194.合流の糸
敵はアラクネーに憑依した霊王デシート。
本体である霊体を倒さない限り、アラクネーの身体は何度でも回復され続ける。
唯一、霊体にダメージを与えられる霊刀は、分断された前の部屋にある。
さてどうする。
「答えは、力ずくだ!」
「ぬうっ!」
俺は、孤絶の斬撃を全力のスピードで浴びせた。
もはや防御など考えない。
いや、攻撃こそ防御!
無限の回復を無視すれば、こいつの攻撃なんか大したことはない。
蜘蛛の八本の足を、腹を、アラクネーの本体部分を、回復できないまでに徹底的にみじん切りにしてやる!
「うぉおおおおおお!」
「まさか力ずくだと、バカが!」
余裕を崩さなかった霊王デシートだが、その余裕ぶった顔はしだいに苦渋に変わっていき。
ついには、操っているアラクネーの身体を後退させた。
まだ終わらない。
逃げても、追いかけて斬り刻み続ける。
「どうした、なぜ逃げる。無限回復じゃなかったのか?」
「回復はさせられるが、グッ!」
どうやら、ダメージがないってわけじゃないようだな。
もちろんこれで終わらない。
俺は、斬り刻まれては回復しようとする敵の身体を斬りつけながら、魔闘術で右腕にマナをオーバーロードさせつづけていた。
「放散 創造 敏捷、放散 創造 敏捷……」
俺の右腕が燃えるように熱くなり、溜まりに溜まったマナが暴発しそうだ。
強い光を放ち、パチパチと紫色の電気まで帯び始めた。
「それは、何をするつもりだ!」
「最終 炎 飛翔!」
答えの代わりに、たっぷりとマナをオーバーロードさせ続けた腕で、最大の炎球をぶちこんだ。
「ぐぁああああああああ!」
ただでさえ強烈な獄火が、ブーストを繰り返したマナの暴走で更に高温となり、プラズマと衝撃波の噴出が起こっている。
フレアバーストとでも言うべきか。
太陽の塊のような炎球が直撃して、決して破壊されることのないダンジョンの壁が、マグマのように焼けただれて火山地帯のようになっていた。
まともな人間が近くにいれば吹き飛ぶだろう、周りに人がいないからこそできる荒業。
これにはもはや回復する間もなく、アラクネーの身体は分子レベルにまで粉々に砕けて消え失せた。
「どうだ、まだ回復できるか?」
「うあああ、無茶苦茶しおって、だがどうするつもりだ。依代を消し飛ばしても、霊体である我が身は不滅であることにかわりなし!」
まだ霊王デシートは、そんなことをほざいてる。
寄生生物が勝ち誇って見せたところで、お前も霊体だけではこちらにダメージを与えられないから手詰まりだろ。
「後は、まあ仲間を信じるってとこか」
臭いセリフだが、今の俺は一人ではない。
ボコッと音を立てて、蜘蛛の糸に塞がれた通路が開く。
さっきのフレアバーストの余波で蜘蛛の糸はだいぶ崩れていたし、そろそろだと思っていた。
味方が、内側から囲みを破ってくれたのだ。
「真城くん!」
聞こえてきたのは、俺を心配する瀬木の声だった。