202.外の様子
ヴイーヴルは、破壊竜を一瞥するとこう言い出す。
「じゃ、ご主人。我がこの竜の心の臓を潰そう」
この巨大なドラゴンを相手にして、何気ない調子でそう言ってみせるのは自信があるからか。
ふーんまあいいだろ。
「じゃあ、俺は頭か」
俺たちがヘルスポーションなどで怪我を回復させながら、こうして話していられるのも、他の連中が牽制してくれているからだ。
再び完全回復したのか、破壊竜がやたらめったらと光のブレスを吐き始めた。
途端に辺りで、怒声と悲鳴があがる。
ヴイーヴルは破壊竜の胴体に飛び掛かっていって、炎の爪で切り刻みまくっている。
心臓だけを狙うなどという器用なことをしないヴイーヴルは、とにかく超スピードで硬い鱗を切り刻み、そのまま内臓ごと潰していくつもりらしい。
高い生命力を誇る相手には、むしろそれぐらい大穴を開けてやったほうがいいかもしれない。
巨体であるから、背中で暴れられると対処の仕様もないようだ。
これは、破壊竜もたまらないだろう。
「ハハハハッ、馬鹿でかいだけの竜など、我の敵ではないわ!」
おーおー、がんばってくれよ。
前にあった時よりも、ヴイーヴルはさらに強さを増しているようだ。
ここまで降ってきただけあって、俺たちと同じく戦闘でランクを上げてきたか。
ヴイーヴルが派手にやっているし、周りからの援護射撃もある。
ただ援護はありがたいが、破壊竜を相手にするにはランクの足りない連中も多い。
このまま暴れまわるに任せれば、死人が出る。
「だから、早く片付けなきゃなあ!」
ちらっと、横目でリリィナが攻撃に参加しているのが見えた。
あいつもようやく気を持ち直したか。
まったくと俺は、正面から破壊竜の振るう竜の爪をかわして、蹴り上げると竜の顔へと到達した。
飛び上がった俺を見て、破壊竜は苦し紛れに喰らいついてこようとするが、それこそが俺の狙いだった。
孤絶で思いっきり牙を叩いて上に飛び上がった。
そして、天井を蹴って一気に破壊竜の頭を突き刺す。
「グギャァアアアアアアアアアア!」
致命傷に次ぐ致命傷、激しく痛むのだろう、破壊竜の盛大な悲鳴があがる。
後はもう暴れるのを押さえつけて、頭を徹底的に潰すのみ。
「いい加減、死にやがれ!」
こうなったら、死ぬまで何度でも突き刺してやる。
こうして俺とヴイーヴルで、苦しんで転げ回る破壊竜の心臓と脳の両方の急所を潰し続けた。
これで、死ななきゃコイツは不死身ってことになるが……。
「ハァハァ、いい加減疲れたなご主人」
さすがに息を荒げて、倒れ込んだ破壊竜の死体の下からヴイーヴルが出てきた。
どうやら背中から切り刻み続けて、下に抜けてしまったらしい。
相当な勢いで切り刻み続けたのか、破壊竜の胴体は大穴が貫通して、心臓どころか内臓までグチャグチャになっている。
ここまでやったら死ぬだろ。
「だな……」
弱みは見せたくないが、俺も全力攻撃をここまで続けてきた。
竜の頭の上でずっと振り回されていて、こうしていても足元がふらつく。
どうやら、見ていても傷口は再生しない。
ここで死んだかと、ホッとしてはいけないのだが、残心の姿勢を取りつつ孤絶の刃から、血と油を拭き取る。
しぶとい敵だった。
「美味しそうな赤身の肉デス」
「ウッサー、お前食べる気なのか?」
美味そうだと、うーむ。
よくよく見て見れば、レッドドラゴンとそんなに変わらないように見えるな。
仮に毒があっても、毒消しポーションもあるし。
「まあ、試しに食ってみるか」
「そうこなきゃデスよ!」
ドラゴン肉はどんなものでも美味いって相場が決まってるからな。
弱肉強食だ、強敵を喰らうぐらいの気持ちでいいだろ。
「リリィナもいいよな?」
「うん……」
リリィナは、まだ元気が無いようだ。
どうせ、今更追ってもロードナイトには追いつかない。
俺に最下層で待っていると告げたのだから、そこまで行ってやればいい。
和葉が喜々として調理の準備を始めるのを横目で見ながら、俺はヴイーヴルに外の様子を聞いた。
「ん、なんだお前もいたのか?」
誰かと思えば、猫忍者のニャルだ。
こいつも、久しぶりだな。
戦闘中はどこに隠れていたのか、こうして今まで気が付かなかったところをみると、こいつも隠蔽スキルぐらいは上がったのか。
「いたのかじゃないニャ! ニャルは巻き込まれただけニャー!」
ちょこまかと逃げ隠れようとしているところを、ヴイーヴルに見つかって首根っこを掴まれている。
情けなさそうに猫耳を垂れ下がせているのを見ると、思わず笑ってしまう。
「ダンジョンだから、盗賊がいるかと思って連れてきたんだ」
「ニャルは盗賊じゃなくて、マスターランクの上忍ニャぞ。お前も、なんとかいってやってくれにゃぁ!」
マスターランクの上忍とか、もうここでは雑魚過ぎて笑う。
「連れてきても役立たずだっただろ」
「ご主人はよくわかるな。こいつを連れてきてみたら、結局いらなかった」
「ニャー! いらなかったら離してくれニャ。いや、ここで放置されても困るニャ。どうやって、こんなところから生きて帰ればいいニャァァ!」
そんなこと、俺たちの知ったことではない。
盗賊の役割にしても、上位互換の久美子がいるから、猫忍者は存在価値ゼロだ。
「そいつはどうでもいいが、ヴイーヴル。外の様子はどうだったんだ」
「ああ、それは前のジェノサイド・リアリティーの時と一緒だ。四方から大量のモンスターがでて、我らを全滅しにかかってきてる」
「そうか……」
やはりロードナイトの言った、世界を滅ぼすってのは本当か。
「だが、我らとてむざむざやられはせん。カーンの都に集結して、やってきた敵を根こそぎ倒して抵抗しているぞ」
「そうか、じゃあ滅ぶって向こうのでまかせか」
「いや、あの分だとずっとは持たない。なにせ、敵は無尽蔵に湧いてくる」
「結局は、この騒ぎを沈めなきゃ、この世界も持たないか」
ジェノサイド・リアリティーが、種族の絶滅を賭けた生存競争であることに違いはないのだ。
このゲームだと、次元転移装置「ゾロアリング」が完全に起動してしまえば、この世界の覇者は、転移してくる化物に取って代わる。
「だから我もご主人を手伝いに、こうして馳せ参じてきたわけだ」
ああ、それは助かったよ。
「じゃあ早速、世界を救いに行こうかと言いたいところだが……」
「ハハハッ、腹が減っては戦はできぬだな。我も、ここまで急いできて腹が減っている」
ドラゴンの肉が焼ける、やたら美味そうな匂いが漂ってきた。
戦うためには、飯を食うことも必要だ。
どれ、破壊竜の肉の味を味わってみようではないか。
「美味いデス! 美味いデス!」
まったく、食いしん坊のウッサーは、ろくに焼けてもないうちから次々と破壊竜の肉に喰らいついている。
すでに毒味は済んでるなとヴイーヴルと笑いあって、俺たちは和葉の焼いてくれた肉汁が滴るドラゴン肉の丸焼きにかぶりつくのだった。
次回1/21(日)、更新予定です。





