201.破壊竜
まばゆいばかりの光のブレスを吐きかけた破壊竜。
だが、俺達の動きは素早かった。
からくもブレスを飛び越えると、俺は破壊竜の巨大な頭目掛けて飛びかかる。
どんな生き物でも、生物である以上は頭か心臓を潰せば生きていられない。
狙いやすいのは頭だ。
左右に展開した連中は、直接攻撃はできてないが、ありがたいことに特殊部隊の連中がライフルを連射していた。
もちろん、銃の弾なんかで破壊竜の鱗は砕けないが、注意をそらしてくれるだけで十分助かる!
「死ねよ!」
最初から全力でいく。
刃渡り一メートルを超える孤絶の刃が、深々と破壊竜の額に突き刺さった。
「グガァアアアアアアアアア!」
凄まじい悲鳴を上げたが、深々と突き刺さった刃は抜けない。
俺はさらに、ズブリズブリと、刀を突き刺していく。
「ガハァ」
思わず声を上げてしまう。
破壊竜の首が跳ね上がり、俺は思いっきり天井へと叩きつけられた。
だが、それほどダメージはない。
新しく強化された鎧のおかげか。
俺は何度天井や壁に叩きつけられても、刀の柄を離さなかった。
ここで倒しきってやる。
そんなに叩きつけても、むしろその勢いで刃がさらに食い込むだけだ。
やがてぐさりと脳の中心に刃が突き刺さった感覚。
それと同時に、ぐったりと破壊竜は頭を地に伏せた。
脳をやられれば、どんな生物も生きてはいられない。
「頭を潰されれば終わりか。やけにあっけなかったな」
俺は、破壊竜の頭から孤絶の刃を引き抜く。
ロードナイトの姿は次の階層に続く階段へと消えたが、今から追えば間に合うかもしれない。
ダメージをヘルスポーションで回復して次の階層に進もうとすると、後ろから叫び声があがった。
再び、破壊竜が立ち上がったのだ。
「グギャァアアアアアアアアアア」
殺されかかったことで怒り心頭に達したか、頭にギンギン響く大音量で絶叫しながら、巨大な首を振り回して暴れまくっている。
「真城殿、こいつはまだ!」
「わかってる」
リチャード中尉に言われるまでもない。
頭を潰しただけでは、破壊竜は死ななかったのだ。
それどころか、さっきよりも元気に動き回っている。
明らかな致命傷を完全回復、世界を喰らう竜だというのだから、まあそれぐらいはするか。
とりあえずわかったことは、頭を潰されてもすぐ復活するってこと。
「ならば、次は胴体を狙うぞ!」
頭を潰しても生きているような生物なら、身体に血を送る心臓を狙うのがいい。
「散開しながら一斉射。味方には当てるな!」
リチャード中尉は、相変わらずいい判断で指示を出してくれる。
こいつに生半可な攻撃は通用しない。
直接攻撃は、倒しきらなければこっちがやられるだけ。
しかし、どんな攻撃でも当たれば注意を引くことはできる。
竜からすれば蚊に刺されたようはもんだろうが、八方からの遠距離狙撃で気をそらしてくれればこっちは大助かりだ。
部下はこんなに頑張っているというのに――
「リリィナ!」
お前はバカなのか、バカなんだな!
リリィナが、破壊竜が迫る前にうずくまったまま動かない。
踏み潰されるつもりか!
ともかく、助けないわけにはいかず俺は滑るこむようにして、迫り来る破壊竜の足を斬り裂いた。
「グギャァアアアアアアアアアア」
再びあがる破壊竜の甲高い悲鳴。
俺は泣いているリリィナの首根っこをつかむと、後ろに思いっきり放り投げた。
小さい声でお父さんがどうこう言ってたが、破壊竜を目の前に、戦闘不能に陥ってるお姫様を慰めている暇などない。
「後ろで反省してろ、馬鹿が!」
死んだら、大事なお父さんとやらと話すこともできなくなるだろ。
しかし、オヤジか。
まったく、父親なんて子供の気も知らず、ろくなもんじゃねえよな。
一瞬にして迫った竜の爪を、俺は辛うじて孤絶の刃で止める。
――がっ、デカブツの凄まじい痛撃を殺しきれず、俺は激しく吹き飛ばされて地面を転がる。
ここで、鎧の補強がありがたい。
あの時、瀬木が提案してくれて強化していなければ、もうここで防具がダメになっていたところだろう。
「熱量 炎 電光!」
俺は、転がりながら魔闘術で両足にマナをオーバーロードさせて、壁まで吹き飛ばされた反動も利用し、飛び上がった。
狙うは、破壊竜の胴体だ。
次こそ、心臓を一突きにして屠ってやる!
「グギャァアアアアアアアアアア!」
俺は身体をぶつけるように破壊竜の巨体にぶつかっていった。
この手の巨大生物を相手にするのは、慣れている。
精神を一点集中させて、刺突――
貴様の、心臓はここだ!
「どうだ」
――当たった! プツンと、命を刈り取った感触はあった。
だが、次の瞬間に俺の身体は吹き飛ばされた。
全力攻撃の直後だ、受け身も取れない。
孤絶を手放さなかったのは、意地のようなもの。
「カハッ、恐竜映画かよ」
アトラクションとしてもキツすぎる。
俺は、転がった先で血反吐を吐いて立ち上がる。
多少ダメージは喰らったが、刀も鎧はまだ無事だ。
致命傷を二度受けても、その瞬間に起き上がって、迫りくる竜の巨大な頭に孤絶を構える。
俺はその猛烈な牙の噛みつきを、なんとか刀で払って避けた。
さて、どうする。
「苦戦してるようだな、ご主人!」
俺を再び丸呑みにしようとする破壊竜の頭を、飛び込んできた何かがドカッと蹴り上げた。
誰だと思ったら、悠然と長い緑の髪をなびかせてる竜人の女だった。
髪から二本の黒角を生やし、緑色の鱗の尻尾を得意げに揺らしている。
「ヴイーヴルか」
一人だけ外の世界にいて、カーンの街や領地の守りを任せていた竜人族の祭祀王ヴイーヴルだ。
俺を追いかけて、ダンジョンを降りてきたのか。
「なんだご主人、久しぶりで妻の顔を見忘れたか」
「おい、お前を妻にした覚えはないぞ。どさくさに紛れて、勝手な設定を付け足すな!」
ヴイーヴルは、カハハと笑う。
「それで、この馬鹿でかい竜を倒せば良いのか?」
「ああ、こいつは頭を潰しても、心の臓を潰しても、異常な生命力ですぐに回復してまったく死ななくて困っている。お前ならどうする?」
こいつは竜人だ。
同じ竜種なら、良い手を思いつくかもしれない。
「それなら、両方同時に潰せばいいではないか」
「なるほど」
ヴイーヴルらしい、乱暴な考えだ。
ま、やってみるか。
次回1/14(日)、更新予定です。





