209.過去の幻影
なんだ!
ダンジョンの奥から現れたのは……。
見覚えのある、黒ローブを羽織った赤く光る瞳だけがおどろおどろしい骨と皮のアンデッドだった。
創聖神の化身、ジェノサイド・リアリティーのラスボス。
「狂騒神が、なんでこんなところに!?」
多数の狂騒神達が俺に向かってゾロゾロと突進してくる。
さすがに不気味だな。
「ちぃ!」
今の俺ならば、かつてのラスボスがいくら現れようが敵ではない。
そう思い、目の前の一体を切り倒す。
神の化身ともあろうものが、これほど簡単に……と思ったら、違った。
俺が斬り殺したあとに残ったのは、サーベルタイガーだった。
しかも本体があったのはたった一匹で、残りは孤絶の刃を振るうと、一瞬で掻き消える幻影にすぎなかった。
「なんだよ……」
催眠の次は、幻影というわけか。
厄介な敵だ。
催眠は通用しなかったが、敵のイリュージョンは俺の目にも見えてしまうらしい。
「また、来やがったか」
今度は、バクベアード族の祭祀王ゴルディオイに、虎人族の祭祀王ガドゥンガンの幻影。
どうやら、俺の過去のの記憶から敵の幻影を見せてくるらしい。
「最終 放散 電光 飛翔」
ゴルディオイの幻影が撃ち放ってくる最終ランクの凄まじい電撃。
「チッ!」
虚仮だとわかっていても、避けない訳にはいかない。
ゴルディオイを倒すと、中身はマンモスで、斬りかかってくるガドゥンガンを倒すとやはり中身はサーベルタイガーだった。
どの攻撃が幻影で、どれが本物なのかすらわからない。
疲れる戦いを強いられる。
ただでさえ連戦で疲弊してるときに、まったくやってくれる。
敵の視点からいけば、これほど効果的な攻撃はないと言えるな。
そうとう知恵のある敵だ。
幻影に様々なバージョンの神宮寺が混じってるのには、苦笑されられるけどな。
そういえば、あいつはどこに行ったのだろう。
自分を使い潰そうとした洞主に復讐を誓っているらしいが、俺の味方になったわけでもない。
案外、このいやらしい攻撃が再召喚された神宮寺って線もあるな。
ともかくさっさと元凶を叩かなければ。
一目散に駆け抜けて、気配を追う。
敵を追ううちに、やがて鬱蒼としたジャングルも抜けてしまい……。
「ボスまで出てきてしまったか」
すでに雑魚とはいえ、やはり一般モンスターと階層ボスでは、まとっている空気が違う。
コーンと、甲高い声が響き渡った。
出てきたのはこの階層のボス。
凶獣、九尾の狐。
もちろん、アニメに出てくるような可愛らしいものではなく、全身が青い炎に包まれている不気味なモンスターだ。
まだボスの部屋ではないが、そこにいつの間にか近づいて、ボスの部屋から出てきた敵と対面してしまったようだ。
あるいは偶然ではなく、これも姿の見えない幻影使いの差し金か。
ボス自体が幻影の可能性もある、そう考えておいたほうが良い。
青い炎球が次々に飛んでくる。
長期戦をしている体力はない。
先手必勝と、俺は九尾の狐に斬りかかる。
もちろん、これも幻影かもしれないが、全部斬ればいいだけのこと。
ブンッと振りかぶって斬ると、やはり九尾の狐の姿は掻き消えた。
その勢いのままに、俺は高く飛ぶ。
俺のいた場所に、青い炎球がぶつかって炸裂した。
当たり前だよな。
実際の攻撃がある以上、階層ボスはここにいる。
そして、目の前に見えた敵が幻影だったんなら、それを囮にして攻撃してくるのは見えている。
つまり、階層ボスと幻影使いは組んで行動している。
「そこか!」
俺が飛んできた炎球から位置を逆算して、気配の濃厚な虚空を斬ると強い手応えがあった。
キャーンと獣の悲鳴が上がる。
幻影を見せる技術で、姿を隠すこともできるということか。
まったく次々と考えやがる。
「そこだ!」
九尾の狐の幻影などにもう惑わされない。
種が割れたのだから、向こうの炎球の攻撃を掻い潜って、見えない敵を斬る。
しっかりとした手応えとともに、ギャーと獣の絶叫が響き渡った。
後に残されたのは、首を斬られた狐の死体。
トリックの種さえ見えてしまえば、この程度の雑魚に俺が負けるわけもない。
「さあ、追い詰めたぞ」
結局、ボスの部屋まで来てしまった。
そこに待っていたのは、『幻術士の仮面』をかぶった小柄の男だ。
手には『催眠の杖』を持っている。
黄泉産のアイテムだな。
なんでこんなものを所持してるのかは知らないが、黄泉特有の特殊アイテムを上手く使う敵は厄介だ。
「ハァハァ……真城くん!」
「瀬木か!」
他の連中はまだ催眠やら幻影やらに惑わされていたが、どうやら俺に追いついたらしい瀬木が入ってきた。
「そいつ、アンデッドだよ!」
僧侶系を極めた瀬木がそういうのだから間違いない。
アンデッドなら、また性懲りもなく神宮寺って線は消えたか。
「またアンデッドかよ、まあ斬ってみればわかる!」
アンデッド相手に有効な祈りを瀬木が喰らわせてくれているうちに、俺は相手のアイテムを破壊することにした。
これ以上、味方を操られては厄介だ。
俺が刀を振るうと、敵の杖と幻術士の仮面割れる。
中から現れた姿に、俺は驚きを隠せなかった。
「……お前がどうしてここにいる。ロードナイト!」
割れた仮面から現れたのは、ロードナイトだった。
お前は、最下層で俺を待ってるはずじゃなかったのかよ。
次回3/11(日)、更新予定です。





