223.新たなる世界へ
俺達への民間軍事会社の襲撃。
それらの事件は、親父の協力者だった祇堂修が疑心暗鬼に陥って引き起こしたものだった。
町中でトラックを爆発させ、派手にライフルをぶっ放し、手榴弾を爆発させたとんでもない事件だったが、幸いなことに俺達以外に被害者がでなかったこともあり、俺は兄貴や九条家に手を回してもらって事件自体を隠蔽してもらうことにした。
あの騒ぎは実際に目撃もされていたのに、許可なしの映画の撮影なんて話で誤魔化してしまう兄貴には驚いた。
捕縛された祇堂や、民間軍事会社の生き残りは戸籍を抹消して、こちらで有効活用させてもらうことにした。
まあそれはそれとして、俺達は日本に滞在している間に結婚式を上げることにした。
こういうことは、形だけでもしっかりやっておいたほうがいいと久美子に言われたのだ。
嫁がたくさんいる結婚式など重婚が認められない日本でできるのかと思ったが、結婚式場は意外とそういうことは気にしないらしい。
「似合うじゃないか、瀬木」
青いウエディングドレスを着て現れる瀬木を見て、俺は褒める。
「もう、言わないでよ」
まんざらでもない様子で、頬を赤らめる瀬木。
これが見たかったから、慣れないタキシードを着て結婚式なんて面倒なものも了解したんだしな。
「もう、真城くん。私も褒めてよ」
「ああ、お前達もよく似合っているよ」
みんなが着ているウエディングドレスは瀬木の母親がデザインしたものだ。
デザイナーが本業らしく、どうしても娘にウエディングドレスを着て欲しかったらしく、夢が叶ったと喜んでいた。
「旦那様。ちゅーするデス。ちゅー」
「ほらよ」
もうすぐ出産で大きい腹をしているウッサーがキスを求めてきたので、思いっきりしてやった。
ちょっとでもためらうと、からかわれるのが目に見えてるからな。
まったく幸せそうな顔しやがって、そんな顔をされるとひねくれ者の俺はやらなきゃよかったって気にもなってくる。
「真城くん。恥ずかしがらなくなったわね」
ちょっとつまらないわと、久美子が笑う。
「ふん、俺もいつまでもお前らにやられっぱなしじゃねえってことだ」
俺達は、そう言うと結婚式場の教会へと連れ立って行くのだった。
※※※
身内だけのささやかな結婚式が終わり、俺はその足で青白い星幽門がある駅ビルの地下へと向かう。
モンスターにめちゃくちゃに破壊されてしまったここを急ピッチで改造してもらい、今は牢獄が設えてある。
ここには、祇堂や生き残った民間軍事会社の連中を幽閉している。
俺がやってくると、鉄格子を掴んで祇堂は叫ぶ。
「おい真城、僕達をどうするつもりだ!」
「お前らは俺の命を狙ったんだから、死んでもらうよ」
「なんだって……」
青ざめる祇堂に、俺は笑う。
「安心しろよ。ただで殺すほどつまらんことはない。生きられる目は残してやる」
「どういうことだ!」
「お前らが俺の親父に協力して開いた『ゾロアリング』は知ってるだろ」
「異次元に繋がるゲートか」
「そうだ。異世界に広がるゲートからは、たまに奇妙な異世界生物が来るんだよ。その先に何があるか誰にもわからん」
俺がそういっただけで、知能が高く疑い深い祇堂は、ガタガタと震えだした。
「お前は、僕達を実験動物にするつもりだな!」
「そうだよ。察しが良いな。お前らは、この未知のゲートの先に行ってもらう。ただで死ぬよりはいいだろ」
「嫌だ! やめてくれぇ! あんな目に合うくらいなら死んだ方がマシだ!」
ジェノサイド・リアリティーを経験している祇堂だからこそ、異界の恐ろしさはわかっているのだろう。
この先のゲートの世界がどうなっているかわからない。
おぞましいモンスターが暮らす世界だ。
おおよそ人間にとっては地獄だし、飛び込んだ瞬間に大気が人間に適しておらず窒息死する可能性だってある。
そんなゲートに飛び込めというのは、死ねと言うに等しいから志願者なんていないだろ。
だからこそ、こいつらのようにすでに戸籍が抹消されて死んでいるはずの人間がいるのはとても都合がいい。
ニャルなんか送っても、すぐ死ぬだけだからある程度訓練を受けた実験体が欲しかったところだ。
まさに、渡りに船といったところだろう。
「一人で死にたいなら、そこで勝手に首でもくくって死ねよ。最初から生き残る気がないやつは、実験動物にする価値すらない」
「悪魔め……」
俺を恨めしげに睨む祇堂修。
それに、俺は笑って言う。
「少しはいい顔になったな祇堂。お前のやる気がでるように、いいことを教えてやるよ」
「なんだよ!」
「お前が従っていた神宮寺良は、喜んでそのゲートの先の異界に行ったよ」
「……神宮寺さんが?」
「そうだ。俺がジェノサイド・リアリティーの王になるなら、あいつは異界の支配者になると宣言して喜んで飛び込んでいった」
「……」
「お前らはここに居てもどうせ死刑だ。異界に行ってでも生き延びる覚悟があるやつには、装備などできる限りのサポートはしてやる。この先に何があるのか、俺達も知りたいんだからそうするのは当然だ」
「……」
「神宮寺はそんなサポートもなしで、何の保証もないのに一人で飛び込んだんだ。神宮寺は俺の敵だが、俺は敵としてあいつを認めている。祇堂修、お前はどうするのか。そこでしばらく頭を冷やして考えてろ」
牢獄の隅に座り込んで黙り込んでしまった祇堂を見て俺は笑うと、俺はしばらくそっとしておくことにした。
何の覚悟もなく行っても無駄に死ぬだけだ。
地獄で生き残る覚悟があれば、そう簡単にはくたばらないし、貴重な情報を持ち帰ってくれることだろう。
俺も今の生活に飽きたら、異界に行くつもりだしな。
そのためにもまずは、こいつらを利用してまず異界を調査してもらうことにしよう。
俺が再び、未知の世界に飛び込むために……。
その時に、こいつらが敵となるのか味方となるのかはわからない。
だが、俺と同じように好き好んで危険に飛び込める人間がいるおかげで、これからも退屈だけはしないで済みそうだった。
特別編 完結
というわけで、特別編はこれで終わりです。
四話くらいかなあと思ったら、思ったより長くなってしまった。
ジェノサイド・リアリティーの2巻も出たしあとは続きが出せるくらい売れるように祈るばかりです。
他の作品も頑張りつつ、3巻、4巻と出せるように作者はこれからもがんばっていきます。
3巻ができるとなったら、また宣伝に特別編やります。
またぜひジェノサイド・リアリティーで皆様にお会いできることを祈って筆を置きます。





