199.新しい鎧
「ハァ……クソどもがぁ! まだだ、まだ終われるか!」
真っ二つにされたドレイクから抜け出た暗黒神デスパイスは、まだ生きていた。
だが、すでにその圧倒的な存在感は失われてている。
「大丈夫、今度は逃さないよ!」
瀬木が、聖者の祈りの光でデスパイスを囲む。
「逃がさないだと、この暗黒神デスパイスに向かって、人間ごときがふざけるなぁぁ! 今に見ていろ。ラストデーモン!」
デスパイスが呼ぶと本来の階層ボスであった、最後の悪魔が現れた。
いまさらボス頼みか。
「それで、どうするつもりだ」
「ついに我を怒らせたな。後悔するがいい、愚かなる人間どもよ!」
デスパイスは、ラストデーモンを乗っ取るとただでさえ禍々しい悪魔の身体をさらに不気味に神化させる。
身体が醜く膨れ上がり、身体からたくさんの手足が生えてきた。
まるで、不格好な阿修羅像のようだ。
ラストデーモンは、デーモンの最終形態であり、洗練された魔王のような雰囲気だったのだが。
こいつに乗っ取られると、腐ったアンデッドの気持ち悪い感じになるからホント嫌だな。
誰に殺られるとしても、こいつら憑依系の敵には殺られたくないものだ。
「瀬木、逃がすなよ。ここでコイツは殺し切る」
「もちろん!」
「だがら! ふざ、ふざげるなぁぁ!」
怒りに任せて、ラストデーモンの巨体を暴れ回させる暗黒神デスパイス。
こうなったら底が見えてしまって恐ろしくもない。
俺は、醜く膨れ上がったラストデーモンのたくさんの足や手を次々と斬り刻んでいく。
「お前の動きには無駄が多いな。さっきのは、ドミニクが強かったんだ。お前が強かったんじゃない」
「ふざけげげ!」
飛び出てくる無数の腕らしき物体を斬り刻むと、頭に思いっきり孤絶をぶっ刺してやる。
アンデッドではなかったのか、汚らしい血が飛び散る。
「ほら、なんとか言ってみろよ。減らず口をたたく時間も、もう無いぞ」
手足を全てちょん切られたラストデーモンは、あまりにも弱く無残なほどだった。
科学の粋を結集して作られた強化装甲だったから、それを操っているのがドミニクだったから強かったのだ。
何が神だ。
人間に寄生するだけの虫けらが。
たかが、十五階層のボスを神化したところで、先程のような脅威は全く感じない。
「ふげ、やべろ……」
「やめるわけが」
無いだろうが!
デーモンの急所は、人間の急所と変わらない。
抵抗する手足を斬り刻み、俺は頭と腹を完全に潰しきった。
暗黒神デスパイスは、死に絶えたラストデーモンの身体から飛び出ると、また逃げようとする。
逃がすわけがない。
「くそがぁ、やべろぉ!」
追い詰められれば、まるでわがままなガキだな。
邪神も底が抜ければこんなものなのかと思いながら、俺は霊刀を抜いてとどめを刺すことにした。
もはや、ラストデーモンは蠢く肉の塊でしかない。
本当の敵、暗黒神デスパイスは瀬木が作り出した光の障壁に包囲されて、逃げようとあがいている。
「地獄に落ちろ」
「ぎゃぁあああああ!」
霊刀に魔闘力の力を込めて、暗黒神デスパイスの首を叩き切ると、ついに小うるさい叫びも聞こえなくなった。
「ふう……」
「やったね、真城くん。もうアンデッドの気配はないよ」
「こいつら寄生虫は、殺しきらないと厄介だからな」
戦闘の後始末もかねて、しばらく用心していたが本当に消滅したようだ。
久美子がやってくる。
「真城くん。鎧がボロボロじゃない。防具ならいいのがあるわよ」
「あ、ああ。だな……」
これまで長らく使ってきたかつての最強装備、当世具足の鎧も釘打ち機で穴だらけにされて、使い物にならなくなった。
「サムライ装備だと、赤備え二枚胴具足とか、式正鎧とかあるわよ。どれもジェノリア最強格の装備だわ」
気が利く久美子は、ちゃんと代わりの鎧を宝箱から回収して、ストックしておいてくれたらしい。
それはありがたいのだが……。
「うーん、動きにくそうだな」
ジェノリアも、続編の最強装備となるとこうなってしまうのか。シンプルな当世具足と違い、装飾がゴテゴテとついている大鎧になってしまう。
俺の戦闘スタイルと、あんまり合わない感じがする。
「ねえ真城くん、これを修理に使ったらどうかな」
「修理?」
瀬木が持ってきたのは、ドミニクが使っていた機械化装甲の破片だった。
神化の時の影響なのか、素材が青白く輝いている。
「一応調べたけど、呪われたりはしてないよ」
「でもお前、鍛冶なんかできないだろう」
多彩な家事スキルを持っている和葉ですら、鍛冶はできない。
修理なら、街に戻ってNPCの店に頼らないといけなくなる。
「今がこれを使う時なんじゃないかと思って」
「ああ、そうか黄泉の『混沌の鍛冶鎚』か」
瀬木は、『性転換の杖』を探すのに黄泉のアイテムをかき集めていたのだが、これは壊れた鎧同士をくっつけて一つにできるレアアイテムである。
黄泉のアイテムは、ゲームバランスというものを一切考慮していないので、もちろん鍛冶スキルがなくても使える。
「それは、私からもお願いしたい。死体を残すわけにはいかないが、ドミニクも私たちと共に戦いたいはずだ」
沈痛な面持ちでリチャードのおっさんがいう。
アメリカ人にも、そういう供養みたいな感覚があるのか。
「じゃあ、やってみるか」
さんざんと苦戦させてくれたドミニクの力を取り込むと考えれば、面白い。
俺は、瀬木から『混沌の鍛冶鎚』を受け取ると、穴だらけになってしまった当世具足をベースに、かき集めた機械化装甲で穴をふさぐように修理した。
単に修理というわけではなく、二つの鎧の残骸が一つに混じり合って、まったく新しい装備が生まれる。
青白く神化された機械化装甲の硬さと、ジェノリア最強装備の靭やかさ。両方の特性を持った装備として生まれ変わる。
「すごく使えるアイテムなんだね。もっとあればよかったのに」
「ゲームバランスが崩れるから、さすがに出現率は極端に低いんだろう」
身体にしっかりと馴染むし、動きやすい。
当世具足をベースにしたおかげで、ちゃんとサムライ専用装備になっているようだ。
現代技術の粋と神化が合わさった、新しい時代の当世具足か。
「ふむ、悪くない」
こうして装備も整えて体力も回復させる。
そして、犠牲者の死体が二度と利用されないように処理を済ます。
俺達は気を引き締め直して俺達は十六階層へと降りていく。
ゲーム通りならば、地下二十階に次元転移装置「ゾロアリング」がある。
それまでには洞主とやらの正体も、やろうとしてることも明らかになることだろう。
いよいよ戦いも佳境だ。
次回は12/31(日)、更新予定です。