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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
特別編「日本その後」

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218/223

218.日本の地上

 地下二十階から地下七階まで階段を上がったのだが、その間に敵は一切出てこなかった。

 殺された人間の他にも他のモンスターも居た形跡はあったのだが、どうやらオーティラスと殺し合ってやられたようなのだ。


 マザーオーティラスを俺が最初に倒してしまったので、残敵はゼロで拍子抜けした。

 ジェノサイド・リアリティーのように、モンスター同士が殺し合わないというルールがなかったから起こった現象。


「なんだ、もう地上か」


 しかし、地上に出ても警戒を怠ることはできない。

 外の様子も酷いものだった。


「周りの建物も、ボロボロね」


 久美子の言葉に、俺も頷く。


「ああ……」


 人間に寄生したのか、人型オーティラスの死体がそこらに転がっている。

 こいつらがやったのか。

 

 それとも外にもっとモンスターがいるのか。

 その時だった。


 強い殺気を感じて、俺はさっと顔を背ける。

 その瞬間、チュンッと音を立てて俺の頬を何かがかすめた。


最終アーク イア 飛翔フォイ

 俺は反射的に、最大級の火球ファイアーボールの魔法を放つ。

 向かいのビルで巨大な爆発起きた。


「ワタルくん、いきなり何?」

「狙撃だったな。うん……ライフルかなにかで狙撃されたので、反撃した」


 俺は、アスファルトに空いた穴に切っ先を突っ込んで、弾を掘り返す。

 形状は、やはりライフルの弾だ。


 アスファルトにめり込んで、そのままの形状を保っているところを見ると、かなり強化された弾のようだ。

 向かい側のビルから狙撃されたので、俺は反射的に狙撃手に向かって炎球ファイヤーボールを放ってしまった。


「ワタルくん、派手にぶっ壊れてすごい勢いで燃えてるわよ」

「あー、まあバレなきゃいいだろ」


 外壁がボロボロに崩れているビルに、すでに人がいるとは思わない。

 狙撃してきた敵は、確実に俺を殺そうとしてきたのだから敵だ。


 人間であろうが、敵がどうなろうと知ったことではない。

 最強の炎球ファイアーボールをぶつけたので、すでに死んでると思うがな。


「ともかくこれで、人は生きてるってことはわかったってことかしら」

「まあ、とりあえず進んでみようぜ」


 俺達が出てきた駅前のビルから、ちょっと進むとバリケードで封鎖されているのが見えた。

 でかいジープが並んでいて、なんと中には戦車まである。


 装備を見ると自衛隊のようだな。

 通路を歩いている俺達を見かけて、年配のいかにもベテラン軍人といった風情の迷彩服の男が、メガホンで話しかけてきた。


「君たちは人間か?」

「ああ、そうだ」


 こっちにいきなり攻撃を仕掛けてくるような殺気がないので、警戒しつつ俺が大声で叫び返してやると、向こうは怒鳴り返してきた。


「そこで何をやってるんだ! 立ち入り禁止区域なんだぞ! 危ないから、さっさとこちらに来なさい。……えっ、ああ、精密検査の必要もあるそうだ。まず医療テントに入ってくれ」


 何やら若い白衣の男と、迷彩服の男が相談しながらこっちに言ってくる。


「その前に聞きたいが、さっきライフルで狙撃してきたのはお前らか!」

「狙撃だと! 我々は専守防衛だ。警告なしの先制攻撃などありえない!」


「ふーん。まあいいだろう。そちらの言う通り、検査というのを受けてやろう。武装は解除せんがな」


 おそらくオーティラスに卵を植え付けられて人型オーティラスになった人間がいたのだろうな。

 それを警戒しているのだろうから、調べさせてくれと言われるのは理解できなくもない。


「ぶ、武装だと……妙な格好をしているが、君たちは一体。ああ!」


 迷彩服の男がキーンと、耳障りな音を立てた。


「うるさいな。近づいてやってるんだから、いい加減メガホンでしゃべるのをやめろよ」

「君は、もしや真城ワタルくんか。真城閣下の弟さんの」


 閣下ときたか。

 県議や県知事クラスを閣下とは呼ばないよな。


 どうやら兄貴は、俺の知らないうちにまた偉くなったようだ。


「そうだ。俺が真城ワタルだ。閣下の弟のな」


 これは面白い。

 自衛官に閣下呼ばわりされているとは、兄貴に会ったらせいぜいからかってやろう。


「大変失礼しました! いずれ弟さんが現れるだろうというご連絡を受けておりました!」


 メガホンがなくてもうるさい士官だな。


「そりゃどうも。検査は前にもしたからしてもいいが、オーティラスの卵を植え付けられているかもしれないという心配はないぞ」

「あの化物は、オーティラスと言うのですか?」


「そうだ。あとで調べてくれればいいが、駅ビルの地下のオーティラスなら全部駆除したのでもう心配はいらないと思う」


 他にモンスターがいなければの話だけどな。

 俺がそう言うと、「そ、そうですか」とだけつぶやいた。


 その場で軽く説明を受けるが、突如地下から湧いたモンスターに対して自衛隊はここで包囲して喰い止めていたそうだ。


「モンスターの駆除は考えなかったのか?」

「ビルの中では大型の兵器は使いにくく、犠牲が大きすぎたので」


「それもそうか、いい判断だ」


 戦車なんかは強力そうだが、建物内での戦闘には向いていないだろう。


「建物を壊すわけにもいかないし、こうして周りを包囲していれば『いずれ弟が片付けてくれる』と閣下がおっしゃっておりましたので、こうしてお待ちしておりました」

「そうか」


 俺が親父に勝つと信じてくれてたわけか。

 簡単な検査を終えると、久美子たちは久しぶりに家族のところに向かうこととなった。


 俺も兄貴に会わせると迷彩服の男に言われて、ジープに乗り込んでひた走る。

 ウッサーとアリアドネの異世界コンビは、俺に付いてきている。


 パトカーまでやってきて交通規制して俺達を通してくれて、無人になった道路をひたすらぶっ飛ばしている。

 途中で出た弁当も、凄まじく豪勢な物が出た。


「やけに待遇がいいんだな」

「はい、閣下の弟さんですし、異世界の件についてもお尋ねしたいことが山程ありますので。あっ、ここからは軍用ヘリでいきます」


 ヘリコプターまで出してくれるのか。


「ご主人様、この鉄の塊は空を飛ぶのですか!」

「そうだ。車より速いからな」


 日本の機械文明が好きなアリアドネは、自動車は見たことがあるが、空を浮かぶ乗り物は初めてだと大いにはしゃいでいる。

 普通、飛行機とかヘリコプターとか初めての人は怖がるんじゃないかなとも思ったが、よく考えたら天翔ける風の民だった。


 そりゃ平気か。


「旦那様の国はすごいんですね」

「ウッサー、お前もヘリコプターは平気か?」


 一応妊婦なので気遣ってやる。


「こんなのラビットボールの試合に比べたら、大したことはないデスよ。これくらいの高さなら落ちてもお腹をかばって着地できマスし」

「お前の国の謎競技、どんな過酷なスポーツなんだよ」


 ふたりとも、ちょっとした観光気分のようだ。

 のんきなものだと微笑ましくなるが、思ったより日本に被害がなくてホッとしている。

 

 待遇が良い分には文句はないが、ここまで物々しいと怪しくも思えてくるな。

 俺達は異世界から来てる賓客だから、これぐらいの待遇をするのはわからなくもないんだが……。


 少しこちらから探りを入れてみるか。


「こっちも聞きたいことはある。異世界の件はこちらではどうなってるんだ」

「はい、一応機密になっております。私ども密命を受けた政府関係者は知ってます。一般人レベルではまだ知られてませんし、今回のような事件もあって情報公開も時期尚早であろうと……米国の方でもそのようです」


 なるほど。

 日本とのルートが開き次第、異世界ムンドゥスに置き去りになっているリリィナたち特殊攻略部隊ブラックジャケットの面々も母国に返してやろうと思っていたが、それなら交渉はスムーズにいきそうだ。


「モンスターの件は、日本ではどうなってるんだ」


 今回の事件の被害を俺のせいにされていても困るので、それも確認しておかなければならない。


「はい、某国のテロによる生物兵器の攻撃というカバーストーリーを発表しています。今やそれで日本中蜂の巣をつついたような大騒ぎですよ」

「それって大丈夫なのか?」


 モンスターよりも大問題になりそうだが……。


「木を隠すには森の中です。そのせいで様々な憶測が飛んで、荒唐無稽とも思える異世界ムンドゥスの話は陰謀論の範疇に収まっております」

「ほう、上手くやったもんだな」


「報道規制といっても、日本は自由主義国家です。マスコミの追求を止められるわけがないので、それなら逆にもっと大きな騒ぎにして誤魔化してやれというのが真城閣下のお考えのようです」

「実に兄貴らしいやり方だ」


 エリートコースを歩んできた甘いマスクの優男なのに、こっちが驚くようなとんでもなく大胆なことをやってのける。

 政界のフィクサーなどとうそぶいて、人影でこそこそと陰険な真似しかできなかった親父よりよっぽど優秀な政治家だと思う。

 

 どうせ今も、世の中をひっくり返すような面白いことをやっているんだろう。

 しばらく見てなかったこの世界のニュースを知るのが楽しみになってきた。


 俺は、なんとなく目を外にやって気がついた。


「なあ、さっきからどこに向かってるのかと思ったんだがあそこって……」


 東京の中心に向かっているようだからもしかしてと思うんだが、テレビで見たことがある建物が見えてきた。


「はい。このヘリの行き先は、貴方の兄上がおられる首相官邸です」


 迷彩服の男は、少しいたずらっぽく笑う。

 そうか、そういうことかよ。

 

 つまり閣下というのは、総理大臣閣下ということか。

 兄貴はどうやら、俺が思った以上に偉くなっていたようだ。

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[一言] 久しぶりに更新されてて驚きました! ありがとうございます!
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