黒いドラゴンがそう言うと周りを飛び交うドラゴンが笑い出した。しかしそのドラゴンは真剣そのものの表情で、笑うドラゴンなど見えず聞こえずの様子であった。白いドラゴンも先ほどの悠々たる表情とは変わり子供を見定めるように見つめた。しばらくするとその変わった白いドラゴンの雰囲気に周りも気がつきやがて元の静寂が帰ってきた。するとその静寂を待っていたかのように子供は立ち上がり白いドラゴンを睨みつけた。それに応えるように今度は白いドラゴンが子供に向かって渾身の力を込め吼えた。その声に周りのドラゴンや赤黒いドラゴンは興奮気味に身体を動かした。何匹かは恐怖で逃げ出した。しかし子供は先ほどと変わらず、鋭い眼光で白いドラゴンを睨みつけていた。
「しかしこの身体では代償が払い切れぬぞ。我との契約にはそこらのドラゴンとは比べものにならないほどの代償が必要だ」
白いドラゴンの言葉に赤黒いドラゴンは進み出た。そしてその行動にやや心配を抱き始めた子供を尻目に流れるように白いドラゴンを見た。白いドラゴンはその意味を理解し再び口を開いた。
「貴下の意志と覚悟しかと受け取った。その子供、代償は軽く済むであろう。さぁその命我に差し出すが良い」
赤黒いドラゴンは子供の顔に尾を撫でるように走らせると、その身体からは想像もできないほど立派な声をあげ吼えた。すると周りに残っていた僅かなドラゴンたちも共鳴し光る魂が赤黒いドラゴンから浮き上がり白いドラゴンの中へと吸い込まれていった。子供からも白い光が浮き上がり白いドラゴン元へと吸い込まれていき、光を吸い込んだ白いドラゴンの身体と子供の身体の同じ場所に紋章が現れた。
「これでお前と私は契約者よ」