222.首謀者
おうおう、こりゃまた派手にやってる。
見覚えのある大型トラックが、道の真ん中で横転して爆発炎上していた。
「これ、あいつらがやったのか」
久美子の言う民間軍事会社の連中。
黒い軍服を着た男達が、そこら中に倒れている。
パンパンパンパンパン!
乾いた銃声や、激しい爆発の音。
町中でライフルを撃ちまくっている。
こんだけの騒ぎになってなんで警察が来ないんだよ。
まあこんな状況だと、警察程度ではどうにもできないだろうけど。
しばらく見ない間に、日本の治安無茶苦茶になってきてんな。
「真城くん。あっちよ!」
住宅街の開けた場所、公園に出る。
そこでは、ウッサーやアリアドネが戦闘を繰り広げていた。
「まったく、俺の分を残しておけって言ってるだろ!」
俺達の前にも、黒い軍服を着た男達が殺到する。
「死ねえ!」
抜刀しながら、ライフルを乱射している軍人の腕をたたっ斬る。
それだけで終わらない、身体を回転させながら一刀のもとに二人目も斬り捨てる。
「骨のあるやつはいないのか。止まって見えるぞ」
こいつらはせいぜい名人程度ってところだろ。
弱くてダメだな。
銃という射線をずらせば何の意味もない武器を使うことしか考えない。
しかも、同士討ちを恐れて懐に入り込んでしまえば躊躇してしまう。
その一瞬の躊躇が、殺し合いでは致命傷なのだ。
俺が銃を物ともせず斬り捨てたことで、狼狽えた周りから次々に叫びがあがる。
久美子が、後ろからクナイを投げて無力化している。
すでに先行する超越者クラスのウッサーとアリアドネが暴れまわったせいで、敵はすでに防戦一方になっている。
雑魚は久美子に任せて、俺は敵の囲みの中心に向かう。
「真城来たのか!」
足早にやってくる俺を見てそう叫んだのは、どこかで見覚えがある若い男だった。
細面の青白い顔をした神経質そうな男だ。
「お前は、誰だっけ……」
「僕は、祇堂修だ!」
「そうだった。そんな名前だったな」
神宮寺良の腰巾着だった男だ。
名前を覚える価値もないと思って放置していたが、俺に歯向かう程度の覚悟はあったのか。
「僕を殺すつもりだったんだろ! 殺られる前に先に殺ってやる!」
血走った目でこちらを睨みつけ、そんなことを叫んでいる。
殺すもなにも、今まで名前すら忘れていたんだが。
「親父にジェノサイド・リアリティーの道具を渡したのはお前だな?」
「そうだ! 僕がやった!」
なんで悪人って、こういう時になるとペラペラ話すんだろうな。
まあ、今更隠してもしょうがないってことか。
親父にあんな真似ができたのは、開放して日本に戻したクラスメイトの中にジェノリアの道具を渡した協力者がいるということだ。
この祇堂修が、その犯人だったってわけだ。
元から疑い深い性格の祇堂は、親父の作戦が失敗して俺達が日本に戻って来たら、自分も殺されると疑心暗鬼に陥った。
そこで親父の勢力が残した金とコネを使い民間軍事会社を雇って、今回の騒ぎを起こしたというところだろう。
大人しくしてれば殺すことは考えてなかったんだが、こうやってこちらに攻撃を仕掛けてきたんならやるしかねえよな。
俺は笑って言う。
「それで、お前は追い詰められたわけだが、どうするつもりだ」
すでに祇堂の雇った民間軍事会社の連中は、みんな倒されている。
「僕が何の意図もなくこんな騒ぎを起こしたと思うのか。追い詰められたのはお前の方だ真城!」
「ほほーう」
楽しいことを言ってくれる。
あたりの軍人を軒並み倒したウッサーとアリアドネに、俺は目線を送って待てと指示した。
「これを見ろ!」
祇堂が、ジャケットを抜くと身体にダイナマイトを括り付けていた。
「これは面白え。自爆覚悟かよ」
「ダイナマイトは、これだけじゃないぞ! この公園に山程仕掛けてある。僕に手を出せば、この辺り一面は木っ端微塵だ!」
俺は、振り向いて言う。
「おい久美子。瀬木の家を守ってやってくれ」
「それはいいけど。大丈夫なの?」
「俺があんなもので死ぬかよ。ウッサーも、アリアドネもだ。早くしろ!」
三人を急かして、俺は祇堂と二人になる。
「これが爆発したら死ぬのは僕だけじゃないぞ! みんな道連れだ!」
「やるじゃねえか。青瓢箪のお前にもそれくらいの覚悟はあったってことか、認めてやるよ祇堂」
「近づくなぁ! それ以上近づくと爆発させるぞ!」
俺は血糊を拭いてゆっくりと刀を鞘に収めると、起爆スイッチを持って叫ぶ祇堂にズカズカと近づいていく。
「やってみろよ」
「はぁ? 話を聞いてなかったのか。このスイッチを押したら、お前も一緒にダイナマイトで吹き飛ぶんだぞ!」
「望むところだ。ダイナマイトの爆発に、俺の抵抗値が保つか試してみたいと思っていた」
「頭おかしいのかよ! 死ぬかもしれないんだぞ!」
「ハハハ、むしろ正気でやってられるかよ。祇堂、お前だってあの地獄のようなジェノサイド・リアリティーを共に戦った仲間だろ。かつての仲間のよしみで、一緒に吹き飛んでやるから、さっさと押せよ」
ジェノリアに一度落ちている俺達が死んだらどうなるんだろうな。
そのまま終わりなのか。
それとも奈落の底。ジェノサイド・リアリティーⅡの世界にいけるのか。
自分の命を危険に晒す。
この瞬間だけに、俺は生きてるという感覚を得られる。
「ふざけるな! 俺とお前だけじゃない! このダイナマイトが爆発すればこの辺り一帯の人間もみんな巻き添えで死ぬんだぞ!」
「だから、やってみろよ。さっき、久美子達には指示を出したから、ウォールの呪文で瀬木の家を守りながらすぐにも避難させるだろ。他は、誰が死のうが俺の知ったことじゃない」
瀬木の家族は守るが、顔も知らん人間のことまで俺は知らない。
「お、お前本気で言ってるのか。ヒィィィ!」
俺は、祇堂の腕を掴んだ。
「それは俺のセリフだよ。まさか、ここまでやらかしておいて爆破させないなんてつまらねえことは言わないよな。ほら、さっさと押せよ」
「やめろ! やめてくれぇ!」
祇堂は、ガタガタと震えてズボンを濡らした。
ションベンを漏らしやがったか。
きたねえが、まあよくあることだ。
「おい、お前のせいで何人死んだよ。今更これはねえだろ?」
「僕が悪かった。許してくれ……」
祇堂は、起爆スイッチを取り落とすとその場にへたり込んだ。
この反応を見ると、起爆スイッチは本物ってことだな。
爆発しないように、きちんと確保しておかないと。
「全く、これだけのことをやらかしておいて、しまらねえ終わりだな祇堂」
俺が煽ってやっても、青ざめるを通り越して真っ白い顔になった祇堂は俯いたままだ。
最初は身体を激しく痙攣させていたが、やがて気絶したらしく反応しなくなった。
ようやく警察が来たのか。パトカーのサイレンの音が公園まで鳴り響いてきた。
どうやら、時間切れのようだ。
死ぬ覚悟がないならないでいい。
どちらにせよ、こいつらには俺達を襲った落とし前を付けさせてもらう。
次回特別編最終回は10月3日(土)に更新しようと思います。
紙の本ほうがだいぶ見つかりにくく、探してくださった方も多く居たと聞きました。
ご迷惑をおかけしたのが申し訳ないとも思いますし、そこまでしてくださって本当にありがとうございます!





